2016年11月23日
認知症を生じる疾患③
【レビー小体型認知症】(DLB)
DLBは初老期・老年期に発症し,幻視に代表される特有の精神症状およびパーキンソニズムを主症状とする臨床症候群である.
・DLBの中核的特徴
①注意や覚醒レベルの変動を伴う認知機能の動揺,②現実的で具体的な内容の繰り返す幻視,③特発性パーキンソニズム
・DLBにおける誤認
DLBではCapgras症候群,Fregoli症候群,幻の同居人,重複記憶錯誤,単純人物誤認が近縁症状である.・Capgras症候群:「目の前の人物が別の他人に入れ替わっている.」
Fregoli症候群:「特定の人物が多くの人に変装している」
・人物誤認の神経生物学的基盤
人が家族や友人と接するとき,相手を正しく認知するためには顔を正しく認識し,相手に関する記憶を呼び起こしている.それは同時に相手に対する親近感や好意などの情動が伴う.
大脳辺系-傍辺縁系は,①エピソード記憶や自伝的記憶の想起に関する領域,②顔の認知,特に親しい人物の顔を認識する際に働く領域,③情動反応や情動記憶に関与する領域のインターフェース部分に相当する.たとえばCapgras症候群については,大脳辺系-傍辺縁系に機能不全が生じることにより,情動を伴う記憶(顔―情動の統合的記憶)と実際に近くした相手から生じる情動反応(親近感や好悪)に不一致を生じる.正しい記憶や判断力であればその矛盾は論理的に解決できるが,前頭葉機能障害が加わることで誤った認識や信念に対する矛盾検出・解決能力がうまく働かず,「目の前にいる相手に親近感を感じないのは,その妻のような人物は偽物だからだ」という考えが形成されても修正ができない.
認知症の精神症状は,周囲との関係性における心理社会的要因の影響を受けるが,それも含めて疾患特有の病態生理学的変化が反映される.介護者が叱責することで人物誤認などが悪化することがあるが,それを人物誤認の神経生物学的基盤で考えると,叱責する家族に対して扁桃体などを介したネガティブな情動が強くなるか,側坐核などを介するポジティブな感情反応が減少し,相手についての統合的記憶とのズレがさらに拡大するために誤認を生じやすくなるのではと考えられる.