『今週は過去記事の再掲ウィーくです。今回は最終回!』

 

ふじわらさんは、わたしが新卒で入社した会社にいた先輩でした。

 

仕事はまじめですが、自分のことで精いっぱいという感じで、あまり要領も良くない方でした。

 

なので、よく仕事のことで上司から叱られていました。

 

気落ちしてるだろうなと思って声をかけると、

「全然大丈夫だ」と屈託のない笑顔を返してくれました。

 

あとで聞くと、全然大丈夫じゃなかったのです。

 

「全然大丈夫だ」はふじわらさんの口癖だったのです。

 

ふじわらさんは不思議な行動が多いので、よく社内で話題になっていました。

 

例えば、「国立競技場に午前10時待ち合わせ」というメモを見て、

JR中央線の「国立」駅に行って、「この辺に競技場はありますか?」と訊いてみたり、

 

テレビでやっている朝の占いを観たら、

今日は外に出ない方がいいでしょうとあったので、

休んでいいですかと会社に電話してきたリ、

 

ある企業へのプレゼンで競合他社をすごく褒めた資料を作成して、

その会社から「もう来なくていい」と出禁になったり、

 

昼食をみんなと食べに行って、納豆定食を注文し、半分くらいまで食べて、

「あー、もう食えねえや、もったいないからお前食べなよ」

とグジャグジャ搔き混ぜた納豆ご飯をわたしに渡そうとしたり、

 

とにかく話題に事欠かないひとでした。

 

食事のエピソードではもう一つ。

二人でスパゲティを食べていた時も、

「おまえのスパゲティおいしそうだな」というので、

「一口食べますか」と皿を差し出すと、

「え、いいの?」とフォークをグサッと差し込み、

グルグルっと大量に巻き込んで、ほとんどのスパゲティをさらっていったのです。

食べた後、「ごめん、おれの一口は大きいんだよ」と言って、

ガハハハ笑っていました。

 

やはり、ふじわらさんの一番のエピソードは、ご本人から聞いた話ですが、

 性病にかかってしまった話です。

 

自宅のトイレで排尿した時に、急に尿道が痛くなり、

奥さんにそれを言ったところ、医者にすぐ診てもらいなさいと、

奥さん同行で泌尿器科に行ったそうです。

 

泌尿器科の待合室はそこそこ混んでいて、

結構待った後にふじわらさんの名前がやっと呼ばれました。

 

医務室でお医者さんはふじわらさんに問診するのですが、

耳が遠いせいか、やけに声がでかいなと思ったそうです。

 

ふじわらさんは早速その場で検査され、

結果もすぐ出るというので待っていたそうです。

 

そして、お医者さんが言いました。

 

「あー、淋病だね、淋病!」

 

再度言いますが、耳が遠いので、その声は大きかったのです。

 

奥さんのいる待合室まで声が筒抜けだったそうです。

 

「奥さんにも感染ってると思うよ」

 

ふじわらさんが医務室を出ると、奥さんは涙目だったそうです。

 

待合室の人たちの視線はもちろんふじわらさんに集中していて

 奥さんの隣に座ろうとしたのですが、奥さんに無視され、他人を装われたそうです。

 

帰ってからも「どこでもらってきたのよ!」と激しく責められたそうです。

 

「それは大変でしたね」

 

わたしは大笑いしたあとに同情した顔でそう言いました。

 

「はは、全然大丈夫だ!!」と言いながら、へらへら笑っていたふじわらさん。

 

どんなことがあっても、しょげた顔は見せず、いつも飄々としているのです。

 

ひょっとしたら、この人はトラックにまともにぶつかっても、

何事もなく「全然大丈夫だ」と言ってのけるのではないでしょうか。

 

ふじわらさん、あなたは最強です。

 

※この記事は2月18日に公開した記事を再掲したものです。