魔女は 不機嫌な顔で言い放った後、急に気を変えました。

 

「だがね、あんたがわたしの やってくれ、っていう事をしたならば

あんたを おいてやっても構わないよ。」

「そりゃあ、どんな事ですかい?」

「明日、うちの畑を掘り返すのさ。」

 

兵隊に断る道はありません。

約束をして 泊めてもらいました。

あくる日 懸命に仕事をしましたが 

日暮れ前になっても仕事は終わりませんでした。

 

「わかってるさ、今日中に仕事は終わりゃあしないってね。

もう一晩、泊って働くんだ。

明日は、荷車一台分、薪を割って細かくこなすんだ。わかったね。」

 

赤く濁った魔女の目で睨まれたらいやだなんて言えません。

兵隊は こくこく頷くばかりです。

あくる日 日の出前から仕事を始めても

やっぱり片付きませんでした。

 

「ほうほうほう。構やしないんだ。

もう一晩泊っていきな。

そしてね、明日はほんのちょっぴり仕事してくれりゃあいいんだよ。

うちの裏手にから井戸があってさ、

その中にわたしの大事な燈火が落ちてしまった。

青くて消えないあかりさ。

それを降りてって 持って上がってくれりゃあいい。」

 

さて、三日目の朝が来ました。

魔女は兵隊を 黒い大きな籠に乗せ から井戸の底へ降ろしました。

滑車が ぎいぎいと軋みます。

恐る恐る そこを透かし見ると たしかに

冬の星のように、青く瞬くものが見える。

ぎいぎい、ぎいいい。

振り仰げば 丸く切り抜いたような空を背に

ざんばら髪の魔女の影。

早く降りろと 指を振ります。

 

ぎいぎい、ぎいいい。

 

 

ぎいぎい、ぎいいい。

 

 

そして、籠がくらりと傾く。

どうやら底に着いたよう。

 

籠から身を乗りだして 青いあかりを 引き寄せました。

それは、黒い鋳物のカンテラで 透き通った青い火が

ゆららゆららと燃えています。

硝子をさわっても、別に熱くもありません。

なんて、不思議・・・。

 

男が魔法の火に見惚れていると 籠が強い力で引きあがり始めました。

魔女が 全身で踏ん張って 引き始めたのです。

 

籠が 井戸の縁まで上がったところで

性悪女が 鉤爪剥きだして 兵隊の手から

青いあかりを もぎ取ろうとしました。

 

「おっと、そうはいかないね。俺が地べたの上に立ってから出なきゃ

こいつはあんたに渡しはしない。」

 

兵隊には 魔女の腹黒い考えがわかっていました。

魔女は 気違いのように喚き散らし怒り狂い

せっかく引き上げた兵隊とあかりを 井戸の底へ落としてしまい

そのまま何処かへ消えてしまった!

 

男はどうなったか?

どうもならず、怪我ひとつしてなくて

井戸の底にしゃんと立っていました。

あかりはあいかわらず、静かに燃えています・・・。

 

湿った黴臭い井戸の底。

命はあれど 時間の問題。

王様のもとを去ってから にっちもさっちもいかないまんま。

しょんぼりと 立ちすくむ。

 

ふと、懐を上から抑え、探ると

刻みタバコが半分詰まったパイプが出て来ました。

 

「この世のなごりのお楽しみが、この一服。

せいぜい味わうか。」

 

そう呟いて カンテラの中にパイプを差し込み火を吸い着けました。

胸いっぱいに 香りを吸い込み 上に向かって煙を吹きました。

 

「旦那様、ご用は何でしょう?」

 

 

ひとりきりと思っていたのに

声がして 男は心底仰天しました。

いつの間にか、青いあかりの光の輪の中に

真っ黒な しわくちゃの小人が現れたのです・・・!

 

                       つづく!!!!

 

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魔女が、うっかりしたんでしょうね。

手に入れた魔法の青いあかりを 自在に操れず

井戸の中に 逃げ込まれた理由は何だったのか

描かれていない部分まで空想して楽しんでいます。

 

やっとこ 兵隊を騙して あと一息で取り戻せると思ったのに!

 

キイキイ怒って 消えちゃう魔女。

怖いけど いい気味です。

 

きっとそうとう悪い奴(`∀´)