※長すぎるようなので(1)と(2)に分かれています。

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台所から、お醤油の湯気の匂いがする。

きっと、今夜は肉じゃがと、長葱のおつゆが出る。
だって、お父さんがいる 日曜日だもの。
よう子はお母さんも大好きだけど、ほとんど家にいない、

忙しい忙しいお父さんが大好き。
お父さんは 朝、よう子が起きる前に家を出て、

夜、眠ってから帰って来る。
小さい頃、お母さんに、お父さんは普段は何処に住んでいるの?
と、聞いてから、

時々、枕元にお手紙や、お土産が置いてあるようになった。

「ぴょん子へ お父さんです。
  お父さんは、ちゃんと、ぴょん子の家に一緒に 住んでいます。
  わすれないでね。
  ぴょん子と今度のお休みに、一緒に行こうと思っている海の写真だよ。
  楽しみに、していてね。      お父さんより」

最初のお手紙も、そのあともらったのも全部、

よう子の「大事箱」の中にしまってある。
海の写真は、お父さんがいつも読んでる「しゅうかんあさひ」の切り抜き。
小さい潜水艦みたいな、小島は「えのしま」。
家族みんなでえのしまに行った。島なのに、立派な橋で陸と繋がってた。
潜水艦の潜望鏡に見えたのは展望台。

上まで行ったら、青い空と白波の海がたくさん見えた。

「島のてっぺんに住んでる神さまに、ごあいさつして帰ろう。」

そう言うお父さんの大きい手にぶらさがって、

よう子はとっても楽しく、満足した気持ちだったんだ。


肉じゃがと長葱のおつゆは、お父さんの大好物。

長葱は苦手だけど、我慢してのむんだ。





そんな事考えたり、思い出したりしながら月曜日の時間割を揃えていると、
航海日誌に目が止まり、また、いむらさんの事が気になってしまう。
一体、いむらさんは、なんでわざわざ、このノートを探していたのか。
ごめんなさいって、言ったって事は読むつもりで、

拾ったんじゃなかったんだ・・・。
よう子は両手でノートを支えて、じっくりと表紙の写真を眺めてみた。

濃紺の宇宙に空いた針穴の様な星が真ん中に、ぎゅううっと詰まった、銀河の写真。
銀河は、星のかたまりって、お兄ちゃんの図鑑「星と天体」に書いてあった。
いむらさんは、星が好きなのかもしれない。
壁の釘に引っ掛けた肩掛けバックから、

あの薄緑の星を取りだしてノートの上に置いてみる。

「あれ?」

今まで、気が付かなかったけれど、写真の左下に、白い文字で英語が書いてある。

「おにいちゃん、英語読める?」
「なんだよ、急に。読めるわけないだろ、

 英語を習うのは来年中学生になってからだ。」

二段ベッドの上からお兄ちゃんが、威張った声で答えた。

「なーんだ、読めないのか。だめだなあ、たける君は。」
「うるさいな!習う前に読める訳無いだろ!赤目のぴょん子!」