92年代に2ライヴ・クルーのルーク率いる、ルーク・レコードからデビュー。2003年までの11年間に3枚のアルバムと、”Knockin’ Da Boots”や”A Thin Line Between Love & Hate”(パースエイダーズの同名曲のカヴァー)などのヒット曲を残してきた、ヒューストン出身の3人組ヴォーカル・グループ、H-タウン。2003年にリード・ヴォーカルのケヴィン”ディノ”コナーが交通事故で亡くなったあと、活動が停滞していたが、彼の双子の兄弟で、メンバーの一人でもあるソロモン”シャザム”コナーが自身のレーベルを設立して、そこからデュオとして復活。2015年には10年ぶりにアルバムを発表した。

このEPは、シャザムのレーベルからリリースされた、ディノの未発表曲集。クレジットがないので詳細は不明だが、音を聴く限り98年から2003年の間に録音されたもののようだ。

アルバムのタイトルトラックでもある”You’re My Morning Star”は、テヴィン・キャンベルの”Can We Talk”を連想させる、流れるようなキーボードの伴奏を使った爽やかなトラックの上で、R.ケリーっぽい艶めかしい歌声を響かせるミディアム・バラード。H-タウンの楽曲でも、セクシーなヴォーカルを披露していたディノだが、この曲では、あえて色っぽい歌声を強調せず、あっさりと歌い切ったところが面白い。

続く”Hot Jeans”は、ジャギド・エッジ(というよりは、彼らのプロデューサーのジャーメイン・デュプリ)の楽曲を思い起こさせる、荒々しいシンセサイザーのリフと変則ビートが印象に残るミディアム・ダンサー。録音された時代ならともかく、現代の人間から見ると強引に映るメロディや曲の展開は、好き嫌いが分かれそうだが、アッシャーの”You Make Me Wanna”などが好きな人なら楽しめると思う。

一方、ディノの熱い歌唱が堪能できる”Pure Juice”は収録曲の中では一番、H-タウンの作風に近いスロー・バラード。これでもかというくらいテンポを落とし、スピーカーから汗や唾が飛んできそうな勢いで歌い込む姿は、経験を積んで成熟したヴォーカルを聴かせてくれた『Beggin' After Dark』や『Ladies Edition』の路線をさらに深化させたもの。ジョデシィやドゥー・ヒルの泥臭いバラードが好きだった人にはぜひ聞いてほしい1曲だ。

そして、アルバムのトリを飾る”Love Hurts Bad”は、90年代にジャーメイン・デュプリやティンバランドが作っていそうな変則ビートのアップ・ナンバー。こちらは”Hot Jeans”以上に癖のあるビートだが、ミッシー・エリオットの”She's a Bitch”みたいな、ダンス・ポップ寄りのR&Bやヒップホップが好きならぜひ聞いてほしい。

今回、お披露目された4曲を聴いて強く印象に残ったのは、ディノの類稀な歌声と表現力。特に、”You’re My Morning Star”で見せる爽やかで色っぽいヴォーカルと、”Pure Juice”で聴かせる熱く、泥臭いパフォーマンスを両立する、高度な身体能力と声を巧みにコントロールする技術は、インターネット経由で世界中の音楽が楽しめる21世紀になっても、決して色褪せないものだ。しかし、未発表曲の宿命だが、メロディやトラックには多少、古臭さを感じてしまったのも事実だ。

だが、楽曲の古臭さを織り込んでも、素の歌声で様々な楽曲の個性を引き出す姿は、決して見逃すことができない。表現力豊かな声で、熱いヴォーカルを聴かせる歌手が、何人もヒットチャートの上位に食い込んでいた90年代。jこのアルバムは、そんな時代の音楽の魅力を思い出させてくれる貴重な音源だ。当時の音楽が好きだった人なら、一聴の価値があると思う。

Track List
1. You’re My Morning Star
2. Hot Jeans
3. Pure Juice
4. Love Hurts Bad






You're My Morning Star
MIND TAKER ENTERTAINMENT
2016-12-01