お兄ちゃんの夢は、得意の剣でだれよりも強くなることです。

「ぼくがどんな強いやつも、やっつけてやる。」

でも私は、戦いでお兄ちゃんがけがをして帰ってくるので心配です。

 

 

 

 

   

ある年、山に火事が何度も起こりました。

昔から山に住む怪物のしわざです。

火はだんだん町に近くなり、お兄ちゃんが言いました。

「ぼくが行って怪物を退治してくるよ。」

 

 

 

 

「山を焼くのはおまえだな!」

お兄ちゃんは、剣で怪物に挑みかかりました。

しかし怪物は火を吐いたので、

剣はぐにゃりと曲がってしまいました。

 

 

 

 

「ぼくは、みんなを、守ることが、出来なかった…。」

 

 

 

 

 

 

何とか生きて帰れましたが、お兄ちゃんは元気がありません。

「ぼくは怪物をたおせなかった、ごめん。

怪物はきっと世界で一番強いだろう。

そしていつか、世界は、怪物の火で焼きつくされてしまうんだ。」

それはたいへん、こまります。

「そんなのいやだ、私、怪物のところに行って

火をやめてってお願いしてくるわ!」

 

 

 

 

山に来てみたけれど、「どうしよう、こわいよう」

お願いどころか、怪物に近寄ることも出来ません。

怪物はちょうど眠っているところでした。

「やっぱり帰ろうかな…」

 

 

 

 

 

 

その時、雲に乗った魔法使いがやってきて怪物をしきりにつつきました。

「おきろー! 目をさませ! 火を吐け!

おれ様の魔法と勝負だ!」

 

 

 

 

 

 

魔法使いは、雨を降らせる杖を持っていました。

怪物の吐く火は雨にあたり、小さくなって、ついには消えてしまいました。

 

 

 

 

 

 

 

「ひゃっひゃっひゃーっ!

おれ様にかかれば、怪物だって目じゃないね!

よーし、もっともっと雨を降らせて みんなを困らせてやる。」

 

 

 

 

 

 

おや?なにか楽しそうな歌が聞こえてきます。

  ♪雨が降れば 葉がしげる

   しげれば 花咲く 実が育つ

   うれしやうれし 雨のおかげ そりゃ ふれふれ

それは、畑を世話する農家さんたちが歌っているのでした。

魔法使いはその様子を見て面白くなくなってしまい、

雨を降らすのをやめて、どこかへ行ってしまいました。

 

 

 

 

 

 

「わたしは山で怪物と魔法使いの戦いを見たの、

それに勝った魔法使いをおいはらうなんて、あなたたちはすごいわ。」

感心して言うと、農家さんは首をふりました。

「いやいや、そんなことはないさ。ほら、あのいばらのつる、

畑を広げてここまできたけれど、あれにはかなわないんだ。」

 

 

 

 

 

 

いばらのトゲはおそろしく、だれも近づけません。

「いつか、この一番強い、いばらのトゲに、

世界はおおいつくされてしまうのかしら?」

 

 

 

 

 

 

 

トゲだらけのつるの先には、「わあ、かわいいお花!」

たくさんの花がさいていました。

 

 

 

 

 

 

花には虫たちもやってきていますが

だれも、こわがってはいません。

「このお花、お兄ちゃんに持って帰ってあげよう。」

私はポケットからハサミを出しました。

 

 

 

 

 

 

「お兄ちゃん、私、いろんなことを見てきたの。

元気になったら、一緒に行こうね。」

 

 

 

 

 

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このおはなしは、二年前の講談社の新人賞公募に出した物です。

 

去年にブログを始めるまで

絵本を書いても、そこからどうしたらいいのか分からず、

持ち込みをしたり、公募に出したりしていました。

一次も通りませんでしたが。

 

物語に寄せたので、東洋医学は薄くなって

ここにはふさわしくないと思っていたのですが

子供が「兄妹が出てくる話が一番好き」と言ってくれたので

出しちゃいました。