この小品は純粋な創作です。
実在の人物・団体に関係はありません。






マサさんは夕食を終えたら
いなくなった。
帰るなら
挨拶あるでしょうから
屋敷のどこかにいるのね。



そして、
私たちは洋館に戻った。


「たけちゃんも
 戻ったし、
 わし
 もう寂しくないよ。
 二人は二人でお休み。」


瑞月はすっかり落ち着いた。
それがポイントなんでしょ?
おじいちゃん。




夜は更ける。
私は
待ってる。




窓辺で空を見上げて待ってるの。


シュルッ

帯が解けた。



「瑞月、
 ありがとう。」

少しくぐもった海斗の声がする。



「なぁに?
 ぼく‥‥‥‥。」


言い終えないうちに
言葉は
途切れる。


キシッ

ベッドは軋む。



「俺のために
 怒ってくれたろ?」

海斗の舌は
声をくぐもらせ、
瑞月は奏でられる。



ハッ

あ、
あう‥‥‥‥。


甘い声は、
まだ序章ね。


キシッ


身を起こす気配は
次の
行為の始まり。


蓋を回す微かな金属音は
その準備をする
お決まりの音。




月は
瑞月の大好きな
パンケーキみたい。

半分は
誰かが食べちゃったのね。

きれいな黄色。
ふんわり焼けてるわ。


ポッ
翠が灯る。

「嬉しかった。」

「……うん。」

囁き交わす睦言が
まるで
幼い恋人同士みたいよ、
海斗。




時折
軋むベッド。

ぶつかり合い
擦れ合う肌の湿った音

呼応して
声は上がる。




ほのかに
カーテンに翠がゆらめく。
勾玉が
二人の絡み合う肢体に
揺れているのね。




優しい光だわ。
瑞月の光は月の輝き。
今は
あなたが海斗を照らしている。




時を忘れる

己は沈む

飛ぶは

彼方の光の宮ね。




愛してる

愛してる

愛してる

………………。


光は包む
もう揺らめかない

包まれて幸せ
あなたたちは幸せね。



お月様ばかり
今日の私は見ているの。


瑞月
あなたの分身
それは月よ。


あなたの声は
いつも
甘く
そして
熱い。


海斗のために
あなたは
囀ずる。


海斗のために
あなたは
喘ぐ。


お願い

お願い

お願い

お願い


あなたの〝お願い〟が
海斗を満たす。



海斗の咆哮が
お部屋を揺るがす。
あなたを得て
あなたの光に抱かれて
王は幸せになった。


静かに
静かに
あなたたちは
儀式を終える。


私は
背中で感じるの。


汗に濡れた背は
まだ
震え

頬は
涙を一筋残す。


月の化身は
仄白く
裸身を横たえて
その恋人を見上げる。


そっと
その背に細い腕が
回される。



キシッ…………。

最後の軋みは
つがいの二人が
そっと
身を寄せ合った証。



「あのね……愛してる。」

満ちる声に

「俺もだ。
 ……愛してる。」

満たされる声


愛満たされて
愛満ちる。




静かに光は
落ちていき

お部屋は
また月明かりに薄明かるい。



じゃあ行くわ。

私、
行ってくる。



見ることが
仕事なの。

マサさんも
きっと仕事かな。




なぜ
見なければならないかは
わからない。

でも、
私には
見えてしまうのだから
これが仕事なのよ。




私は
窓辺の椅子に降りる。
お月様を見上げる。

そして、
目を閉じた。


イメージ画はwithニャンコさんに
描いていただきました。