歌を抜粋してみました。鑑賞・評などと大それたものでは無く
私なりに選ばせていただいた理由を少々、記させていただきます。
(☆新仮名遣い希望者)
尚、冬雷集感想の一部は後日
筑波山の手前の山に新しきふたつの灯白く見えたり
茨城 佐 野 智恵子
居宅の窓から日毎に筑波山眺める作者。
或る日、手前の山に新しい二つの灯りを見つけた。
「新しき」に、作者が感じた新鮮な感動を感じる。
賀状こぬ友の幾人案じつつ雪掻きをする朝に昼に
福島 松 原 節 子
正月に年賀状が届かぬ友を案じつついる作者。
しかし正月とは言え、日常の雪掻きはまった無し。
「朝に昼に」とは、かなりの降雪量。
正月も一息つけない雪国の作者の暮らし振りが窺える。
四人掛けのテーブルほどの大き机移築されたる書斎に置かる
神奈川 桜 井 美保子
(連作より)土屋文明記念館を訪れた作者。
展示されている机は「テーブルほどの」と大きな物であった。
結句「書斎に置かる」は、もちろん置かれていたという事実を語ると共に
その大きな存在感も感じさせる。
たまきはる内なる他者を追ひ払ひしづかな界に住まむと思ふ
東京 天 野 克 彦
「たまきはる」とは、うち・世・命などに掛かる枕言葉。
この一首にあっては、「うち」に掛かる。
「内なる他者」とは、自分の奥底に存在する他人のような、他人で
あって欲しい自分の心の意か。
そんな事を考えていると漱石の「草枕」の一節を想い出す。
『住みにくさが
どこへ越しても住みにくいと
(中略)あらゆる芸術の士は人の世を
救急箱の絆創膏も包帯も正露丸の匂ひ染みつく
東京 荒 木 隆 一
作者の家の救急箱。
絆創膏も包帯も正露丸の匂が染みついていると云う。
開けられても、使われてもいないと云う事か。
裏を返せば“めでたい”と個人的には受け取ったが、真意は如何に。