《 satoshi long interview vol.3 》
初めてかず見た時、なんか不思議な気がしたの。
何が?って聞かれても困るんだけど、
なんかね、見た途端、カラダがブルブルッってなった。
分かり易く?
えと、ほら、あれだよ。
心の中にある糸を弾かれたみたいな感じ?
そうそう『琴線に触れる』、それを言いたかったの。
んふ、ここだけの話、実は、おれの下半身、反応したんだよ。
あ、引かないでよ。
舞子さん大人でしょ?
だからぁ、そんな冷たい目で見ないでよー。
おれだって、びっくりしたよ。
んなこと、生まれて初めてだったし。
別にサカってるワケでもなかったし、ゲイでもないし。
おれってね、性別とかよりも、中身? その個体を好きになるんだ。
翔ほどじゃないけど、若い頃とかどっちかというとモテてたと思うよ。
適当に付き合ったりもしてたから。
そう、いいなって思った個体とね。
でもね、かずはなんか違った。
その、琴線ってやつが、もう、ブルンブルン弾けちゃって止まらなくなっちゃって、勝手に足が動き出しそうになった。
でも、かずにはもう決まった相手がいるって翔がゆってさ、それが、隣にいた男、中学の同級生の松本だって。
もう、がっかり。
松本って、昔、翔と人気を二分するくらいのヤツだったの。おまけに今は医者だっていうし。
ああ、勝ち目無いなって思った。
その上、近々アメリカに二人して引っ越しちゃう予定だって。
あちゃーってなって、目の前、真っ暗。
一瞬で恋をして、一瞬で失恋した。
でもさ、遠目で横顔見ただけなんだよ?
そんな強い想い、…不思議だね。
その頃って、個展に向けて作品描いてた時期だったんだけど、一気に気力が萎えちゃった。
自分でもびっくりするくらい。
ははは、どんだけ~ってなるよね。
…どんだけ、かずに堕ちたんだよって。
かずは、おれから感情とか情熱とかそういうの全部持ってったんだ。
あれ? 激しく同意してるね。
そっか、その辺、舞子さんも知ってるもんね。
うん、酷かったよね。
心配したでしょ。
ふふ。
ちょっとして、さすがにこんなダメ人間のままじゃあなー、って思ってたころに、舞子さんにアトリエから引っ張り出されて『Sakura』に連れてかれて。
やるべきことをやってください!って怒鳴られて絵の前に座らされた。
そ、運命の日。
平日の午後、『Sakura』には誰もいなくて、舞子さん、どっか行って一人にされて。
椅子に座って、頭空っぽにしてボーッと自分の絵、見てた。
そしたらパタパタ足音がして誰か来たんだ。
別に気にすることなくそんままでいたら、おれと絵の間にその足音の主が入ってきた。
瞬間、全身硬直。
かずだよ。
かずが現れたの。
それもおれの目の前、2mの距離も無いくらいの近くに。
もうワケわかんなくて、呼吸が止まった気がした。
かず、絵に夢中でさ、後ろで息殺してるおれのことなんて気づきもしないの。
おれだってパニックだよ。
あれれー、外国、行ったんじゃ無かったっけー?
なんでここにいるんだー?
って。
少しして、ようやく呼吸戻って、かずの後姿見ながら、どうしよ、なんて声かける?
とかドキドキしながら考えてたら、かず、なんかヨロヨロしちゃって後ずさって、そのまま椅子にペタンって座ったんだ。
今度は手を伸ばせば届くとこに、かずがいんだよ?
もー、琴線、全部ちぎれて吹っ飛んだ。
かずがまだ気付いてないのをいいことに、おれ、ガン見!
相変わらずキレイな横顔で、ピンク色した頬に、ウルウルの上目遣いでおれの絵見つめてさ、唇なんか半分開いちゃって、はあはあ、ゆってんだよ。
可愛いやら、色っぽいやらでわわわーってなって、おまけに、前ン時には気付かなかったけど、顎の先にチョコンてホクロがあるの。
その衝撃!
もう、ダメ。
完全にヤられた。
んふ、おれ、思わず前屈み。
だからぁ、引かないでよぉ。
想像してよ。
恋い焦がれた相手がすぐ横で、ナニの最中のような工口い顔してんだよ?
反応しないのがおかしいってー。
いや、おれだってそう思ったよ。
このままじゃ、ただのヘンタイ親父じゃんって。
だから、頑張って声掛けたよ。
「…どうかしたの?」
…もっと気の利いたこと?
思いつくワケないじゃん、そんないきなり。
おれだって一杯いっぱいだったんだから。
そしたらかず、そこで初めておれに気づいたんだろうね。
「ひっ!」
とかカラダが跳ねてヘンな声だしちゃって。
「はい、大丈夫です」
「そっか…」
「………?」
って、不思議そうに小首を傾げる仕草がまた…
…冷たい目で見ないでってばー。
あれ? もしかして、舞子さん、欲求不…
っ痛てーーー!
そうだよ、お仕事でしょ?
おれのインタビュー必要でしょ?
文化芸術部部長としての大事な業務でしょ?
ふふ、んじゃ我慢して聞くしかないよねー。
答え、聞きたくて、声、聞きたくて、顔、見たくて、不躾かなって思いつつ、顔、覗きこんだ。
「ねぇ、どう思う?」
「ど、どうって、僕は好きです。この画家さんが、好きなので…」
「ふーん…」
ちょっと意地悪したくなった。
「どこが?」
かず、円柱際に座ってたから、グイグイ追い詰めて逃げ場失くして、
「どこが好きなの?」
思い切り甘い声でゆってやったの。
かず、益々パニックになっちゃって、口パクパクさせてさ、
「ね、どこ?」
もうおれ、嬉しいやら、照れるやら、おかしいやらで吹き出しちゃって。
体、丸まってヒーヒー笑った。
そのあと、舞子さん来てくれて助かったよ。
かず、真っ赤になり過ぎて溶けちゃいそうだったもん。
おれ、急浮上。
だって、好きな相手がおれの絵を大好きって、それも、エロいって。そんな褒め言葉、言われたこと無かったし。
そっから一カ月と半くらいかな、アトリエに籠って一気に絵を描き上げた。
うん、最高の出来だったよ
かずが好きっていってくれたんだんだから、ちゃんとしたの描かなきゃって頑張った。
そして思った。
おれ、かずとずっと一緒にいたいって。決まったパートナーがいるって知ってる。
それでもいい、声だけでも、気配だけでも感じられればって。
生まれて初めてだったな。あんな想い。