私たちの居酒屋の近隣に、今年の初めに立ち退きに遭って引っ越してきた

飲食店があります。ご主人は60歳を少し超した男性で後継者もいないので、

お店を辞める選択肢もあったと思うのですが、体は人一倍元気そうなので、

本人は現役を続けると決意をなされたようで、こちらへ移転されたようです。

 

このご主人については以前にも記事を載せていますので、そちらもご興味が

ございましたら、こちらの方へ(私が働き始めた居酒屋についての風聞は?)。

便宜上、ここからはご主人のことを「K龍」氏の呼称でご紹介していきます。

奥様とお二人で飲食店を経営されていて、子供はいますが継がない予定。

 

私が母の居酒屋に勤め始めてから10ヵ月が過ぎた今現在、夜の時間帯に

集まっている客層が、以前とはかなり変化したように見受けられています。

具体的には、60~70代が平均的に多く集まっていたのが、今は40代後半~

60代前半の客層がそれに代わったので、雰囲気はかなり変わっています。

 

実際は、私の立場は母の居酒屋の従業員に過ぎませんが、「マスター」と

母がそう言われることで、お客様への変化に繋がったのかも知れません。

そのせいでしょうか、K龍氏も以前は、半年に一度来ていた程度でしたが、

現在は毎日か、少なくても、二日と空けない頻度で通って来られています。

 

これまでに当店では、お行儀が良く、特に問題も起こさない人でしたので、

まさかこの人が原因で、当店を巻き込む事件が起こされるとは驚きでした。

事の発端は、K龍氏の奥様が来店して、相談を持ち掛けたのが始まりで、

事情を聞きますと、私の亭主を出入り禁止にしてほしいとおっしゃいます。

 

それだけでは出入り禁止の理由にできませんので、更に理由を尋ねると、

亭主が当店に来ている女性客から色目を使われている、というお話でした。

仮にも自身が飲食業を生業に籍を置く人間が、個人の私情を理由にして、

常連様を出入り禁止をお願いしている異常さに、狂気を垣間見ました。

 

ある晩に事件は起こります。当店が超満員で、カウンターもお座敷にも、

お客様が詰めあい座っていたときのことです。K龍氏がカラオケを始めた

途端に玄関の扉が開き、K龍氏の奥様が衆目の中鬼気迫りながら進み、

K龍氏のグラスを掴むと、入っていた氷入りの焼酎をぶちまけたのです。

 

お座敷の畳はずぶ濡れて、隣にいたお客様と私の服がその被害に遭い、

K龍氏の握っていたマイクも故障するといった、ひどい有様の状態でした。

この乱行でも、その場の20人以上の人から白い目が向けられたのですが、

さらにその一週間後に、事件はクライマックスを迎えることになるのです。

 

それは警察官が当店に現れたことがきっかけでした。外で女性が頭から

血を流しているがこちらのお店とは関係がありませんか、と聞かれました。

K龍氏はパトカーに、奥様は救急車に乗車をして、いずこかへ去りました。

当店へ向かったK龍氏と、行かせまいとする奥様の騒ぎだったようです。