歌を抜粋してみました。鑑賞・評などと大それたものでは無く
私なりに選ばせていただいた理由を少々記させていただきます。(☆新仮名遣い希望者)
トロ箱に小ぶりの秋刀魚うち揃ひ街おこしといふ祭はじまる
岩手 田 端 五百子
水産物を入れるトロ箱。
その中には小ぶりの秋刀魚がぎっしり。
「うち揃ひ」に大振りの物は見当たらないとの実感が見える。
「祭はじまる」の「祭」はイベントの事だ。
この場合の「祭」には街おこしイベントが、いよいよ始まるのだとの
期待感が感じられる。
熟練のオペレーターのタッチする画面通りに鉄板曲がる
千葉 黒 田 江美子
工場見学に訪れた作者。
そこで作者が目にしたのはオペレーターのタッチする画面通りに鉄板が
曲げられる光景。
熟練の職人が行う作業ではなく、「熟練のオペレーター」の作業と云う
ところが現代の工場における生産工程の有り様を窺わせる。
台風の過ぎて気付けり鉄線の茎がすくりと伸びていること
埼玉 江波戸 愛 子☆
台風の過ぎて、ようやく日差しの戻った天候。
飛来したゴミの片付けの合間であろうか。
「気付けり鉄線の茎がすくりと伸びていること」と、悪天候の中でも成長して
いた鉄線に気付いた作者。
「すくりと」に、その強靭さを感じた作者の感動があるように思う。
思うことすらっと話せる母の前老いても唯一子となれる時
埼玉 野 崎 礼 子☆
家族に囲まれての作者の生活。
そこでも何かしらの気兼ねを感じると思うのは、家庭といっても社会の
縮図であるが故であろう。
そのような中でも、「思うことすらっと話せる母の前」という作者。
家庭では「母」もしくは「祖母」の立場である作者。
それでも母の前では「老いても唯一子となれる時」と、今でも心安らぐ母の
存在に作者の安心感が感じられる。
今年こそ古いセーター捨てようと思いつつ着てどこか落ちつく
栃木 川 俣 美治子☆
「今年こそ古いセーター捨てようと」思いつついる作者。
しかしながら着慣れた衣服に愛着は付き物だ。
そして実際に着てみると、「どこか落ちつく」。
私にも思い当たる服が無数にあり、共感できる内容歌だ。