カナダで開催されている、モントリオール国際音楽コンクール。
今年はピアノ部門。
セミファイナルが始まった。
5月6日は、セミファイナルの第1日。
ネット配信を聴いた(こちらのサイト)。
ちなみに、これまでの記事はこちら。
JeungBeum Sohn (South Korea AGE 25)
■Franz Schubert: Sonata in A minor, op. post. 143 D 784
■Maurice Ravel: Gaspard de la nuit
■André Mathieu: Laurentienne no 2 in C Sharp minor
■Milij Balakirev: Islamey, Fantaisie orientale
シューベルトは、やや淡白だが終楽章などスムーズで悪くない。
シューベルトらしい自然な「歌」が聴かれるかというと、もう一歩な気はするけれども。
ラヴェルは、大変に安定した名演。
「オンディーヌ」は、旋律の歌わせ方がとてもうまいとは思わないが、右手の細かい音型は繊細でむらがないし、この曲にどうしても必要な「詩情」だって、ないわけではない。
技巧と詩情のどちらかにウェイトの大きく傾いた演奏が多いこの曲において、彼の演奏は優秀なほうだと思う。
「絞首台」も、淡々とはしているが悪くない。
「スカルボ」は、トップスピードかというとそれほどではなく、1次のNohのようなスリリングさはないが、それでも安定感はかなりのもの。
ここぞというところの迫力もある。
マテュー(課題曲)は、ヴィヴィッドなタッチとロマン的な起伏が魅力の演奏。
バラキレフもやはり大変安定した演奏。
ただ、2015年浜コンのチェン・ハンほどのキレはないか。
全体に、安定感は抜群なのだが、安全運転とまではいわないまでも、少し落ち着いてしまっている演奏が多い気はする。
David Jae-Weon Huh (South Korea AGE 30)
■Sofia Gubaidulina: Chaconne
■André Mathieu: Laurentienne no. 2 in C-sharp minor
■Maurice Ravel: Valses nobles et sentimentales
■Robert Schumann: Carnaval, op. 9
グバイドゥーリナは、なかなか迫力のある演奏。
タッチは高度にコントロールされているというよりは、やや情熱に任せている感はあるが。
マテュー(課題曲)も、やはりやや抒情面を重視した演奏。
もちろんうまいのだが、ときに少しきつめの音が出る。
ラヴェルも、情熱的・抒情的ではあるのだが、「音を磨く」という感じではない。
1次のGheorghiuの同曲演奏のほうが、ラヴェルには合っている気がする。
シューマンは、今回の中では彼に一番合った曲か。
情熱的で力強い演奏が曲とマッチしている。
テクニックもある。
ただ、1次のKociubanの同曲演奏のような、美しい音や溌剌とした表情付けは、聴くことができない。
Giuseppe Guarrera (Italy AGE 25)
■Ludwig van Beethoven: Sonata in D major, op. 10 no. 3
■Claude Debussy: Images, deuxième série
■André Mathieu: Laurentienne no. 2 in C-sharp minor
■Franz Liszt: Rhapsodie espagnole
ベートーヴェンは、活きのいいテンポによる快活な演奏で、なかなか悪くない。
ただ、フォルテなどときに粗めの音が聴かれるし、テンポ・ルバートもやや気まぐれな印象がある。
ドビュッシーも悪くないが、1次のMazariの同曲演奏のように、結晶化したような音の響きの美しさは聴かれない。
「金色の魚」でも、ときに勢い任せなタッチが聴かれる。
マテュー(課題曲)は明瞭なタッチによる演奏で、ときおりみられる情熱的な表現もこの曲に合っており、なかなか良い。
リストも大変緻密なコントロールが聴かれるというよりは、どちらかというとラプソディックな要素の強い演奏だが、それはそれで曲に合っているかも。
ラプソディックとはいっても、ケレン味たっぷりというわけではなく、基本的にはオーソドックスなスタイルであり、その中での話である。
クライマックスでの左右オクターヴ交互連打もなかなかのテンポで、迫力がある。
Jinhyung Park (South Korea AGE 21)
■Franz Schubert: Sonata no. 13 in A major, D. 664
■André Mathieu: Laurentienne no. 2 in C-sharp minor
■Claude Debussy: Images, première série
■Sergei Rachmaninov: Sonata no. 2 in B-flat minor, op. 36
シューベルトは、1次でCano Smitが弾いた同曲のほうが歌心があったような気がするが、それでも終楽章の滑らかさ、軽やかさはParkのほうが上回っているだろう。
マテュー(課題曲)も、余裕のある演奏。
ドビュッシーも、技巧的な難の全くない、テンポの緩急も実に自然な演奏。
音色という面ではやや地味だが、その分ややモノクロームな味わいがあるし、むらのない滑らかなタッチでそのあたりの弱点(とまではいえないが)をカバーできている。
ラフマニノフも、力強くスマートな名演。
情感にも欠けていない。
いかにもラフマニノフにふさわしい深々とした音は聴かれないが、それ以外には文句なし。
ファイナルに残る可能性はかなり高そう。
Teo Gheorghiu (Canada AGE 24)
■Sergei Rachmaninov: Études-tableaux, op. 33
■André Mathieu: Laurentienne no. 2 in C-sharp minor
■Modest Mussorgsky: Pictures at an Exhibition
ラフマニノフは、明晰なタッチによる好演。
第6曲など急速な部分でのキレもさすが。
ただ、やはり深々とした音は聴かれないし、フォルテもときどき硬めの音になるときがある。
マテュー(課題曲)は、スムーズで危なげない佳演。
ムソルグスキーは、大変良く弾けているのだが、これといったほどの個性にはやや乏しいか。
2015年浜コンでは、ドミトリー・マイボロダによるこだわりの解釈や、ダニエル・シューによるキレのある同曲演奏が聴けたため、比較するとどうしても分が悪くなってしまう(どちらかというとシューの演奏に近いけれども)。
ごてごてせずすっきりした演奏なのは良いのだが。
そんな中、「雛の踊り」や「市場」はなかなかの切れ味で良かった(シューほどではないが)。
全体に、彼はロシア音楽にそれほど高い適性を持つわけではないような気がする。
もっと他の曲を選んだ方が有利だったかもしれない。
Albert Cano Smit (Spain / Netherlands AGE 20)
■Ludwig van Beethoven: Sonata in F major, op. 10 no. 2
■György Ligeti: ‘L’escalier du diable’ (Études, book 2: No. 13)
■André Mathieu: Laurentienne no. 2 in C-sharp minor
■Robert Schumann: Humoreske in B-flat major, op. 20
ベートーヴェンは、軽やかで粒のそろった快速な演奏。
自然な歌も感じられる。
リゲティは、キレッキレの演奏というほどではないが、安定していて良い。
マテュー(課題曲)は、これまでのコンテスタントたちと違ってキレよりも「歌」を重視したような演奏で、これはこれでなかなか良かった。
シューマンは、美しい歌に満ちた演奏。
キレという意味ではもう一歩にも感じるが、この曲では詩情が大事と思われ、その意味では曲の良さを十分に引き出していると思う。
そんなわけで、第1日の演奏者のうち、私がファイナルに進んでほしいと思うのは
JeungBeum Sohn (South Korea AGE 25)
Jinhyung Park (South Korea AGE 21)
Albert Cano Smit (Spain / Netherlands AGE 20)
あたりである。
少しおとなしめだったSohnの代わりにGuarreraかGheorghiuでも良いかもしれないが、一応こうしておく。
なお、第2日は今夜(明日早朝)だが、1次の演奏から予想するに、おそらくGouin、Andreatta、Nohの3人の演奏が気に入る可能性が高いと思われる。
となると結局、私がファイナルに進んでほしい6人は
第1日
JeungBeum Sohn (South Korea AGE 25)
Jinhyung Park (South Korea AGE 21)
Albert Cano Smit (Spain / Netherlands AGE 20)
第2日
Nathanaël Gouin (France AGE 29)
Stefano Andreatta (Italy AGE 25)
Yejin Noh (South Korea AGE 30)
となりそう。
さて、実際にはどうなるか。
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