野菜や果物をたくさん食べるのが健康に良いのは、抗酸化物質のおかげと考えられてきました。1976年に、ノーベル賞を受賞したライナス・ポーリング博士が「ビタミンCでがんが治る」と発表し、ビタミンの研究が盛んに行われた時期もありましたが、これも正しくなかったということを歴史が証明しています。

 

一部、効果があったという信憑性の低い論文を用いて、高額な自由診療による治療(?)を行っている医療機関もありますが、その多くはお金儲けのためにやっているに過ぎません。実のところ、動物や人での対照実験で厳密に評価すると、ビタミンCやビタミンE、ビタミンAなどの抗酸化物質は、病気を防いだり進行を抑えたりできていないことがわかっているのです。

 

野菜や果物をたくさん食べるのは健康に良いというのは事実なのですが、健康に良いのが抗酸化物質のおかげでなければ、どのような物質が健康に良い役割を担っているのでしょう?

 

 

■野菜が体に良いのは“微量毒素の効用”!?

 

野菜が体に良いのは“微量毒素の効用”だという説があります。これを唱えているのは、米国立老化研究所の神経科学研究室長でジョンズ・ポプキンズ大学医学部神経科学教授でもあるM.P.マトソン教授。高濃度の抗酸化物質が人体に有用であるという研究結果を見いだせなかったことで、新たな切り口から仮説を提唱しました。それは、植物の“毒”が体の防御機能を強化しているということ。植物による微量毒素のストレスが私たちの身体にプラスに働いているというのです。マトソン教授の仮説を紹介しましょう。

 

 

・植物は動いて捕食者から逃げることができないので、様々な化合物を使って昆虫や動物を撃退する手の込んだ防御術を発達させてきた。

 

・植物が作るそうした有毒物質は果物や野菜にも低濃度含まれていて、人間もそれを食べている。それらの化合物にさらされると私たちの体内の細胞では穏やかなストレス応答が起こり、抵抗力や回復力が高められる。

 

・こうした弱いストレスが体に適応する過程は「ホルミシス」と呼ばれ、健康上の利点がある。例えばブロッコリーやブルーベリーを食べることが脳の病気の予防に役立つ。

 

<日経サイエンス 201601 第46巻第1号>より

 

現代の薬理学者と毒物学者、生化学者も高濃度であれば毒になる植物性物質が、少量であれば健康に良い効果を生み出すことを確認しつつあるようです。その他、絶食や運動が健康に良いのも、弱いストレスを脳細胞に与えることが健康に良い影響を及ぼしているからと指摘しています。

 

カフェインなどを過剰に摂取すると害を及ぼす可能性があるというのも、これに関係しているのかもしれません。過度のストレスが毒になるところ、少量では健康に良い影響を及ぼすというのは興味深いところです。

 


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