空と 海と 君と 14 | Blue in Blue fu-minのブログ〈☆嵐&大宮小説☆〉

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嵐、特に大野さんに溺れています。
「空へ、望む未来へ」は5人に演じて欲しいなと思って作った絆がテーマのストーリーです。
他に、BL、妄想、ファンタジー、色々あります(大宮メイン♡)
よろしかったらお寄りください☆

  

 

 

 

― 和也 3年前 ―

 

 

 

金曜の夜、潤がいきなり和也の部屋を訪ねてきた。結婚して2年、妊娠初期の妻の美紗の代わりに、明日のパーティーに同伴してほしいという。

 

 

「夫婦で招待されたんだけど、美紗の悪阻が酷くてさ。頼むよ」

 

 

玄関先で押し付けられたアイボリーホワイトの招待状には 『Gallery Sakura opening ceremony』 とネイビーの文字で印刷されていた。

 

 

「画廊?」


柔らかな印象の眉を少しだけ下げて潤に問う。

 

「僕、絵とか興味ないし…」
 
頷く潤に小さく言葉を返せば、
 
「誰も絵を鑑賞しろとは言ってねぇよ。せっかく招待されたのに、勿体ないだろ?タダ飯だぜ?」
 
グイと顔を寄せてくる。
 
「でも…」
「そのオーナー、俺の幼なじみなんだよ。祝ってやりたいじゃん」
 
封筒の表には手書きの筆文字で、潤夫婦の名前が丁寧に書かれていた。決して上手いとは言えないが、キッチリとした四角い文字には好感が持てる。
 
 
「お前も会ったことあるんだぞ。大分昔だけど」
 
封筒を裏返してみる。
 
「…櫻井、翔…さん?」
 
同じく筆文字の『櫻』は、小さな『貝』の線が重ならないようにと一画一画、真横に真っ直ぐに引かれている。字面から几帳面人物像が窺えるが、やはりその名は記憶に無い。
 
「中3だったっけ? 翔がうちに来た時カズもいたじゃん。サッカーの話、したろ?」
 
首を傾げる和也を、潤が太い眉をピクリと上げて睨むがしょうがない。
 
「全然覚えてない
 
「…んだよ。ま、いっか。とにかく明日6時、現地集合な」
「…う…ん…」
 
幼い頃から和也はこの3歳上の従兄に逆らえたことがない。
頭が良くて優しくて、面倒見が良くて頼りになって、フットワークも半端なく友人も大勢いる。
おまけに、もの凄いイケメンで。
 
行くよな? とキラキラの眼力で念押しされれば、頷くしかない
 
「わかった。美味いモノがタダで食べれるんだもんね。行くよ」
 
 
「よし!」
 
そして、笑顔がものすごく可愛いのだ。
かなり強引な性格も、許してしまうほどに。
 
「あ、ちゃんとスーツ着て来いよ」
「…成人式ん時のしかないけど…」
「だっせぇな。まぁ、いいよ。でもお前さ、社会人なら良いヤツ一着くらい揃えとけよ」
「だって、いらないし…」
 
和也の働くディスプレイデザインの会社では、営業職以外はスーツなど必要ない。社長でさえいつもラフな服装をしている。
 
「オトナになったら、冠婚葬祭やらなんやらで必要なんだよ!今度、美紗と一緒に選んでやるからな」
 
 
いつものように大きな手で和也の頭をクシャクシャとやって、潤は帰って行った。
手を振りながら背中を見送って、小さくため息をつく。
 
カッコよくて優しい従兄のお兄ちゃんは昔から和也の憧れだった。
…そして初恋の相手でも。
 
 
 
潤は和也がゲイであることを知っている。中学の頃、何かの拍子に問い詰められ、あの鋭い目に負けてカミングアウトしてしまったのだ。
 
「やっぱな。そうだと思った」
 
潤はニヤリと笑って頭をクシャッとやった。
そして、そのまま大きな手で頭をグッと掴んで引き寄せると、急に真面目な顔に戻して、
 
「いいか、世の中、バカなヤツが多いから、なんかあったら俺に言えよ。ぶっ飛ばしてやっから」
 
と、低い声で言った
和也は うん… と頷きながら、たった今、自分が失恋したことを悟った。
 
きっと、自分の想いは伝わっていた。何事にも敏い潤が気づかぬはずがない。その上で、
”俺は相談相手にはなるけど、その先には何もないんだぞ”ということを和也に伝えたのだ。
 
 
優しくて頭のいい潤…。
 
 
幸い、潤の拳がさく裂するようなことは何もなく、和也はそのセクシャリティを抱えたまま大人になった。
それなりに恋もした。高校を卒業してからは世界も広がり、同じ種類の相手と付き合ったこともあった。でも3ヶ月と続いたことはない。
 
原因は分かっている。あのパーフェクトな従兄のせいだ。心のどこかで目の前のオトコと比べてしまって、少しずつ気持ちが醒めてしまうのだ。
 
その悪循環。
 
 
ただでさえゲイの恋愛は難しいのに、このままではますます縁遠くなってしまう、とドアにカギを掛けながら知らずに和也の口は尖っていた。
 
ふと、思う。
 
…潤とは距離を置いた方がいいのかもしれない。
自分のためにも、潤のためにも。
 
クローゼットの扉に掛けた手が止まる。
 
あと8ヶ月したら潤の子供が生まれる。
いいタイミングなのかもしれない。
 
(もう、僕も自立した大人だし守ってもらわなくてもやっていける。…きっと)
 
グイと両開きのクローゼットの扉を引く。
 
そういえば、一人暮らしを始めてからスーツを出すのは初めてだと気づく。
 
前に着たのは、潤の結婚式の時だった。
 
 
 
 
 2年前、和也が大学の工業デザイン科を卒業して今の会社に就職した年の秋、まだ医学生だった潤が結婚した。
 
 
いつかは来ると思っていた日が、まさかこんなに早いとは思ってなかった和也は、手を伸ばしても決して掴めやしないんだというリアルな現実を突きつけられて、招待状が届いてからずっと落ち込んでいた。
 
 もちろん、当日は気持ちも体もどん底で、それでもなんとか一日をやり過ごして家に帰った。深酒の縺れた足では自室に辿り着けずに、フラフラと倒れ込んだリビングのソファ。
 
 
 いい式だっただの、お似合いの夫婦だっただの、神経を逆なでするような母と姉の会話が耳をズキズキと侵して、そしてトドメにガサガサ引き出物を解きながら、
 
「そのうち和也も…」
 
などと、期待を込めた熱い眼差しを向けられた頃には、冷え切ったココロと沸々と滾ったアタマを制御できなくて、ガバッと体を起こすと酔いに任せて家族にぶちまけてしまったのだ。
 
「僕には何も求めないで! 僕は、男の人しか好きになれないんだから!結婚なんか、一生出来ないんだからっ!!」
 
と。
 
一瞬の沈黙。そのあとの修羅場。
散々怒鳴られ怒鳴り返し、互いの言葉が尽きたあとは背を向けて、一つの家の中、ずっと顔も合わせず口も利かず。
 
そんな状態で一週間が過ぎ、どうにも引っ込みがつかなくなって拗れてしまってた家族を、新婚旅行の手土産を携えて挨拶に訪れた潤が取り成してくれたのだ。
 
「カズは何も悪くありません!」
 
潤は両親を前に正座をし、医学的見地、遺伝的見地、民俗学的見地、社会的風潮… 等々、全てを絡めて長々と言葉を並べ、
 
「結論として、認めなくてもいいですから、カズを見守ってやってください」
 
と、静かに深々と頭を下げたのだ。
それには、両親はもちろん和也も驚いた。
 
昔から完璧な潤が、一族の自慢の種の松本潤が、土下座紛いのコトをしてまで息子の身を案じてくれているのだ。
当の家族が折れないワケにはいかなくなった。
 
「潤くん、分かったから、頭を上げて?」
 
母親の穏やかな声でコトは収まったが、それでもしこりが残るだろうからと、互いが落ち着くためにも和也が家を出て独立することを両親に認めさせてくれたのも潤だった。
 
 
「和、私も味方だからね。ずっと、何にも気付いてやれなくてごめんね」
 
数週間後、引っ越しの手伝いに来てくれた5歳上の姉は、クローゼットに服をしまいながら背中で小さく呟いた。
 
「ありがと…」
 
その言葉だけで十分だった。
 
 
 
 
あれから2年が経って、ぎこちないながらも両親とは何とかうまくやっている。
二人の意識が、去年生まれた姉夫婦の子供に向かってくれたこともいいタイミングだった。
 
 
やっぱり、タイミングって大事だ。
潤にはずっと頭は上がらないと思うけど、そろそろ…だよね。
 
久しぶりの出番のスーツには、ヘンな皺が出来ているかもしれない。
大事な従兄に恥を掻かせちゃいけないと和也は唇を引き結び、あの日、姉が片づけてくれたクローゼットの中に手を突っ込んだ。
 
 
 
 
 
 
 
 
続く。
 
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