この小説は純粋な創作です。
実在の人物。団体に関係はありません。




馬って高い。
それに動く。

カツッ
カツッ

蹄の音がすると、

ドキッ
ドキッ
してしまう。



狩に出発していく父様たちを
窓から見ていたのと
すごく違う。

目の高さに背中があって
四本の脚があって
手綱を持っていても
ゆらゆら動く。


「鐙に足をかけてごらん」

言いながら
ぼくの足を持ち上げる。
 えっ?
 足かけたまま動かれたら怖い!
って
ドキンとしたんだけど、
ぼくは、
ストンと馬にまたがってた。

グレンが
ちゃんと乗せてくれる。
だいじょうぶなんだ。


グレンは
手綱を
ちゃんと持ってくれてて
ぼくを見上げて笑う。

お日様の下で
グレンが笑ってくれるのって
初めてな気がする。


グレンは
とても綺麗な人。
ほんとに綺麗。



グレンをね、
上から見るのも初めてだよ。


手綱を引いて
馬を歩かせてくれるグレン。


髪が柔らかい感じ。
手を伸ばして触りたくなる。
あっ
しないよ。
だって
落っこちちゃう。

ぼく、
一生懸命
馬に乗ってるんだ。


ひらっ
グレンが後ろに乗った。



ぼくの背中に
グレンの胸がぴったりついた。

あったかーい。
すごくあったかい。



門を出てね、
ぼくたちは石畳の道を行く。

冬の並木道は
葉っぱがない。


すかっ
空が見える。

空は青い。
今日は
小春日だから
お日様がお祝い日なんだ。


カポッ

カポッ

蹄の音が空に上がっていく。



空が遠くて近い。
うらうらと
お日様は暖かくて
このまま
ずっと歩いていきたい。


ぼくたち
いつの間にか
二人で一人になってるみたい。



「街道を外れるよ。」

グレンが言うんだ。
そして、
馬は早足になった。


グレンの胸、
グレンのお腹、
ぼくの体はグレンの体に包まれて

ドキッ

ドキッ

心臓まで揺れる。



びょおびょお
風が鳴る。


馬の首が
ぐっ
ぐっ
伸びて

ぼくらは
野原を駆けてゆく。



速い

速い

速い


手綱を握るぼくの手は
グレンの手に握られて熱い。

駆ける馬の背で
ぼくの体は
グレンに溶けて熱い。


髪をなぶる風は冷たいのに、
頬は冷たく痛いくらいなのに、
それでも
ぼくは熱くなる。

火照る

火照る


揺れる背で
ぼくは
ふうっと気が遠くなった。




ザザッ……
バサバサッ……。

何かが落ちる……。




ぼくは目を開く。


 すごく綺麗……。

湖は
灰青色に閉じ込められていた。




「小春日じゃ
 この魔法は解けないんだ。」

グレンが囁く。



一面に凍った湖は、
白い林に囲まれていた。
林は深く
どこまでも白い。


動くものが一つもなかった。


凍りついて
時を止めて
見る者といえば
ぼくたちだけ。


ザザッ

きっと
そんな音がした。

音もなく
向こう岸の木が枝を揺らし
雪が落ちる。

ふわり
雪煙があがり、
静まる。


すべて
何の音もしない。


「……時が止まっているね。」

ぼくは囁く。



止まっている

止まっている

………………。


ぼくたち
そうしてしばらく見ていた。

グレンが
そっと
手綱を引いて馬を返すまで
じっと見ていた。


ぼくは、
帰り道、
グレンの胸に頬をつけて
横座りに乗っていた。


「……グレン」
見上げたら
そうしてくれた。


なんだか
そうしたくなった。

グレンの胸に

トクン

トクン

聴きたかった。



暖かかった。


初めての遠乗りは、
ドキドキして
熱くなって
温かかった。


画像はお借りしました。
ありがとうございます。



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