歌誌「冬雷」2018年 4月号 私の心に残った歌 その5 | 北山の歌雑記

北山の歌雑記

短歌初心者の戯言
「うたは下手でもよい自分のうたを詠め」
目指す旅路の道中記

前回に引き続き歌誌「冬雷」4月号の中で、私なりに特に心に残った 

歌を抜粋してみました。鑑賞・評などと大それたものでは無く

私なりに選ばせていただいた理由を少々記させていただきます。  

(☆新仮名遣い希望者)


恐れ入る老舗の箱に届きたるデコポンまずは仏へひとつ

埼玉 田 中 祐 子☆


デコポンとは熊本果実連所有の登録商標。

その商標は収穫された不知火系の柑橘類の中でも、特に高品質を保つ

一定の糖度基準を満たした特定の品だけに許されるようだ。

そのデコポンが恐れ入る」と形容する老舗の果物店の箱に入れられて

作者の元に届けられた。

「まずは仏へひとつ」の「まずは」に、作者が仏(ここでは親しかった故人や

先祖の意であろう)を尊ぶ姿勢と、いの一番に報告に変わらぬ恋慕の

想いが伝わってくる。


鳩も来て及び腰なる雀たちそれでも逃げず共に啄む

 茨城 飯 嶋 久 子☆


(連作より)雪の上に飯粒を撒いた作者。

しばらく雀が啄んでいたようだが、そのうちに体が大きな鳩がやって来た。

及び腰なる」に、それまで元気に啄んでいた雀たちが急に遠慮がちな

姿勢に変わっていった事がが窺える。

しかしながら、何と言っても餌の限られた冬期間。

「それでも逃げず共に啄む」には、共存といったのどかな雰囲気は無く

生存を掛けた雀らの必死な行動として、作者に印象付けられたように

思われた。  


七十になりて初の男役こなして踊る演芸会に

埼玉 江波戸 愛 子☆


演芸会に男役として出演した作者。

七十になりて」に、まったく思いがけない出来事となった事を感じさせる。

そして「こなして踊る」には、その役柄を何とかやり遂げた作者。

それなりの手ごたえや、充実感が得られた事が感じられる。

 

木の実皆喰い尽くされたる枯庭の葉ボタン啄み小鳥飛び去る

 東京 酒 向 陸 江☆


木の実も食べ尽くされた庭先。

その荒涼とした光景を枯庭と評する作者。

そのような空間に辛うじて残っていた葉ボタン。

それまでも啄み去って行く小鳥の貪欲さには半ば驚きつつも冬場に生き

延びて行く事への厳しさを、作者は感じ取っていたのかも知れない。  


峡の雪小止みのけふは何おいてもわが糧求めに朝のバスに乗る

福井 橋 本 佳代子


作者の住む山峡の地に降り続いた雪。

それも小止みとなって、朝に街へ向かうバスに乗り込んだ作者。

その行き先は「わが糧求めに」と、食料の買い出しだ。

作者の住む集落は食料品を商って生計が立てられるほどの規模を

有していないという事であろう。

何おいても」に、その地で暮らす上での根本的な切実さは何であるかが

伝わってくる。


 
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