ローム ミュージック ファンデーション スカラシップ コンサート Vol.14 | 音と言葉と音楽家  ~クラシック音楽コンサート鑑賞記 in 関西~

音と言葉と音楽家  ~クラシック音楽コンサート鑑賞記 in 関西~

クラシック音楽の鑑賞日記や雑記です。
“たまにしか書かないけど日記”というタイトルでしたが、最近毎日のように書いているので変更しました。
敬愛する音楽評論家ロベルト・シューマン、ヴィルヘルム・フルトヴェングラー、吉田秀和の著作や翻訳に因んで名付けています。

ローム ミュージック ファンデーション スカラシップ コンサート Vol.14

 

【日時】

2017年8月4日(金) 開演 18:00 (開場 17:30)

 

【会場】

京都府立府民ホール アルティ

 

【演奏・プログラム】

・福田 廉之介(ヴァイオリン)
F.クライスラー:愛の喜び
M.M.ポンセ(J.H.ハイフェッツ編):エストレリータ
F.ワックスマン:カルメン幻想曲
  伴奏者 新 ゆう
 
・日高 志野(ピアノ)
S.ラフマニノフ:ヴォカリーズ Op.34−14(ピアノ編曲版)
M.ラヴェル:ラ・ヴァルス
 
・石井 楓子(ピアノ)
J.ブラームス:4つの小品 Op.119
 
・坪井 夏美(ヴァイオリン)
L.v.ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ 第7番 ハ短調 Op.30−2 第1、4楽章
  伴奏者 務川 慧悟 
 
・林 佑子(ソプラノ)
J.シュトラウスⅡ世:喜歌劇〈こうもり〉より 「侯爵様、貴方のようなお方は」

H.ヴォルフ:〈メーリケ詩集〉より 第6曲 「時は春」

R.シューマン:〈ミルテの花〉より 第1曲 「献呈」 Op.25-1
W.A.モーツァルト:ルイーゼが不実な恋人の手紙を焼いたとき K.520
G.マスネ:歌劇〈マノン〉より マノンのガヴォット「私が街を行くと」
  伴奏者 河合 珠江
 
・内匠 慧(ピアノ)
A.スクリャービン:ピアノ・ソナタ 第3番 嬰へ短調 Op.23
 
・黒川 侑(ヴァイオリン)
R.シューマン:ヴァイオリン・ソナタ 第1番 イ短調 Op.105
  伴奏者 務川 慧悟

 

 

 

 

 

ロームミュージックファンデーション スカラシップコンサートなるものに行ってきた。

このコンサートは、ローム ミュージック フレンズと呼ばれる奨学生が出演するもので、国内外の音楽学校で学ぶ若い音楽家への演奏機会の提供と、音楽に親しむ人たちの拡大を目的に、2013年より毎年開催しているとのこと。

大変素晴らしい機会だと思う。

 

今日聴いた中にはすでに有名な演奏家も何人もいて、皆とてもうまかったけれども、とりわけ印象に残ったのは、石井楓子と務川慧悟だった。

石井楓子、ブラームスの第1曲の最初の一音からして、大変な存在感!

決して大きな音を出しているわけではないのだが、その音はとてもよく響き渡り、かつ全ての音がニュアンスに富んでいて、おろそかにされる音が一つもない。

クララ・シューマンが「灰色の真珠」と呼んだこの曲、またブラームス自身が「すべての音から憂鬱が吸い込まれるように聴こえなければなりません」と語ったというこの曲の世界に、聴き手を一気に惹きこんでしまう力を彼女は持っている。

2~4曲目も、もちろん素晴らしい。

大変に表情豊かだが、わざとらしさは感じられず、成熟した演奏となっている。

この若さで、晩年のブラームス特有の幻想を表現できるなんて!

フォルテがとても力強く鳴り響く、というタイプではないようだが、それでも彼女のフォルテには充実感があって、不足を感じない。

ブラームスの「決別の音楽」のような終曲においても、ひときわ大きな音量はないにしても、確固たる表現が聴かれた。

 

務川慧悟は、今回は伴奏を2曲だったが(ベートーヴェンとシューマンのヴァイオリン・ソナタ)、いずれも素晴らしかった。

ベートーヴェンではスケール(音階)演奏の滑らかさやフォルテ(強音)の充実した力強さが際立ち、シューマンではそこはかとない幻想が心に残った。

彼は伴奏ということで、特に前に出ようとしすぎることなく、分をわきまえてアンサンブルに徹しているのだが、それでも上記のような特長が滲み出て、結果的にかなりの存在感を示していた。

シューマンの第1楽章における、ヴァイオリンのメロディにときおり応える合いの手のようなパッセージ。

こういったところの美しい音、幻想的な味は、はっきり言ってしまうとヴァイオリンにも勝るほどだった。

また、例えば終楽章コーダ直前の、ナポリの六度風の和声の上に、第1楽章の主要主題が長く引き延ばされて回帰するところ。

ここでは急にピアノ(弱音)になるのだが、こういうところでがらっと空気を変えて緊張感を高める彼の手さばきはさすがだった。

 

彼らに次いで良いと思ったのは、内匠慧。

私はスクリャービンというと「ふわっとした浮遊感」「漂う空気感」みたいな演奏を思い描くのだが、彼のスクリャービンはそれとは少し異なり、「横に流れていく」ような演奏だった。

おそらく、彼特有のルバート(テンポの揺らぎ)によるのだろう。

かっちりしすぎた味気ない演奏にはなっておらず、彼なりの幻想がよく出ているように思った。

フォルテがやや硬めのようには感じたが、耳に障ることはなかった。

第3楽章での繊細な弱音、終楽章での推進力、いずれも素晴らしく、技巧的にも余裕を感じさせる演奏だった。

ちょっと斜に構えた感じで、どんどん流していくような演奏。

少しダークな雰囲気も感じられた。

ふわっとしたスクリャービンとは違った、内匠慧ならではの世界があって、これはこれでとても良いと思った。

演奏前後のお辞儀の際にも、彼はにこりと微笑むことをしなかったが、それもまた彼の演奏の作る世界観に妙にマッチしている気がした(緊張していただけかもしれないけれど)。

 

その他、林佑子による歌も良かった。

彼女には天性の「華」のようなものがあるようであり、特にアデーレとマノンのアリアが、歌唱から身のこなしに至るまで、堂に入った表現となっているように思った。

また、ヴァイオリンの中では、坪井夏美の演奏が細身の音で私としては好みだった。

ときにフォルテが少しきつめのように感じたり、また演奏がやや直球的にすぎるような気がしたりはしたけれど、まぁベートーヴェンならこんなものかもしれない。

 

いろいろ好き勝手書いたけれども、皆とても良かった。

同じシリーズのコンサートのVol.13が8月3日にあったようだし、Vol.15が8月23日にあるようだが、これらには行けなかった(行けなさそう)なのが残念である。

 

 


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