その時、部屋の外から召使いの声が聞こえました。

 

「王様、お食事が出来上がったようです、

お運びしてよろしいでしょうか?」

 

王様はその声に、ぱっと顔を向けて言いました。

 

「おお、できたか!

楽しみにしていたぞ、持ってまいれ!」

 

王様の前には、お膳が整えられました。

たくさんお皿が並んで、色々な食材が使われています。

ぐるっと見回した王様は、岐伯に聞きました。

 

「岐伯が、調理係に頼んで、用意してくれたのはどれだ?」

 

岐伯はこたえて言いました。

 

「こちらの、桃にございます。」

「おお、桃だー!

大好きなのだ、うれしいぞ、

ありがとう、いただきまーす!」

 

王様はお食事を食べ始めました。

 

「もぐもぐ…、うむ、おいしいぞ、もぐもぐ…。

 

桃といえば、神話に出てくる

西王母という女神が育てている

三千年に一度しか実をつけない

桃の木の話があったなあ。

その実を食べれば死なないそうだな。」

 

岐伯はこたえて言いました。

 

「いいえ、死なないのではありません、

寿命のかぎりまで生きることができると言われています。

 

しかし、たとえ、仙桃を食べたとしても、

正しく生きなければ、早く死ぬそうですよ。」

 

王様は岐伯の話を聞いて言いました。

 

「ではやはり、上古聖人の教えを守って正しく生きるのが

大切なのだな。(知りたい王様11

 

…もぐもぐ、ごくん。

ああ、おいしかった、ごちそうさまでした。」

 

たくさんあったお食事を

王様は全部平らげて、とても満足そうです。

 

岐伯は言いました。

 

「今日も王様は、しっかりとお食事を取られていて、立派でした。

 

それに、食べ終わって、満足するということも、正しいです。

食べ終わってたのに、お腹が空いて、ひもじく感じるならば

それは、胃の病です。」

 

王様はこたえて言いました。

 

「岐伯は、そんなことまでほめてくれるのか、

いやいや、わたしは、食べることが好きなだけだ。

それに、だれだって、食べなければ、生きていけないだろう?」

 

岐伯はこたえて言いました。

 

「はい、王様、そのとおりです。

 

人は食べる物を生きる力としていますので、

食べないと、人は死にます。

 

人が食べ物を食べると、

胃が、食べ物の持つ力を取り出して、全身に行き渡らせます。

つまり人は、胃から受ける力によって生きています。

この力の事を、胃の気と言います。

 

胃の気が無ければ、死にます。

これを逆といいます。」