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あの人のぬくもりを感じていたくて、じっとしていたのです



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学生のころ。
別れは突然にやってきました。

ひとり暮らしの私の部屋にやってきて、「今日は泊まっていく」と言いました。
多摩川沿いにあった私の部屋。
多摩川でボートに乗ったり、おつまみを一緒につくっておいしいお酒を飲んで。
そうして、朝を迎えました。

なんとなく、うっすらと。
そういう予感はありました。
いわゆる女の勘というやつかもしれません。

私の部屋に来てから朝まで。
いつもと違う何かを感じていたのです。
いつもより優しい…ただ優しいというのではなく。
優しさの中に、切ない何かが見え隠れしていました。

トーストを焼いて。
ベーコンエッグとサラダを作って。
一緒に朝食を食べていた時です。

「しばらく会うの、やめよっか」
と。
とても言いにくそうに、あの人は言いました。

その言葉を聞いて私はふに落ちたのでした。
ああ、そういうことだったんだ。
優しさに包まれながら、どこか切なさを感じていた感覚は、これのことだったのだ、と。
あの人はこの言葉を昨日からひとり、抱え込んでいたのでした。

「それって、別れようってこと?」
私がそう聞くと、あの人はただ黙ったまま肯定も否定もしませんでした。

あの日、私たちは一緒に小田急線の急行に乗って、それぞれが向べき場所に行きました。
新宿駅のホームで私は南口方面に、あの人は違う方向に。
「じゃあね」
「うん」
いつものように別れたけれど、これからはもうこうやって会うことはないのだと思うとそれは他人事みたいに思えました。

一日を忙しく過ごし、また一人暮らしの部屋へもどり。
部屋のソファに座った時。
他人事みたいに思っていたことが、急に現実の事としておそいかかってきて、泣きじゃくりました。

昨日まで二人でおさまっていたソファに、あの人の温もりを探してしばらくそこで泣きじゃくっていました。
温もりなどあるはずもないそのソファから、離れることができずじっとしていました。


今でも思い出すと胸がきゅんと締め付けられます。


ぴよちゃんが。
どこにいるのかと思ったら。
私のソファで何かを探すように。
てくてく、キョロキョロとしていました。
そして。
羽根をのばしてくつろぎ始めました。

私の。
温もりを感じてくれているのでしょうか。

そんなぴよちゃんを見ていたら。
温もりを求めて、ソファから離れることができなかったあの日の私を…
ふと、思い出していました。





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