というのは、これを書いたらネタバレになっちゃうのかな?とか、それは観て確認して、楽しんで貰ったりしたほうが…って思いがあり、書かなかったんですが、やっぱり書いてみようって気持ちが強くなり書かせて頂きます。
きいろいゾウの宮崎あおいさん演じるツマさんは、自然を愛し、自然と会話が出来てしまう不思議な人。
ツマさんは、何か悩みごとがあると、家の庭先にあるソテツの木に話しかけます。
そのソテツの木の声を大杉漣さんが演じられています。
声だけの出演ですが、声を聞いた時、キャストを観ないで聴いたんですが、瞬間的に『あ!漣さんだ!』ってすぐに分かりました
このソテツは、ツマさんがこの家に住むより、ずっとずっと前からそこに立っていて、年齢はずっとずっと歳上。
だけど、ソテツに対してツマさんはタメ口で、まるで友達に相談するかのように話しかければ、ソテツは年の功の落ち着きからか終始敬語で丁寧に、ゆっくり語りかける。
まるで長い人生を送ってきた先輩として、全てを受け入れ、許す、器の大きさを感じました。
ツマさんの気持ちや意見を否定したりせず、あくまで受け止め、傾聴し、そして寄り添う。
そんな2人の会話がほのぼのして、大好きなシーンの一つとして残ってます。
よく、大杉漣さんの何の作品が1番好き?と聞かれるんですが、すごく困ってしまいます。それは、気づいたらそこにいる俳優さんであり、すごく身近な存在に感じる俳優さんだったからです。
どんなに演技がうまくても、その人が歩んできた人となりが必ずどこかに出るのが俳優さんというものなら、大杉漣さんが与えてくれたのは俳優でありながら『日常に存在する近い人』とファンを思わせるような安心感だったと思います。
それは、誰に聞いても大杉漣さんはフレンドリーでおちゃめで、一般の人にも暖かかったから、ドラマや映画、舞台等で現実的ではない世界を演じても、普段暖かい人柄は、どんな悪役を演じても必ずどこかに『同じ人間』として共感出来る部分があったと思います。
ドラマを観る人は、大抵が安い居酒屋で飲んでたり、商店街を普通に歩いてたりするのに、俳優だからって会員制のバーでばかり飲んでいて、一般の人に話しかけられても『プライベートですので』と断っている俳優さんがいたとしたら、その俳優さんの演技も役も全てが、あまりに現実とかけ離れているように見えて、どんなに現実にあり得そうなストーリーでも『この役の人は作り話の世界の登場人物だな』と観る側の現実と何一つリンクしないから面白味が欠けてしまうように感じます。
与えられた役を大事にする以上に、プライベートや人に見られていない部分こそを大事にしてきたから、バイプレイヤーとしても輝くもの、お茶の間の心にすぅーっと入ることが出来たんだと思います。
木が話すなんて、現実離れもいいところなのに、それでも暖かさと、自分の身近にいる話をただ黙って聴いてくれる暖かい人柄の人を思い出すという現実じみたことに繋がっていくのは、そういう大杉漣さんのプライベートでの人となりが何よりも滲み出た結果ではないかと、私は思います。
正直、亡くなられたことをまだ受け止めきれていません。
本当は、ひょっこりと元気に『びっくりした?』なんておちゃめな顔をして出てきてくれないかななんて思ったりしてます。
この映画のソテツもそうですが、父の愛のようなものを感じるのです。
私は勝手に大杉漣さんをお父さんのように思ってました。
私の家は父親がおりません。離婚後は連絡を全く取ってませんし、今後取るつもりもありません。思い出もいい思い出があんまりないのです
それで、もしも自分に優しいお父さんがいたらなぁとずっと考えていた時、父親に歳が近い大杉漣さんを拝見しながら、勝手に理想の父親のように憧れを抱くようになってしまってました。お会いしたこともないのに、失礼な話だとは重々承知です。
ですが、気づいたらそこにいる、そんな私にとって父親のような存在だった俳優さんの死を私はうまく受け止められず、さよならを言うつもりもありません。
まだどこかで会えそうな気がするし、次はどの作品を撮るのかなってワクワクしちゃう自分がいて、ニュースで悲しむ声を聞いても『何言ってるの?きっと何かの冗談だよ』と思ってしまう私です。