歌誌「冬雷」2017年 8月号 私の心に残った歌 その8 | 北山の歌雑記

北山の歌雑記

短歌初心者の戯言
「うたは下手でもよい自分のうたを詠め」
目指す旅路の道中記

前回に引き続き歌誌「冬雷」8月号の中で、私なりに特に心に残った 

歌を抜粋してみました。鑑賞・評などと大それたものでは無く

私なりに選ばせていただいた理由を少々、記させていただきます。  

(☆新仮名遣い希望者)


我が住まふ四方の山の緑濃く居間にさし来る日の色みどり

岩手 斎 藤 陽 子


作者が居住する住宅。

そこは「四方の山の緑濃く」と、緑に囲まれた一帯のようだ。

そして「居間にさし来る日の色みどり」と、居間に差し込む日の光さへも

若葉を透かしてみどり色だという感激で結ばれている。

結句「日の色みどり」の柔らかな言葉の音が、そのみどり色の温か味をも

連想させる。


抉られて土あらはなる崖の端に捩ぢれて太し剝き出しの根は

東京 小 林 芳 枝


土砂崩れであろうか。

「抉られて土あらはなる崖の端に」見入る作者。

そしてそこに見える「捩ぢれて太し剝き出しの根は」と感慨深げだ。

土をえぐり取る自然の猛威。

そしてそこからは、本来は見える筈の無い「捩ぢれて太し」木の根。

実際に見られた光景と、本来見る事の出来ない光景の重ね合わせに

作者の観察眼と表現の工夫が感じられる。


庭遊び先代猫の好む柿二代目猫の近寄らぬ柿

埼玉 小久保 美津子


庭遊びに興じる作者の飼い猫。

「その先代猫の好む柿」の実。

そしてそれは「二代目猫の近寄らぬ柿」の実でもある。

その両極端な猫の興味の個性に面白さを感じ、簡潔に作歌した点が面白い。


春水のながれたぎちて箒川釣り人あまたはなびらの中

埼玉 町 田 勝 男


箒川とは栃木県那須塩原市に源流を発し、塩原渓谷の川沿いの谷間を

流れる河川のようだ。

そしてその渓谷沿いは塩原温泉郷として知られる。

そこはヤマメ・イワナの釣りのメッカで、「春水のながれたぎちて」と春

増水期間には、地元の漁業協同組合で魚の放流も行われている。

そのような箒川には当然、「釣り人あまた」。

そして川に入って釣りを楽しむ人々は、上流から散った「はなびらの中」で

あるという。

その釣り人の様子や春の光景を眺め楽しんだ作者の憩いの一コマが

感じられる内容だ。


毎年の梅仕事なれば手も早しもう料理本開くこともなし

東京 大 塚 雅 子☆


毎年、梅干しを漬け込む作者。

毎年の梅仕事なれば手も早し」と、その作業の慣れを自ら実感出来る

域に達したようだ。

そして「もう料理本開くこともなし」と、その工程もしっかりと身に付いた様子。また「早し」・「なし」の歯切れのよい終止形の区切り方にも、作者に備わったその作業の確かな習得を充分感じさせる。

 


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