ルノー メガーヌ3 R.S. 試乗記

2018/06/30

試乗記



このほどトヨタから新型のカローラ・スポーツが発売になった。若者向けの安価なスポーティーカーというコンセプトは結構だが、もっとガッツリ速いホットハッチがあっても良いんじゃないですかね。

さて、「見た目はお買い物車でも実は速い」という猫かぶりな車が大好きだ、というのがラテン国家の人々である。ルノー・メガーヌR.S.もそんな気質が生み出した珍奇な一台である。もうすぐ新型が発売になる予定ではあるが、3ドアハッチバックは現行までとの噂もあり、記念試乗に赴いた。

ルノーの特別な一台

メガーヌR.S.はメガーヌのホットバージョンであり、「メガーヌ ルノー・スポール」の略称である。だから正式には「ルノー メガーヌ ルノー・スポール」と言ったところ。なんだかややこしいが「マツダ マツダスピードアクセラ」と同じ理屈である。
もっともマツスピは現在休止中だから、国内のライバルと言えばニュルブルクリンクのタイムを競い合うシビックくらいしか居ない。

エクステリア

メガーヌR.S.のエクステリアは非常に独特である。ノーマルの5ドアから比べると、全高も下がり、オーバーフェンダーやセンター出しマフラーの存在感も相まって、完全に別物という印象を受ける。
全体のラインはフランス車らしく非常に流麗で、サイドウインドの上端部からテールまで流れるように連続したラインは秀逸。
よくよく見れば、ルーフスポイラーやフロントバンパーなどに空力を意識した処理がしてあって、「只者じゃない感」を漂わせているのだが、全体的には何やら小動物的な可愛らしさがあるのだ。

今回の試乗車のボディーカラーは「ジョン・シリウス メタリック」という。聞いただけでは何のことか分からないが、要するにルノーのモータースポーツのイメージカラーであるイエローメタリックのことである(トップ画像参照)。この塗装、追加料金必須の特別色なのだが、そのゴールドの輝き方は独特のものなので、興味がある方は是非選んでおくといいだろう。
(黄色は派手で痛々しと躊躇しているアナタ。フランス車ってだけで十分痛いんだからハジけなさい)

ボディサイズは前後上下に短く、横に広いスポーティーな出来上がり。遠目に見てヴィッツやフィットの仲間だと思って近づいていくと車幅に驚くだろう。
ただ、取り回しは非常にしやすいので、駐車場のスペースが許せば、それほど気にするほどではない。問題なのは3ドアゆえの扉のデカさと乗降性の悪さである。隣の車にぶつけないように気をつけよう。

インテリア

インテリアはスポーティーな演出で黒一色……と、思いきやシートベルトが真っ赤!!
これは日本車にはない粋なデザインである。
インパネはごくごく普通※だが、すこし上向きで固定されている。背の低い人はシートポジションに気をつけよう。
ステアリングはちょっと太めで良い感じ。シルバーステッチでトップマーカーも付いている。
※前期型はタコメータが黄色だったが、今回の最終モデルでは黒で統一。

センター部分には液晶のマルチモニターが据えられていて、ステアリング裏のスイッチで切り替えが可能。このモニター、2色表示の上に切り替えの瞬間に残像が残るなど、平成ヒトケタ感MAXだが、その実、ラップタイム記録のストップウォッチ機能や、ブースト圧、ブレーキ踏力など何でも表示してくれるすぐれ物なのだ。オプションでナビを装着した場合でも、取り外してシフトレバーの前方に移設される。

シートは標準でレカロシートを装着。純正らしくサイドエアバッグも装備されている。ホールド感は十分だが、そもそも外人さん向けなので、肩周りは若干余裕がある。身長179cmの私にはちょうど良かったが、細身の女性ドライバーには大きすぎるかもしれない。事前に座ってチェックしておこう。
それから、このシートにはシートベルトホルダーが付いていないので、毎回ベルトに手を伸ばすのが億劫な人は社外品で用意しておくと良い。
座り心地自体は非常にGoodな仕上がり。シートは薄いのだが、体全体をしっかり支えてくれるし、前縁部分のクッションがしっかり効いているので、全く疲れない。
後部座席は……案の定狭い。が、全く使えないわけでもなく、応急用としては実用に耐える、といったところ。

それから小ネタとして、運転席、助手席のフロアマットの下には小さな収納が付いている。ロックナットの鍵とか入れておくのに良いかもしれない。


いざ試乗へ

あ、これは楽しい。と、乗り始めから感じる。それだけは保証しよう。

まず、エンジンについて言えば、このボディに対しては十分すぎるほどのパワーである。カタログ値で273psと言えば、最新のライバルたちと比べ相対的に見劣りする部分かもしれない。だが、トルクの出方が非常に素直でクセがないので、高低差のある峠道の九十九折で細かくスピードのコントロールが求められる場面で、このエンジンの良さが出てくる(逆にハイウェイで直線番長がしたいのなら他の車を買ったほうが良い)。
スポーツモードへの切り替えは、R.S.ボタンを押すことによって行える。これによってエンジンの制御自体が完全に変更され、吹かすとバンバンお尻からアフターファイア音を響かせるようになる。これが非常に気持がいい。また、電スロの設定自体も前述のモニター上で切り替えが可能。シチュエーションに合わせた走りが楽しめる。
ちなみにレッドゾーンは6,000rpmからである。

ステアリングフィールについても上々。しばらくスカスカパワステのぬるま湯に浸っていたので、こういう重くてピュアなハンドルがたまらなく嬉しい。
シフトレバーはややストロークが長い。気になったのは1速の入りがやや渋い(力は要らないが、ガチンとい入る感じ)程度か。

ペダル類(※1)は踏力の具合も良く、扱いやすい。ただ、クラッチペダルはもう少し左でも良かったかもしれない。
ブレーキの感触はあまり初動でガツガツしていないのが好印象。Bremboが奢られているだけあって、効き具合には相当余裕が感じられる(※2)。
※1ノーマルのラバーペダルにアルミカバーを被せた安普請だが、気にしてはいけない。
※2ライセンス生産ではない正真正銘の舶来品Bremboなので、当然低速でキーキー鳴くが、気にしてはいけない。

足回りは、この車の中で最も秀逸な部分である。元々、フランス車の乗り心地は他と一線を画するものがあったが……。
ガンガン元気よく走らせているときは、当然ながら高い路面追従性能を発揮してくれる。非常に安心感があるし、ステアリング操作だけでなく、アクセルのOn/Offへの反応がとても気持いい。それに、高速道路で巡航していても、インフォメーション過多で疲れるなどということもないし、市街地で安全運転していても、コーナーでちゃんと足が粘って仕事をしてくれているのが分かるのだ。
リアサスの追従性も良い。カタログ値で見れば、トーションビームという良く量販車にありがちな安普請の筆頭形式なのだが、それだけで判断するのは禁物である。良いFF車は必ず良いリアサスを持っているのである※。

※FF車のリアは転がるだけの単なる補助輪と思ったら大間違いである。かつて国産某メーカーでも、FFのスポーティーグレードを作るに当たって、角断面で剛性の高い商用バンのリアサスを移植して対応していたくらいである。

総評

国産車と同じ水準で見れば、欠点だらけの車である。
・ドアがやたらでかく、ドアグリップの位置も不便
・ドリンクホルダーが小さく少ない
・オーバーフェンダーの取り付け位置が左右で1.5mmくらいズレている(本試乗車の場合)
・エアコン吹出口の中に製造段階のト書きが残っている(本試乗車の場合)
……etc.

ただし、それらはどれも車の本質とは関係のないところであるし、本車は純粋に走りを楽しむための車なのだ、と考えればむしろ十分我慢できる範囲というか愛嬌と考える部分であろう。
それどころか、これだけの性能を持ちながら、ハッチバックとしての積載性と、お出かけ用のクルーズコントロール、普段使いにも耐える乗り心地がおまけで付いてきていると思えば、超優秀な一台としか言いようがない(※)。
現行型はすでに完売状態とのことだが、欲しいと気になっている人は中古でも手に入れる価値があるだろう。迷ったら買い時である。

※例えば、スバルのWRX STIなどは、市販車ベースのスポーツカーという点こそ共通だが、全く目指すところが違う。こちらはギア比の関係で高速巡航でもエンジンがやかましいし、路面の感触を極端なほどダイレクトに伝えてくる仕様で、長距離移動には全く適していない、言わば楽しさと快適性とがトレードオフ関係になっている車である。
一方メガーヌはバランス型で、そういう意味では非常に懐の深い乗り手に優しい一台と言える。

諸元/メガーヌ R.S.

全長:4,320mm
全幅:1,815mm
全高:1,435mm
ホイールベース:2,640mm
トレッド:1,590mm(前)/1,545mm(後)
車両重量:1,420kg
乗車定員:5名

エンジン:F4R 直列4気筒DOHC16バルブ
総排気量:1,998cc
最高出力:273ps/5,500rpm
最大トルク:36.7kgm/3,000rpm
燃料タンク容量:60L(無鉛プレミアム)

駆動方式:FF
変速機:6MT
サスペンション:マクファーソン・ストラット(前)/トーションビーム(後)
制動装置:ベンチレーテッドディスクブレーキ(前)/ディスクブレーキ(後)

タイヤ:235/40R18(前/後)