歌誌「冬雷」2017年 6月号 冬雷集評 | 北山の歌雑記

北山の歌雑記

短歌初心者の戯言
「うたは下手でもよい自分のうたを詠め」
目指す旅路の道中記

電灯を消せば空気清浄器お休みといふ優しい声で

白川道子


消灯の際、センサーが感知して自動的に消えるという空気清浄器。

その際に発せられる「お休みといふ」声。

「優しい声で」とあるのは多分、女性の声であろう。

作者は就寝前のその声に安らぎと親しみを持っている模様だ。


背の低きホトケノザ ナヅナは緑肥とし土にかきまぜ畑を耕す  

兼目 久


作者の畑に茂る雑草。

その中でも草丈の低いホトケノザやナヅナは、そのまま土に混ぜて緑肥と

すると言う。

つまり、天然の窒素肥料にするという事だ。

以前より有機農業への取り組みを歌に詠む作者。

これも作者ならではの内容歌に思う。


箱買ひの林檎そろそろ食べ終はり八百屋の苺持ち来るを待つ

松原節子


作者宅を訪れる八百屋の御用聞き。

以前は林檎を箱で置いていったようだ。

そして作者は今度、苺を持って来るのを待つという。

林檎の無くなる頃合いと、作者の好みを熟知している八百屋。

付き合いの長さと信頼関係の深さが窺える。


胃腸風邪に断食みつか身の軽くなりてとんとん二階へ上る

澤木洋子


作者が罹患した胃腸風邪。

正確にはウイルスの感染による感染性胃腸炎のようだ。

そして三日間食べ物を口に出来なかったと言う。

しかし、そのお陰で身軽になり、階段の昇り降りも楽になった。

「とんとん」の語には、その歩みの軽さに加えて心の軽快さをも感じさせる。


今朝見たる日の位置大分東ひんがしの霞ヶ浦の水辺に近し

佐野智恵子


陽が真東から昇り真西に沈むのは春分・秋分の二日。

他日のそれは微妙に位置が変化するという。

作者がその朝に見た日の出は霞ヶ浦の水辺の近く。

その水辺をキラキラと輝かせて昇る太陽を、作者はじっと眺めていた事で

あろう。


篠竹の雪打ち振ひ立ち直る音に微かな春探す朝

冨田眞紀恵


外気の徐々に暖かさを感じる頃。ふと春の息吹を探そうと外に出た作者。

そこで耳にしたのは覆った雪が溶け出し軽くなったところで、跳ね返し

立ち直った際の篠竹の音。

その「振ひ立ち直る音」に、作者は春の息吹を感じた模様だ。


珈琲のかをりの線香もとめきて珈琲好きの父に供へつ(春彼岸)

天野克彦


珈琲の香りのする線香を求めた作者。
そしてその香りを珈琲好きであった亡父の墓前に供えた。
 

普段の生活の中で忘れかけている故人の好みや思い出。

 彼岸とはそのような事を思い出させてくれる日であると、改めて  

感じさせる内容歌だ。


五種類のマシンそれぞれ下肢筋力体幹強化と云ひ聞かせつつ

山﨑英子


体力強化トレーニングに挑む作者。  

具体的には「それぞれ下肢筋力体幹強化」と五種類のマシンに挑戦する。

結句「云ひ聞かせつつ」に、それが作者に取っては容易な運動ではない

事と、それでも、これからも健康に過ごしていきたいとの作者の強い意志が  

感じられる。


実際の誌面はこちら。

http://www.tourai.jp/tourai.html の14ページ目です。

なお、27ページには

「身体感覚を歌う⑯ 学校と生徒」と題する橘 美千代氏の一文がある。

「気付きこそ大切だ。」は、生徒に限らず我々にも言える事。

気付きから生まれる新たな発見が感動を呼び起こすのかも知れない。


なお六月号で冬雷集評の担当を終えさせていただく事になりました。

今までご覧いただきましてありがとうございました。


         

にほんブログ村    



俳句・短歌 ブログランキングへ