(行ってみたい演奏会 その2 フルトヴェングラーのベートーヴェン交響曲第9番) | 音と言葉と音楽家  ~クラシック音楽コンサート鑑賞記 in 関西~

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クラシック音楽の鑑賞日記や雑記です。
“たまにしか書かないけど日記”というタイトルでしたが、最近毎日のように書いているので変更しました。
敬愛する音楽評論家ロベルト・シューマン、ヴィルヘルム・フルトヴェングラー、吉田秀和の著作や翻訳に因んで名付けています。

今回は演奏会の感想ではなく、別の話題を。

先日の記事で書いた、「もしタイムマシンがあったら行ってみたい演奏会」という妄想の続きを、今回も書きたい。

前回は、フルトヴェングラー指揮のベートーヴェンの交響曲第5番を取り上げた。

今回は、同じくフルトヴェングラーの得意曲、ベートーヴェンの交響曲第9番を取り上げたい。

前回と同様、フルトヴェングラー指揮ベルリン・フィルの演奏による、ベルリンでの演奏会で、かつ1929~1934年頃に行われたもの(できれば1929年のもの)から探してみたいと思う。

なぜこんな特殊な条件で探すのかについては、前回の記事を参照されたい(こちら)。

 

その前に、前回も少しご紹介した、1929年のベルリン芸術祭について。

1914年の第一次世界大戦以来、中断を余儀なくされていたこの芸術祭は、この年15年ぶりに開催されたということもあり、きわめて盛大な催しとなったようである。

期間としては、1929年5月19日~6月23日の約1ヶ月間。

行われた公演の概要を、ここに記しておきたい。

 

●ミラノ・スカラ座のベルリン引っ越し公演(全てトスカニーニ指揮)

5/22 ヴェルディ:「ファルスタッフ」(@国立歌劇場)

5/23 ヴェルディ:「リゴレット」(@市立歌劇場)

5/25 ドニゼッティ:「ランメルモールのルチア」(@市立歌劇場)

5/26 ヴェルディ:「イル・トロヴァトーレ」(@国立歌劇場)

5/27 プッチーニ:「マノン・レスコー」(@国立歌劇場)

5/29 ヴェルディ:「アイーダ」(@国立歌劇場)

 

●クロル・オーパー

6/3 R.シュトラウス:「サロメ」(R.シュトラウス指揮)

6/8 ヒンデミット:「今日のニュース」(クレンペラー指揮) ※世界初演

6/12 ヴァーグナー:「さまよえるオランダ人」(クレンペラー指揮)

6/17 ストラヴィンスキー:「ミューズをつかさどるアポロ」、ピアノと管楽器の協奏曲、「結婚」(クレンペラー指揮、ストラヴィンスキー ピアノ)

日不明 モーツァルト:「ドン・ジョヴァンニ」(クレンペラー指揮)

日不明 クレーネク:「独裁者」、「秘密の王国」、「重き点、または国家の名誉」(クレンペラー指揮)

 

●ベルリン市立歌劇場

5/31 ヴァーグナー:「タンホイザー」(デンツラー指揮)

6/7 R.シュトラウス:「エレクトラ」(R.シュトラウス指揮)

6/13 モーツァルト:「フィガロの結婚」(フルトヴェングラー指揮)

6/16 モーツァルト:「後宮からの誘拐」(ゼバスティアン指揮)

6/18 ヴァーグナー:「トリスタンとイゾルデ」(フルトヴェングラー指揮)

 

●ベルリン国立歌劇場

5/19 ヴァーグナー:「ニュルンベルクのマイスタージンガー」(クライバー指揮)

5/28 ドニゼッティ:「ドン・パスクァーレ」(クライバー指揮)

6/1 R.シュトラウス:「ばらの騎士」(R.シュトラウス指揮)

6/2 ヴァーグナー:「ラインの黄金」(ブレッヒ指揮)

6/3 ヴァーグナー:「ヴァルキューレ」(ブレッヒ指揮)

6/5 ヴァーグナー:「ジークフリート」(ブレッヒ指揮)

6/6 R.シュトラウス:「インテルメッツォ」(R.シュトラウス指揮)

6/7 ヴァーグナー:「神々の黄昏」(ブレッヒ指揮)

6/8 ドニゼッティ:「ドン・パスクァーレ」(クライバー指揮)

6/9 R.シュトラウス:「影のない女」(R.シュトラウス指揮)

6/11 R.シュトラウス:「エジプトのヘレナ」(R.シュトラウス指揮)

6/12 フリードリヒ大王:交響曲、モーツァルト:交響曲、ハイドン:交響曲(クライバー指揮) ※何番かは不明

6/15 ジョルダーノ:「アンドレア・シェニエ」(セル指揮)

6/18、19 ディアギレフ・バレー団(客演)

6/22 モーツァルト:「ティート帝の慈悲」(クライバー指揮) ※演奏会形式

6/23 ブゾーニ:「ファウスト博士」(ブレッヒ指揮)

日不明 シリングス:「モナ・リザ」(シリングス指揮)

日不明 プッチーニ:「トスカ」(カヴァラドッシ:ベニャミーノ・ジーリ)

 

●ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

6/4 ベートーヴェン:交響曲第1番、レオノーレ序曲第3番、交響曲第5番(フルトヴェングラー指揮)

6/7 ベートーヴェン:交響曲第9番(フルトヴェングラー指揮)

6/10 マーラー:交響曲「大地の歌」(ワルター指揮)

 

その他、オッフェンバック作曲「青ひげ」のようなオペレッタや、数々の演劇が上演され、またフリッツ・ラング監督の新作映画「月世界の女」が上映されたとのこと。

(以上、菅原透 著「ベルリン三大歌劇場 激動の公演史【1900-1945】」、山下山人 著「フルトヴェングラーのコンサート」を参照した)

 

うーん、たった1ヶ月でこれほど贅沢な公演が目白押しとは…!

聴いてみたいものばかりである。

その他、ソリストや歌手たちのリサイタルもあった可能性だってある。

この1929年のベルリン芸術祭、「黄金の20年代」の集大成というのみならず、もしかしたら史上最高の音楽祭だった、と言っても過言ではないのかもしれない。

 

 

さて、話を「第九」に戻す。

上記の通り、フルトヴェングラーは1929年のベルリン芸術祭で、第九を演奏している。

 

1929年6月7日、ベルリン

指揮:フルトヴェングラー

管弦楽:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

プログラム

Beethoven: Symphony No. 9

(Ria Ginster, Hilde Ellger, Hans Fidesser, Ludwig Hofmann & Bruno Kittel choir)

 

フルトヴェングラーの第九を聴きに行くとすると、私ならこの演奏会を選ぶことになるだろう。

歌手について、フィデッサーとホフマンは、当時のベルリン市立歌劇場を代表するテノールとバス・バリトンである。

ソプラノとアルトはよく知らない人だが、1931年11月2日のブルーノ・ワルター指揮ベルリン・フィルの第九でもこの2人が歌っているようだし、ソプラノのギンスターのほうは1932年ベルリン・フィル創立50年祭でのフルトヴェングラー指揮ベルリン・フィルの第九や、1937年ザルツブルク音楽祭でのフルトヴェングラー指揮ウィーン・フィルの第九でも歌っている(なお、ギンスターの歌声はApple Musicで聴ける)。

きっと、第九を歌うならこの人たち!という選りすぐりの歌手たちなのだろう。

 

ただ、タイムマシンはまだないので、例によって代わりに下記の録音を聴いた。

 

●ベートーヴェン 交響曲第9番 フルトヴェングラー/ベルリン・フィル 1937年5月1日ロンドンライヴ盤(CD

(エルナ・ベルガー、ゲルトルーデ・ピッツィンガー、ヴァルター・ルートヴィヒ、ルドルフ・ヴァツケ、ベルリン・フィルハーモニー合唱団)

 

この録音は、上記演奏会の約8年後のライヴである。

同じベルリン・フィルだし(ベルリンではなくロンドンでのライヴだけれど)、8年しか違わないということで、きっとそれなりに雰囲気の近い演奏なのではないだろうか。

この年代のライヴ録音ということで、音質は最上とはいえない。

しかし、録音にはラジオ放送局だけでなく、レコーディング会社であるEMIも関与していたようであり、そのためか当時としてはしっかりした音で入っていると思う。

楽器間の音量バランスは悪く、木管がやたら大きく聴こえるし、また当時は長時間連続で録音できなかったため、録音原盤交換(?)のつなぎ目が不自然になっている箇所もある。

しかし、決して蚊の鳴くような音ではなく、各楽器しっかりと充実した音が聴かれ、鑑賞に堪える音質だと思う。

当時のフルトヴェングラー/ベルリン・フィルがどれだけ素晴らしく壮絶な名演を繰り広げていたかが、とてもよくわかる録音である。

 

 


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