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「で?」
「で、って?」
「どんな奴なの。ソイツ」
フローリングに敷いた麻素材のラグにペタリと座って、俺の作ったチャーハンをモクモク食べてる和に聞く。
「…オレの好きな人?」
スプーンが止まって代わりにキョロリと瞳が揺れた。
「そう」
少しの間のあと、
「部活の先輩。松本っていう人」
「あー、ソイツ知ってる。めっちゃイケメンだろ」
「うん。彼女とかもいるみたい」
そうサラリと言って、またスプーンが動き出した。
ドタバタの風呂上がり、
お前はちっともおかしくないんだ、いくらでもそんな人はいる。
今の世の中、何でもアリだ、テレビにだってみんな堂々と出てるだろ、結婚だって出来るんだぞ…
擦りむいた腰骨にバンドエイド貼ってくれてる和に、思いついたあらゆる言葉を尽くした甲斐があって、
かずは自分のことをポツポツと話してくれた。
5年生の頃からヘンだと思っていたこと。初恋も男の子だったこと。
そして、今のココロ。
松本とは友達だけど、こんなキモチを知られたらきっと嫌われてしまうと、毎日がちょっとキツイということ。
「そっか」
「で?」
「で、って?」
「なんかアドバイスとかしてくれんじゃないの?」
「んー…」
沈黙。
「分かんね」
「分かんないのかよ」
「俺にはムズイ。もちょっと考えさせてよ」
「まぁ、雅紀に答は求めてないけどね」
「何だよ、それ」
「聞いて欲しかっただけだから」
「そうなの?」
「うん、こんなこと、他人に相談したってしょうがないでしょ。自分で自分を受け入れて認めてやるしかないじゃん」
「ほぉー…」
柔らかそうなほっぺ一杯にチャーハン頬張って、もごもご言う。
すげぇな。とっくに自己解決出来てんだ。
「…ただね、雅紀にだけは受け入れて認めて欲しかったのかも。ほかにの誰より雅紀に拒否られんのが、怖かった」
「お前なー、俺がかずのこと拒否るワケねーじゃん」
「うん、そう思う」
「だろ?長い付き合いなんだぞ。それっぽっちのことなんでもねぇよ」
「…それっぽっちのことなんだ」
「かずはかずじゃん」
ぱぁっとかずの表情が明るくなって、俺、正解言えたって思った。
「ごちそうさまっ!」
アイス食べよー、って空っぽの皿持って立ち上がるかず。
目がさ、キョドってた。
大人びたこと言ってても、ほんとは怖くて堪んなかったんだろ?
バカなヤツ。
お兄ちゃんがそんなことでお前を突き放すわけねぇじゃん。
マジ、バカにすんなって感じ。
「こんな高級アイス、ぜいたくー。雅紀にはガリガリくんで充分なんじゃないのー?」
「うっせ、黙って食え」
にこにこ美味そうにチョコチップアイスをスプーンですくってる。
俺はね、ほんとはガリガリくんのが好きなんだぞ。
そのめっちゃ高いコンビニアイスは、お前が好きだからストックしてんだろが。
気付いてねぇのかって。
和の想い人の松本は、俺の2コ後輩でかずの1コ先輩で、見てくれだけじゃなく中身も男気のあるいいヤツだ。
高校ン時バスケやっててわりと目立ってた俺んとこに、新聞部の松本が時々インタビューに来てた。
見た目に合わない礼儀正しさと、真面目なくせに天然ボケなとこが面白くてよくからかってた。
女子にもかなり人気があったけど、中学の頃から付き合ってる同じ年の彼女がいて、その子一途だって言ってた。
最初から報われること無いって割り切ってんのかな。
あ、三角関係にもなれないってことか…。
テレビのバラエティー見ながらアイスぱくついてるかずを見て、なんか、辛くなった。
「なに?食いたいの?ガリガリくん、あったよ」
「ガリガリくんはアイス界のレジェンドだぞ。バカにすんなよ」
「ふふ、バカになんてしてない。オレも大好きだもん」
松本はダメかもしんないけど、この先、どうかかずに幸せな恋が訪れますように。
いつか、『かずじゃなきゃ!』って言ってくれる人が現れますように。
俺は心から願った。
「あー、美味い」
幸せそうな顔しちゃって。
大好きな可愛い弟分がそんな笑顔見せるんなら、アイスぐらい何個でも買ってやるからな。
もし誰も現れなかったとしたら、俺がずーっと傍にいるから。
これまでと一緒、なんも変わんねぇんだぞ。
覚えとけ。
つづく。