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『少女は卒業しない』朝井リョウ著

本読みました。

『少女は卒業しない』朝井リョウ

 

以下感想です。

■あらすじ

■在校生代表

■夜明けの中心

--『少女は卒業しない』まとめ--

■タイトルの意味

 

■あらすじ

 

別の高校との合併で取り壊しが決まっている高校を舞台にした、そこで行われる最後の卒業式にまつわる生徒たちの別離の物語です。セリフ以外の地の文が、主に主人公の語りで構成されているのですが、今作はその地の文が素晴らしい味わいを持っています。卒業という人生の一大イベントに臨む高校生の瑞々しい感性が世界を知覚するさまがありありと描かれています。本作は世界観を同じくする7つの短編からなる連作短編集ですが、在校生の送辞という変わった形式で片思いの生徒会の先輩へ在校生が思いを伝える「在校生代表」、取り壊し前の真夜中の校舎に忍び込み、旧友の死のショックからの立ち直ろうとする男女を描く「夜明けの中心」が特に素晴らしいです。

 

  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

■在校生代表

 

短編全体が、生徒会長「田所」に片思いする「亜弓」が読む送辞という形式の変わった短編です。田所との出会い、生徒会に入って勉強を教えてもらって仲良くなり、最後に田所も去年の卒業生に片思いしていたことがわかって、生徒会室から二人で静かに花火を見た思い出が語られます。最後の花火のシーンは、田所が泣く真意を片思いしていた卒業生を思ってのことだと亜弓が理解するシーンで、失恋のシーンなのですが、美しく短い高校生活が卒業式に締めくくられるのと同様、先輩と出会い距離が縮まっていくその甘美で輝かしい過程が、扇風機が壊れて無音になった生徒会室から花火を見るという、静謐で儀式めいたシーンで失恋を迎える演出は、格別の感慨を呼びます。

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ポスター用紙や余ったしおり、うちわ、ポスカが散乱している生徒会室で、私たちはふたりで大花火を見ました。私はいつまで経ってもにらむような目つきで花火を見ていました。ふたりとも、生徒会の仕事なんてすっかり忘れていました。

 

  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

■夜明けの中心

 

幽霊が出るという噂のある東棟校舎に、事故死を遂げた剣道部のエース「駿」の幽霊に会いたい思いで深夜に忍び込んだ駿の彼女「まなみ」と、まなみに片思いしていて、駿にライバル心を持っていたために駿の死に責任を感じ人生がうまくいかなくなった「香川」が出会い、お互いが駿の死に決着をつける話です。まなみが幽霊の駿のために作ってきたお弁当を香川が食べて、まなみの思いに行き場が生まれたタイミングで夜が明ける演出が切なくも美しいです。

 

調理室が明るくなっている。まるでこの場所から、夜が明けていったみたいだ。かたくなっていたご飯を喉につまらせた香川が、どんどんと自分の胸を叩いている。その音を聞きながらあたしは、この校舎から夜の波が引いていく様子を、じっと見ていた。

 

  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

--『少女は卒業しない』まとめ--

 

■タイトルの意味

 

本作のタイトル「少女は卒業しない」というのはどういう事でしょうか。少女というのは、本作の短編に出てくる主人公の少女たちのことで、卒業は文字どおり高校からの卒業を指すと思われますが、なぜ「卒業しない」なのでしょう。本作で扱われる物語は、​卒業という恣意的に定められた高校生活の終わりという状況下で、​失恋、届かない恋慕、etcといった​悔いの残る別離が、モチーフとして繰り返し語られるものです。高校生活という限られた期間の時間的制約、あるいは学年の違いという状況の制約、様々な内的、外的な要因によって悔いの残る結果となった愛の感情は、最初は心の鈍い痛みを伴って思い出されますが、​それはやがてビターな郷愁になります。そうなったときに​その悔いは、もはやその人の行動原理になって、​その人そのものを形作る要素になっているのではないでしょうか。高校を卒業して大学、社会人と進んでいく中で、彼女たちはまた恋をするでしょう。人を好きになるときに、過去のほろ苦い別離の記憶が、好きという感情の一部分を占めているはずです。このことを指して、「​少女は卒業してない」としているのではないかと思います。心の一部分がその場に立ち止まってしまうほどの強い感情がテーマになって物語の根底にあるように思いました。

 

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強い思い入れと残った悔いは、その人の行動原理になって、その人を形作る要素になる

 

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■関連する作品

 

今回紹介した本はこちらです。

 

 

この作品とテーマ的に似ているのは『クドリャフカの順番』(米澤穂信著)です。こちらの作品は「古典部シリーズ」と呼ばれるシリーズものの一部なのですが、自身の能力に対するあきらめやそこからくる他人の能力に対する期待、やはりあきらめきれずに自分の能力を試してしまうこと、などがテーマの作品です。恋の話ではありませんが、この期待と諦め、それに伴う心の痛みと、その後のほろ苦い郷愁という構造は失恋のそれと似通っていると思います。

 

 

『クドリャフカの順番』米澤穂信著 感想(1/2) - H * O * N

 

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