プレゼンテーションでは、人の心に刺さる言葉をどれだけ使えるかが勝負である。しかも、絶妙なタイミングで使わなければ、その効力は激減する。人を引き付けるためには、話にメリハリをつけることはもちろん、全体のストーリーの中に【仕掛け】を作ることがポイントなのだ。それは、パワーポイントのアニメーションでも、売上見込みの棒グラフでもなく、【言葉】である。

大勢の前で話をしても、個別に面談をしても、言葉が相手に届くと必ず目が合うから不思議だ。【今、刺しました】【今、刺さりました】という意思疎通は、アイコンタクトに裏打ちされている。相手に伝わる話をできるかどうかは、その人の語彙の豊かさが鍵を握る。

ところで、心に刺さる言葉と、口数の多さは比例しない。言葉の重みを知っている人ほど、余計なことを言わないのだ。人を引き付けるためのスキルは乏しいかもしれないが、実に明晰だ。確実に仕留めるための言葉が暗闇で光っている。

私の上司がその典型で、叱る時はガミガミ言うのではなく、強い言葉を選んで使うのだ。今でも忘れられない言葉がある。

「あなたには、資質の欠片も感じられない」

既に絶望の淵に追い詰めらているのに、刺したナイフを更にえぐる。「あなたには、自覚が全く感じられない」という言葉だったとしたら、「すみません」と言えただろう。魂を抜かれた私は、しばらくその場で体育座りをして、ただ息をしていた。

上司は、言葉をたくさん知っていた。手持ちの言葉のカードを、すべて強いものでそろえている。もうこれは、ポーカーでいうところの、ロイヤルストレートフラッシュではないか。

ここから学んだことは大きく、私は言葉の強さを意識するようになった。

―いろんなカードを知って、その時々で人に合うものを出そう―

 

―強いカードを持つ人。言葉を知っていることと、それを使うことはまた別の話である。

ちなみに、その後私は上司とタッグを組んで仕事ができるようになった。そして、上司から「あなたの天職だよ」と言われる日がやってきた。

すかさず私は、「じゃあ、あの時のこと謝ってくれませんか」という強いカードを切った。