長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

第90回アカデミー賞予想

2018-02-23 | 賞レース

【2/23更新 受賞予想編】

さて3月4日に第90回アカデミー賞が開催される。
各批評家賞、組合賞、英国アカデミー賞ら前哨戦が発表され、大混戦と言われた今年の賞レースもいよいよ決着が見えてきた。
このタイミングで予想をするのはいささかズルい気もするので、今回は作品毎に受賞の可能性“オスカーポテンシャル”について注目していきたい。

『シェイプ・オブ・ウォーター』(最多13部門候補)
監督 ギレルモ・デルトロ
同じくフォックスサーチライト配給の『スリー・ビルボード』と作品賞争いを続けてきた本作。最多13候補、オスカー直結率の高い製作者組合賞の獲得で受賞ポテンシャルが上がってきたが、それでも時の運は『スリー・ビルボード』にある。今年はなぜか早い段階から“『シェイプ・オブ・ウォーター』は作品賞は取れなくても監督賞は鉄板”という空気が出来上がっており、監督のデルトロは組合賞はじめ今年の主要賞を独占。『パンズ・ラビリンス』でのオスカー候補経験、ヒットメーカーとしてのハリウッドでの貢献も考慮すると、いよいよ受賞のタイミングが揃った。サリー・ホーキンスら計3人が演技部門に候補入りしたが、より受賞確立が高いのは衣装や美術の技術部門だろう。


『ダンケルク』(8部門候補)
監督 クリストファー・ノーラン
作品賞候補中一番の興行収入、アカデミー(特に高齢会員)ウケし易い戦争モノというポテンシャルながら、夏公開というハンデか一向に盛り上がりが見られない。『ダークナイト』『インセプション』『インターステラー』とこれまで散々アカデミーから無視されてきたノーランは初の監督賞候補入り。本作品の要とも言える編集賞が最も受賞可能性が高いだろう。


『スリー・ビルボード』(6部門7候補)
監督 マーティン・マクドナー
ゴールデングローブ賞、俳優組合賞を制して今年の作品賞本命候補に躍り出た…のだが、肝心要のマーティン・マクドナー監督がまさかの候補洩れ(脚本賞にはノミネート)。監督賞ノミネートなしの作品賞受賞はほぼ前例がないため、これで一気に本命候補から落選か…と思われたが、どういうワケか今年は早い段階から“作品賞と監督賞は別”という空気が出来上がっており、本作のBuzzは依然健在。世間では銃規制を3つのビルボードを用いて訴えるなど権威、権力に対して声を大にする方法として社会現象化しており、これも猛烈な追い風だ。


『ウィンストン・チャーチル  ヒトラーから世界を救った男』(6部門候補)
監督 ジョー・ライト
前哨戦で全くいい所がなかったが、英国アカデミー賞ともども複数候補に挙がり急浮上。悲願の主演男優賞受賞へ王手をかけるゲイリー・オールドマンにとって嬉しい後押しだ。彼に本作出演を決意させた辻一弘によるメイク賞も最有力。


『ファントム・スレッド』(6部門候補)
監督 ポール・トーマス・アンダーソン
今年最大のサプライズ候補。もともと批評家ウケは良かったが、公開時期の遅さからか前哨戦では出遅れていた。作品賞のみならずptaの監督賞、さらにレスリー・マンヴィルの助演女優賞まで候補入りするとは思わなかった。衣装デザイン賞、そしてptaとは4度目のタッグとなるジョニー・グリーンウッドの作曲賞に期待がかかる。そして既に3度の主演男優賞に輝いているダニエル・デイ・ルイスは本作を機に俳優業からの引退を表明。それが投票行動に影響を及ぼすのか、ダークホースとして侮れない。


『レディ・バード』(5部門候補)
監督 グレタ・ガーウィグ
前哨戦では一番と言っていい人気を誇ったが、本戦でのオスカーチャンスはほとんど残っていない。レース序盤、最有力だったローリー・メトカーフの助演女優賞は『アイ、トーニャ』のアリソン・ジャニーに取って代わられ、シアーシャ・ローナンの主演女優賞も今や3番手。初の単独監督作でここまでの成功を手にしたガーウィグはノミネートこそ勝利と見るべきだろう。但し、“Me too”がさけばれ、これまでになくハリウッドにおける女性の立場が見直された2017年、唯一の“女性監督による女性主人公作品”が集める票は決して少なくないはず。作品賞レースの大穴と見る。


『ゲット・アウト』(4部門候補)
監督 ジョーダン・ピール
ホラー映画ながら作品、監督、主演男優、脚本の主要賞でノミネートされる大大大快挙。批評家賞では作品賞本命の『スリー・ビルボード』『シェイプ・オブ・ウォーター』を差し置いての人気を誇り、本戦でもこの2作で票が割れればダークホースとして浮上する事も有り得る(『ダンケルク』に次ぐ、国民的ヒット作というアドバンテージも大きい)。最有力は監督ピールが手掛けているオリジナル脚本賞か。ただし、この部門は作品賞候補作『スリー・ビルボード』『シェイプ・オブ・ウォーター』『レディ・バード』らが競合する今年最大の激戦区(しかも全て監督兼任)。作品賞の行方を占う分水嶺はここだ。


『君の名前で僕を呼んで』(4部門候補)
監督 ルカ・グァダニーノ
当初、最有力と見られたティモシー・シャラメの主演男優賞はゲイリー・オールドマンに水を開けられた。史上3番目の若さとなるノミネート記録、まだまだ未来は明るい。大御所ジェームズ・アイボリーが手掛けた脚色賞が本命となるだろう。


『ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書』(2部門候補)
監督 スティーブン・スピルバーグ
賞レース開始時こそ大注目を浴びたが、その後Buzzは尻すぼみ。たった2部門の候補に留まるとは意外だった。巨匠スピルバーグ、もはやちょっとそっとの作品では“良くて当たり前”と思われているのか、それともアカデミーが世代交代を求めているのか。それでも常連メリル・ストリープは自身の持つノミネート記録を21へ更新した。


【番狂わせがなければこうなる】
作品賞 『スリー・ビルボード』
監督賞 ギレルモ・デルトロ『シェイプ・オブ・ウォーター』
主演男優賞 ゲイリー・オールドマン『ウィンストン・チャーチル』
主演女優賞 フランシス・マクドーマンド『スリー・ビルボード』
助演男優賞 サム・ロックウェル『スリー・ビルボード』
助演女優賞 アリソン・ジャニー『アイ、トーニャ』
脚本賞 『ゲット・アウト』
脚色賞 『君の名前で僕を呼んで』
編集賞 『ダンケルク』
撮影賞 『ブレードランナー2049』
美術賞 『シェイプ・オブ・ウォーター』
衣装デザイン賞 『ファントム・スレッド』
メイク賞 『ウィンストン・チャーチル』
視覚効果賞 『猿の惑星/聖戦記』
録音賞 『ダンケルク』
音響効果賞 『ダンケルク』
作曲賞 『ファントム・スレッド』
主題歌賞 『グレイテスト・ショーマン』
長編アニメ賞 『リメンバー・ミー』
外国語映画賞 『ナチュラル・ウーマン』
長編ドキュメンタリー賞 『イカロス』


※この記事は1/7のノミネート予想記事に上書きしています※



今年もやります。アカデミー賞レース予想。まずはノミネート予想編(1/7時点)。


【作品賞候補予想】

(候補確実)
・『ゲット・アウト』
・『レディ・バード』
・『シェイプ・オブ・ウォーター』
・『スリー・ビルボード』
・『ダンケルク』
・『ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書』

(候補に期待が持てる)
・『君の名前で僕を呼んで』
・『ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ』

(候補当落ライン)
・『I, Tonya』
・『The Florida Project』
・『マッドバウンド 哀しき友情』

(候補に上がるべき)
・『ワンダーウーマン』

例年、1月になれば先頭走者が抜け出し、レースの行方も見えてくる時期だが、今年は未だ本命不在の大混戦だ。
指針となる各批評家賞選出の作品賞はいずれもバラバラで、4~5作品の先頭集団が抜きつ抜かれつの状態にある。ほとんどの作品が日本劇場公開前のため、あくまで印象論になるがいずれも玄人好みの小品で、いわゆる“アカデミー賞っぽくない”のも予想を困難にする理由の1つだ。

前哨戦でわずかな差だが一番の勝ち星を挙げているのは何と低予算ホラー『ゲット・アウト』。
差別問題をブラックユーモアと血糊で隠した本作は昨年春に後悔されるや爆発的なヒットを記録。批評家も大絶賛を送ったが、まさか年末までその勢いを持続するとは思わなかった。いや、むしろ(残念なことに)高まる排外主義、差別、そしてトランプ政権の横暴に対するカウンターとしてさらに真価が認められてきているようにすら感じる。近年のアカデミー賞は『ゼロ・グラビティ』や『マッドマックス/怒りのデス・ロード』に大量受賞させるなど、ジャンル映画にも寛容。ノミネートまでは確実だ。

そのすぐ真後ろを走るのが女優グレタ・ガーウィグの単独初監督作『レディ・バード』。10代少女の青春を描く小品はトマトメーターの連続100%記録を更新するほど批評家に愛された。そして“Me too”の声が上がった2017年、女性監督による女性主人公映画でオスカーの可能性があるのは本作だけだ。ハリウッド中の女優が手を取り立ち上がった今年、本作がより多くの票を集めるかも知れない。
同じポテンシャルでは『ワンダーウーマン』もぜひノミネートされるべきだ。直結率の高い製作者組合賞にもノミネートされて期待が高まるが、オスカーは未だアメコミ映画を冷遇している。昨年も『デッドプール』が前哨戦で気を吐いたが、叶わなかった。作品賞候補枠を10に拡大したのなら、ぜひノミネートされるべきだと思うのだが…。

ベネチア映画祭を制した『シェイプ・オブ・ウォーター』、オスカー直結率の高いトロント映画祭で観客賞を受賞した『スリー・ビルボード』も有力。ただし、前者は人間と半魚人の恋を描いたラブストーリーで、後者はクセの強そうな小品。どちらも“アカデミー賞っぽくない”のである。

“アカデミー賞っぽい”のはクリストファー・ノーラン監督の戦争映画『ダンケルク』と、スティーブン・スピルバーグ監督の社会派ドラマ『ペンタゴン・ペーパーズ』。但し、どちらもこれまでの監督作に比べると熱狂の温度はやや低めな気がする。


【監督賞候補予想】

・ギレルモ・デルトロ『シェイプ・オブ・ウォーター』
・グレタ・ガーウィグ『レディ・バード』
・ジョーダン・ピール『ゲット・アウト』
・クリストファー・ノーラン『ダンケルク』
・マーティン・マクドノー『スリー・ビルボード』
・スティーブン・スピルバーグ監『ペンタゴン・ペーパーズ』

作品賞候補が混迷すれば当然、こちらの部門も荒れる。作品賞とのアベック受賞が常だが、今年は割れるのではないだろうか。
やや先頭に出ているのはギレルモ・デルトロ。『パンズ・ラビリンス』でのオスカー実績もあり、盟友アルフォンソ・キュアロン、アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥらがオスカーを獲った御陰でアカデミーにはメキシコ系監督に対する評価も固まっている。

『ダークナイト』『インセプション』で無視されてきたクリストファー・ノーランもそろそろ頃合い。戦争映画というフォーマットは老会員にもウケるだろう。

グレタ・ガーウィグ、ジョーダン・ピールらはノミネートされるべきだが、この部門を選出する監督部会は新人や若手に厳しい印象。果たして女性監督、黒人監督をノミネートする気概があるのかは不明だ。またハリウッドからすると“外様”になる英国人監督マーティン・マクドノーも安泰ではないと思う。彼らの票が分散すると大御所スピルバーグが浮上する可能性も高い。近年は作品賞候補に挙がっても監督賞候補を逃すケースが多いが、年配会員ほど困った時には巨匠の名前を書きそうだ。


【主演男優賞候補予想】

(候補確実)
・ゲイリー・オールドマン『ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男』
・ティモシー・シャラメ『君の名前で僕を呼んで』
・ダニエル・カルーヤ『ゲット・アウト』
・ジェームズ・フランコ『The Disaster Artist』

(当落ライン)
・ダニエル・デイ・ルイス『ファントム・スレッド』

既に本命オールドマン、猛追するシャラメの構図が出来上がっている。
オールドマンは映画公開前から本命候補の呼び声が高く、公開後も勢いをキープ。実在の人物役、特殊メイクで大変身という“アカデミー賞っぽい”要素が揃っており、キャリアの長さからも受賞のタイミング。おそらくこのまま逃げ切るだろう。

追うのはティモシー・シャラメとダニエル・カルーヤのフレッシュな若手。例年ならば新人を2人もノミネートする事はなさそうだが、今年は手薄な部門。他に有力候補がいない事にも助けられそうだ。やる気のないオスカー司会でアカデミー会員に睨まれてそうなジェームズ・フランコも監督、主演作でそろそろ禊か。

本作で引退を表明しているダニエル・デイ・ルイスは既にオスカーを3つも持っている殿堂入り級の名優。当然、今回もノミネートまでは安泰…と期待したくなるが、直結率の高い俳優組合賞では『Roman J. Israel, Esq』のデンゼル・ワシントンに弾き出された。デンゼルは作品評価が伸び悩み、批評家賞でも全く名前が上がらなかったが、昨年も組合賞で大本命のケイシー・アフレックをうっちゃるほど俳優仲間からの支持が厚い。最後の1枠にサプライズ候補が入る可能性はある。


【主演女優賞候補予想】

(候補確実)
・フランシス・マクドーマンド『スリー・ビルボード』
・サリー・ホーキンス『シェイプ・オブ・ウォーター』
・シアーシャ・ローナン『レディ・バード』
・マーゴット・ロビー『I, Tonya』

(当落ライン)
・メリル・ストリープ『ペンタゴン・ペーパーズ』
・ジェシカ・チャステイン『モリーズ・ゲーム』
・ジュディ・デンチ『Victoria and Abdul』

今年最大の激戦区。
作品賞候補有力作に主演した上位4名は候補確実。対象作が混戦を抜け出せば、そのままオスカーを受賞するかも知れない。

読めないのは最後の1枠。3人ともゴールデングローブ賞にノミネートされているが、最重要の俳優組合賞ではジュディ・デンチが抜け出した。最後の1票に困った会員がデンチやストリープら常連組の名前を無難に選ぶ事も大いにあり得る(2人ともまるで指定席でもあるかのように候補入りする)。
ジェシカ・チャステインは批評家賞で出遅れたが、対象作が製作者組合賞に候補に挙がり、勝機が出てきた。オピニオンリーダーとしての元気の良さもアピールにつながるだろう。


【助演男優賞候補予想】
(候補確実)
・ウィレム・デフォー『The Florida Project』
・サム・ロックウェル『スリー・ビルボード』

(可能性大)
・リチャード・ジェンキンス『シェイプ・オブ・ウォーター』
・ウディ・ハレルソン『スリー・ビルボード』

(当落ライン)
・スティーブ・カレル『Battle of the Sexes』
・マイケル・スタールバーグ『君の名前で僕を呼んで』
・アーミー・ハマー『君の名前で僕を呼んで』

既に世評はデフォーか、ロックウェルかと受賞予想に入っているが、他の3枠はやや流動的だ。
対象作に勢いのあるリチャード・ジェンキンスは候補可能性大。同一作品からの候補となる『スリー・ビルボード』のハレルソン、『君の名前で僕を呼んで』のスタールバーグとハマーは票割れに泣かされる可能性も高く、最後まで油断できない(ロックウェルにはその影響はなさそう)。

票割れと言えばスティーブ・カレルで、直結率の高い俳優組合賞では助演候補だが、ゴールデングローブ賞等の主要賞では主演候補に挙がっている。この主演、助演のカテゴリー分けはあくまで投票者の主観に委ねられており、結局候補に入らない事もよくある。

…となると上記候補が全滅し、全く予想外の名前が呼ばれる可能性も大きい。ノミネート発表までがスリリングな部門だ。


【助演女優賞候補予想】
(候補確実)
・ローリー・メトカーフ『レディ・バード』
・アリソン・ジャニー『I, Tonya』
・ホリー・ハンター『ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ』
・メアリー・J・ブライジ『マッドバウンド 哀しき友情』

(可能性大)
・オクタヴィア・スペンサー『シェイプ・オブ・ウォーター』

(当落ライン)
・ホン・チャウ『ダウンサイズ』

大混戦の今年、既に大勢が決まりつつある唯一の部門。
先頭走者『レディ・バード』のメトカーフ、その後ろを『I, Tonya』のジャニーが追いかけ、オスカー受賞もこの2人のどちらかになるだろう。

俳優組合賞で候補に挙がったホン・チャウだが、対象作は興行的にも失敗し、やや勢い不足。ここは『シェイプ・オブ・ウォーター』の勢いも手伝って常連スペンサーが最後の1枠に滑り込むのでは。



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