こうして、ドンムアン空港に降り立つのは、もう何回目になるのだろうか。
バンコクへ行く事が、まるで電車に乗って近場に出掛けるくらい簡単な事のような、そんな錯覚さえ覚えてくる。

異国の地へ赴いているという実感が無くなってきたという事は、心のざわめきが薄れてきたという点で、悲しむべき事なのかもしれない。

リピーター、フリーク、色々と表現の仕方はあるが、それも度を越さない程度までだろう。
少なからず人には慣れが生じ、それが飽きるという感覚へ変わっていく。
4年前に初めてバンコクを訪問した時に感じた全ての新鮮な感覚、それが今や失われつつあった。

その日、私はナナ・プラザ3階の『カーニバル』から『ハリウッド・ストリップ』へと、ショバ替えして、友人達と飲んでいた。

バンコクに着いてから、言葉にならない閉塞感・虚無感を感じていた私は、何かこう馬鹿な事をしたいなと思っていたので、カラオケ辺りでオンナを物色するというより、ゴーゴーのノリで、飲んで、騒いで、憂さ晴らしをしたい、そんな気分だった。

それこそ、一杯目は普通にオーダーしたのだが、友人の一人が酒豪であったため、“テキーラをボトルで持ってこい!”とウェイトレスに注文した所、一瞬、怪訝そうな表情をしたが、すぐさま店の奥へと走っていった(テキーラのショットグラス一杯が85Bt、ボトル一本が1900Bt、どちらがトクかは自明の理)。

やがて、ウェイトレスが、トレイにテキーラのボトルとショットグラス、山盛りのライムと塩を乗せて戻ってきた。

まず乾杯。

焼けるような熱い液体が喉を、胸を通り過ぎていく、と同時に顔全体に温もりが走るのが良く解る。
それを遠目で見ていたウェイトレスの一人が、‘私にも一杯頂戴’という顔つきで自分を指差していたので、手招きして彼女を呼び寄せ、一杯ご馳走する。

顔を顰めながらもグッと一息で飲み干し、手早くワイをして去っていく。
やはり、ゴーゴーでテキーラをボトルで頼む奴等というのはそういないようで、通りかかるウェイトレスやダンサー達、果ては周りの客達までもが”あいつら何やってんだ?”という物珍しそうな顔付きで、こちらをチラチラと見ている。

そうこうするうちに、タダ酒が飲めるという事が判ったのか、我も、我もと、オンナの子達が群がってくる。

そんな時に、私の携帯が鳴った。



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