先日、バスに乗っている時に大学の前を通った。その日は入学式が行われていたようで、スーツ姿の新入生とその親たちが列を作り、門の前で順番に写真撮影をしていた。新しい季節がやってきたんだなと、人ごとながら新鮮な気持ちを分けてもらえた。

その時、私と同じようにバスの中からその様子を眺めていたおばさんが、独り言をつぶやいた

「箱根駅伝もだめねぇ。落ちぶれちゃって目も当てられない。」

 

バスが大学前の停留所に止まり、明らかに入学式に出席してきたであろう親子が乗車してきたタイミングで、ため息まじりに口に出したのだ。私は思わず息を呑んだ。

また別の話。

不特定多数の人が集まる研修での出来事。午後の講義が始まる前の休憩時間中に、4,5人で雑談をしていた。お昼は何を食べたかという他愛ない会話だった。そのうちの一人は、病み上がりのため、胃にやさしいものを求めて精進料理の店に行ったと言う。私の心がざわざわし始めた。そして、別の一人がこう言った。

「精進料理~?味しねえだろう。もしかして君は坊さんか!」

 

やっぱり言った。実は、グループの中には本当にお坊さんがいた。その人は、それを知らずに、何の気なしに口に出したのだ。当のお坊さんは、ただニコニコしているだけだった。

 

―思ったことを口に出す人。何の問題もなく、誰が聞いても気分を害さない言葉を口にするのはとても難しいことだ。人にはそれぞれ感情があり、ものの見方も価値観も違うからだ。誰がどう思うかということにとらわれ過ぎてしまうと、スムーズな会話も成り立たないだろう。

 

思ったことを口に出す時は、他人がその言葉をどう理解するか、どんな印象を持つのかを、ぜひ一度想像したい。それだけで、失言や放言を防ぐことができるのではないか。

会話は、想像力だと私は思うのだ。