「毒性学の父」と呼ばれたパラケルススの言葉。

 

全てのものは毒であり、毒でないものなど存在しない。その服用量こそが毒であるか、そうでないかを決めるのだ。

 

Alle Dinge sind Gift und nichts ist ohne Gift; allein die Dosis macht es, dass ein Ding kein Gift ist.

 

パラケルスス Paracelsus(1493~1541):スイスの医師、科学者、錬金術師、神秘思想家

 

“全てのものが毒”というのは言い過ぎかもしれませんが、「過ぎたるは猶及ばざるが如し」。量が過ぎれば毒になる可能性があります。人間が60kg、犬が6kg、猫が3kgとすると、単純計算で、犬は人間の10分の1、猫は人間の20分の1。仮に同じものを食べたとすると、犬は10倍、猫は20倍その成分が入ることになるのです。

 

また、動物によって毒でないものと毒であるものがあります。例えば、コアラはユーカリの葉を食べますが、ユーカリの葉は他の動物には毒性を発揮します。このようにある動物に対しては毒でなくても、他の動物によっては毒になることがあります。「人間が食べても大丈夫だから、犬や猫でも大丈夫だろう」と安易に与えると、毒になるものがあるので注意が必要です。

 

 

■犬や猫に“チョコ”や“カフェイン”を与えてはいけない理由

 

チョコレートの原料であるカカオ豆には、テオブロミンという物質が含まれています。テオブロミンは植物アルカロイドの一種です。植物アルカロイドとは、植物の体内に含まれる窒素を含むアルカリ性の有機化合物の総称で、多くが毒性や特殊な生理・薬理効果を持っています。アルカロイドには、モルヒネ、コカイン、カフェイン、フグ毒やトリカブトなどの他、医療の分野でも用いられているアトロピンやレセルピン、コルヒチンなどがあります。

 

チョコレートに含まれているテオブロミン。名前はカカオの属名「テオブロマ(Thebroma)」に由来しています。このことばの意味は「神の糧」。人間には薬効があるとされ、昔は薬として使用されていたのです。実際、心臓を刺激する効果があるとされていますが、人間が通常量のココアやチョコレートを食べたぐらいでは有害な作用はありません

 

ただし、犬や猫はテオブロミン中毒になりやすいとされています。わずかな量でも心拍に異常をきたし、死亡することもあり得るので注意が必要です。カフェインもアルカロイドの一種でテオブロミンと似た性質を有し、同様に中毒を起こす可能性があるので与えないようにしないといけません。

 

 

■犬や猫に“タマネギ”を与えてはいけない理由

 

タマネギ、長ネギ、ニンニク、ニラなどに含まれるアリルプロピルジスルファイドが血液中のヘモグロビンを酸化させることにより、溶血性貧血を起こすとされています。加熱しても有毒成分は残るので、タマネギを使用しているものはエキスだけでも有害です。すき焼きやハンバーグの汁にも注意しましょう。ネギ中毒になると、貧血、血尿、嘔吐、下痢などを起こします。

 

人間でもジャガイモの芽を食べると中毒を起こします。ジャガイモの芽にはソラニンという有害なアルカロイドが含まれています。パラケルススの言うように、“全てのものが毒”というわけではありませんが、動物によっては毒性を強く発揮する食べ物があるので注意が必要です。

 


医師 ブログランキングへ