あまねのにっきずぶろぐ

1981年生42歳引き篭り独身女物書き
愛と悪 第九十九章からWes(Westley Allan Dodd)の物語へ

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2017-11-04 04:48:48 | 随筆(小説)
今夜は、眠れたかい。
君はどうやらぼくと親しい人間のようだね。
ぼくの今を、君に教えよう。
ぼくは今、海藻と人参サラダを喰いながら、赤ワインを飲んでいる。
俺は今日も、風呂に入れんかった為に頭が痒い。
まあそれはいいとして、俺は考えていた。
良かったら聴いて欲しい。
俺が何を考えていたかというと、俺は自分が腐敗してゆく様子とは、
一体どんなものなのだろうと考えていた。
もし、つぶさに自分が腐り果ててゆく様を、眺めていられるのであれば、
一体どんな想いでそれを見ているのだろう。
腐乱してゆく自分の姿を見ているのは誰かといえば勿論、俺だ。
俺は俺を見ている。
俺の姿が変化(へんげ)してゆく有様を、俺は静かに眺めている。
普通に考えたら気持ち悪いのかもしれないが、しかし実際に眺めることが
できるならば、それはまったく違った感覚なのかもしれない。
何故なら、一体どちらが俺なんだ、という話になるからだ。
俺の目のまえで腐って、果てには白骨化してゆく俺は、
確かに生きていた頃の俺の姿に違いなく、俺の肉体であるのは分るだろう。
嗚呼、俺が腐っていっているなあ、もう全然、違う姿になっていってるなあ。
生きていた頃の面影ひとつ、ありしまへんな。
ということはまあ、俺は死んだ、と。これで間違いは無いのか。
ってでも、俺はここにいるんだが。
あれ、俺死んでないということじゃないのか。
でももう肉体はあれはもう使い物になりそうにもないしな。
あれがもし使い物になったとしても、白骨化した俺がある真夜中に家族の家のドアを叩いて、
「ただいま~帰ってきたで」などと言えば発狂させるだろうしな。
発狂はできればさせたくないよな。ということは俺は現世(うつしよ)に帰れない?
やっぱり肉体がないと帰れないのか。ということはやはり俺は死んだということでいいのかな。
そうか、俺は死んだということはわかる。
俺は死んだ、でも俺は此処にいる。どうゆうことですかい。
では俺は死んでいないと考えて、だが此の世に戻って生きることは叶わない。
つまり俺の生きる世界というものは、どこか他に移ったのかもしれない。
でないと俺はここに浮遊して生き続けなくてはならない。
意識だけで浮遊しているというのは別段苦しくはならないが、
苦しくない代わりに、そのうちに退屈になるに違いない。
俺はそうして、一体何日間眠る間もなくこうして浮遊し続けたかはわからないのだが、
気付けば一人の知らぬ女の傍に落ち着いていて。
なんでかはわからぬのだが、その女の傍におると心地が良くなることを覚えた。
その女は、自殺志願者であり、毎日のように暗い顔をして過ごしていた。
俺はその女が元気を出すように、必死に阿呆なことばかり話しかけていた。
しかし女は酒と薬でいつも朦朧としており、俺の言葉など届く隙もないようだった。
女はいつもゴミ屋敷と化した狭苦しい部屋で、独り言を呟いていた。
「あしたこそ、明日こそ死のう。できるはずだよ。遣ればできる」
俺は女の傍にいるのが気に入った為、女が死ぬのは嫌だった。
肉体こそ無いものの、俺はそれでも女と交わる夢を何度と見た。
それは実に恍惚で幸福な夢であった。
女が心奪われている存在はまさしく死神であるのを承知していたが、
俺が死神から女を奪い去ることが俺のこの”中陰(ちゅういん)”からの脱出を示唆されたように感じた。
なのでその晩からおれは女と交信する手立てを手に入れる為、瞑想を行ない続けた。
そのとき、ひとつの青白い光明が、中空に浮かんで俺の女への愛を、秤(はかり)に掛けた。
俺はどうやらそこで合格となったようで、その光明は俺を取り囲んで俺のなかに吸い取られて行った。
真っ暗な箱が、俺の目の前にあり、女はこれを持って今から死に行かんとしている。
この箱の中に、女の魂を閉じ込められたなら、どんなに持ち運びしやすいだろう。
俺はどうしてでも、この女を死神から奪い去らねばならぬのだ。
言うことを聞かぬこの女を、死神に奪われてなるものか。
俺はこの女を愛してしまった。手段は選ぶ時間はない、俺を独りにしないで欲しいんだよ。
逝かせる訳にいかぬ、俺は女を抱き締めるとその魂だけ引き剥がし、箱のなかに閉じ込めた。
しかしそのとき、死神が俺に向かって嗤いかけたのは気のせいか。
取り合えず今晩、俺を迎えし者を、この箱を抱き締めながら此の闇にて待つ。






















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