sweet cider 9












イ、タァ……
目の上が明るくて、重たい瞼を薄っすら開いた。視界に飛び込んでくる光でズキズキとする頭。眩しさに世界がボヤける。

「…ん、朝な、の?」

目をこすり体を起こした。ズキっと脳天に響く。

あ〜、昨日風磨と飲んで……

途端に浮かぶ妖しげな口元、そこから赤い舌がペロっと伸びて舐められた事を思い出した。カーッと顔が熱くなる。
男らしい喉や耳元に寄せる囁き声、痺れるようで動けなくなった。鼻を抜ける香りは甘くて……抱きしめられた感触を思い出した。

ああ、もうっあの悪魔

天使の様な柔らかい笑顔とは打って変わった、あの憎たらしい笑顔。
忘れようと頭を振ったら。痛っ。動きに合わせてガンガンと打ち付けるように頭が痛む、抑えながらリビングへと行った。

「お目覚めですか」

寝室よりも格段に明るい部屋に、一瞬目を瞑り立ち止まる、手で光を遮った。

「ん、おはよ…、頭が痛ーい」
「二日酔い。で御座いますね」

キッチンから手を拭いて東山が出てきた。シャツの袖をまくって首を傾ける仕草は、この男の爽やかさを無駄に引き立たせる。
ダイニングテーブルに座って

「私、昨日…」
「覚えてらっしゃらないのですね。菊池様とご一緒に次の店に向かわれて、タクシーで大野様とご一緒に帰って来られました。」

「えっ………マジ?」
「はい。「マジ」で御座います」

絶句する私を上から見下ろすように東山が見た。

あ、ヤバイ…と思っても遅かった。東山がはぁぁぁと深いため息をつき、大仰に大きく首を振った。

「あの様にお酒に飲まれた状態で、初対面の男性に送られて来るなど、旦那様と奥様に、東山はなんとご説明すればいいのでしょうか」
「あ〜〜、わかったわかった。ごめんなさ〜い。説明なんかしなくていいからね。とにかく、シャワー浴びてきますっ!」

逃げ出す様に部屋を出た。