私の住む街には、雪が積もる。幼い頃は雪が滅多に降らない地域に住んでいたので、天気予報で雪マークを見るだけで飛び上がって喜んだものだ。それがいつからか、憂鬱に変わった。自分がつまらない大人になったと実感する。雪が嫌なのは、言わずもがな、雪かきをしなければならないからだ。

「雪かき」は、体力的にきつい、時間が勝負、頭を使う、三拍子揃った手のかかる作業だ。全身を使うので、頭から湯気が出るほど汗びっしょりになる。また、放っておくとどんどん固くなって重くなるので、【止んだらすぐかく】が鉄則だ。そして、闇雲にやると、雪の置き場がなくなり、より遠くへ雪を運ぶことになる。雪かきは、なかなか奥が深いのだ。

雪かきは、二部構成である。第一部は、家の雪かき。そして、第二部は職場での雪かき。これらは、似て非なるものだ。

家の雪かきは、一斉清掃のようなもの。ご近所さんとの付き合いの度合いが浮き彫りになるので、油断できない。早朝、除雪車が入った後、外から聞こえるガリガリという音が、雪かきの合図である。年寄りの朝は早いのだ。軽く挨拶を交わした後は、各々、黙々と雪かきをする。どこまで雪をかくか、後から出てきたお隣さんの雪かきを手伝うか、あるいは、手伝ってもらえるかなという淡い期待、―見えない境界線は心の距離を表している。

第二部の職場の雪かきは、お客様のために行う。サービス業に携わっていた頃は、雪が積もると一日中雪かきをしていた。敷地が広いのだ。また、丁寧にやらないと残った雪が凍ってアイスバーンになり、お客様が転んでしまう可能性がある。気を使うのが職場の雪かきだ。

ある日、あまりの大雪に途方に暮れた私は、【一日で終わらないかもしれない】と思い、イヤホンで音楽を聴きながら雪かきをしていた。大雪のせいか、お客様の姿もない。鼻歌まじりで雪をかいていたら、ふいに肩をつかまれてイヤホンを引っ張られた。

「遊びじゃねえんだ、真面目にやれ。」

ぎょっとして振り返ると、普段は軟派でチャラチャラしている先輩が立っていた。

「仕事中に音楽聞いてんじゃねえよ。」

びっくりしたし、意外だった。

―「真面目にやれ」と言う人。雪かきは職場でやれば仕事だということに、私はその時初めて気づいた。以来、職場はもちろん、家の雪かきも丁寧にやるようになった。郵便屋さんや宅配便屋さんが家の前で転ばないように。誰かの仕事が雪のせいで滞ることがないように。

雪かきを始める時、「しょうがない、やるか」ではなく、「真面目にやるか」と思えるのは、先輩のおかげである。