王様は、邪気が体の中に入ってしまった時の、
取り方が分かったので、ほっとしました。
「よかった、
鍼で邪気を取ることが出来るなら、安心だな。」
岐伯は、首を振って、言いました。
「いいえ、
いつでも、その方法で治療して良いわけでは、ありません。
勢いよくやってくる邪に出会って、
何の考えもなしに、瀉の治療をしてはいけません。
勢いよく来る邪気があるということは、経脈の気は虚になっています。
だから、やってくる邪気を迎え撃ってはいけないのです。」
王様は、また、戦争を想像しました。
敵軍の兵隊が強くて、国の軍隊が戦いに敗れれば、
同じ戦法で、戦いを繰り返していてはいけません。
状況をよく見て、軍隊を立て直さなければいけません。
「では、その時はどうすればよいのだ?」
岐伯はこたえて言いました。
「経脈の気とは、真気です。
真気が不足している時には、補をします。
息を吐きつくしたときに鍼を入れ、
真気が集まって至るまで、
しばらく静かに、鍼をとどめます。」
王様は、聞きました。
「しばらく、とは、どのぐらいだ?」
岐伯は言いました。
「それは、人によって違うので、言えませんが、
それぞれの人に、ふさわしい、鍼を抜くタイミングがあります。
そのタイミングになるのを、ゆっくりと、待つのです。
それはまるで、
立派な人が現れるのを待っている時は、
いつまでも待っても、日が暮れても、分からないというぐらいに、
ゆっくりと待ちます。
真気が経脈を至って、ぴったりと調えば、
真気は、おのずと、中から出ないように護られて、
出ることが出来ません。
そこで、
息を吸うのをうかがって、鍼を引き抜き、
鍼をしていた穴を押さえて、蓋をします。
神気をそこにいさせて、外からの気をとどめます。
これが、補の治療です。」