一年で様変わり。
□□□□□□はじめに□□□□□□
『キングオブコント2021』のネタ分析です。
3~4回に分けて投稿します。
以前の記事で書きましたが、
コントは「設定」と絡めて笑いが作られるのが基本であり、
設定と絡む笑いには、
「設定からの逸脱」と「逸脱した設定」の2つが考えられます。
「設定からの逸脱」の笑いは、
設定された状況や役割から期待される常識的な言動からハズれる事で笑いを作ります。
「逸脱した設定」の笑いは、
その設定そのものが特殊でありその特殊な設定からの帰結と一般常識とのズレを笑いにします。
以前の記事では、『キングオブコント2020』のネタの多くが「設定からの逸脱」の笑いであり、
「設定からの逸脱」の笑いがコントの王道のようだと指摘しました。
……で、キングオブコント2021なんですが、、、
ガラッと変わってました。
単純に「設定からの逸脱」で笑いを作るネタでは、
もはや勝ち残るのが難しそうです。
個々のネタの詳細は省きますが、
ファーストステージのネタでおおまかに分析してみます。
□□□□□□蛙亭□□□□□□
一組目は「蛙亭」。
脱走した人造人間(ホムンクルス)とホムンクルスを造る施設の博士のコント。
難易度の高い「逸脱した設定」の笑いを予感させます。
「逸脱した設定」の笑いは、
設定そのものに起因する非常識なディスコミュニケーションを笑いにします。
「一般常識」と「ホムンクルスゆえに起こる事」の間のギャップを笑いにする訳です。
このネタでも、
「身体のヌルヌル」
「吐き出す緑色の液体」
「博士を自分の母親と勘違い」
「手のひらからレーザー光線?」
「素手で銃弾を捕まえる」など、
「逸脱した設定」の笑いが散りばめられています。
< 基準 >:(常識的には)自分の母親は識別出来るはずにも拘わらず
< ズレ >:(人造人間ホムンクルスだから)自分の母親を知らない
<ツッコミ>:「母親分からんのかい!」「博士やろ!」
…とは言え、『キングオブコント2020』の記事でも触れましたが、
「逸脱した設定」だけで一つのコントを作りあげるのは高いハードル。
このネタも、
「逸脱した設定」に起因するディスコミュニケーションというシンプルなの笑いに留まらず、
その「逸脱した設定」を上手く利用したり、
より効果的にする面白さがありました。
例えば、ホムンクルス役の中野さんの高い地声やホムンクルスの鈍い動き。
このネタは、ストーリー的には緊迫した展開です。
いわゆる「緊張の緩和(=緊張から緩和への変化)」ではありませんが、
中野さん演じるホムンクルス自体がストーリーに伴う緊張とのギャップを感じさせました。
上記の例で言うと、
回りを囲まれ攻撃されるという緊迫した状況で「素手で銃弾を捕まえる」のも、
ホムンクルスの動きが弱そうで鈍いからこそそのギャップが面白くなります。
< 基準 >:(常識的にもそうだが更に強そうに見えないので)素手で銃弾を捕まえる事などあり得ないにも拘わらず
< ズレ >:素手で銃弾を捕まえる
<ツッコミ>:「そんなん出来るんかい!」「意外にハイスペックやん!」
イワクラさん演じる博士が、
ホムンクルスを戻そうとして腕をつかみ、手に付いてしまったヌルヌルを嫌そうに白衣で拭う場面も大笑いしました。
これも緊迫した展開だからこその笑い。
何としてもホムンクルスの脱走を阻止しなければならないせっぱ詰まる状況と、
緊迫感のない博士の素直なリアクションのギャップが笑いになります。
< 基準 >:余計な事に気をとられず脱走を阻止する事に集中しなければならないにも拘わらず
< ズレ >:脱走を阻止する事に集中せず手に付いたヌルヌルに気をとられる
<ツッコミ>:「そんなん気にしてる場合ちゃうやろ!」
難易度の高い「逸脱した設定」を、
上手く笑いに出来ていました。
トップバッターという事もあり上位3組に残れませんでしたが、
もっと点数が伸びてもよかったのではないでしょうか。
□□□□□□ジェラードン□□□□□□
2組目は「ジェラードン」。
設定は放課後の教室。
展開されるのは鈍感な男子高校生と素直じゃない女子高校生の恋愛模様、、、
…という、
漫画でだったら「笑い」ではないはずのシーン。
「美男美女」が「普通に表現」していたら漫画にありそうな場面です。
それが「笑い」になるのは、
その「普通じゃない見た目」と「過剰な表現」があるから。
例えば女子高生役の西本さんは、
「角刈り」で「漫画のヒロインにありそうな素直になれない乙女心をわざとらしく表現」します。
< 基準 >:普通女子高生は角刈りにはしないにも拘わらず
< ズレ >:女子高生なのに角刈り
<ツッコミ>:「何で角刈りやねん!」「女子高生ちゃうやろ!」
放課後の教室から想定される普通の高校生という初期設定からすると、
それから逸脱する「普通じゃない見た目」や「過剰な表現」が作る笑いは、
「設定からの逸脱」の笑いです。
ただ「設定からの逸脱」のボケを小出しに配置するだけではつまらない。
このネタが面白いのは、
「普通じゃない見た目」と「過剰な表現」という2つの「設定からの逸脱」が、
その「方向性」で更にズレを作っているからです。
上記の通り、
「過剰な表現」は「漫画のヒロインがみせるような素直になれない乙女心」をわざとらしく表現しています。
それに対して、
「普通じゃない見た目」は、「素直になれない漫画のヒロイン」にはあり得ない「角刈り」。
「過剰な表現(で誇張する乙女心)」と「(乙女心とは相容れない)見た目」にギャップ、矛盾がある訳です。
「過剰な表現」も「普通じゃない見た目」もディスコミュニケーションなので、どちらに突っ込むか難しいのですが、
私的には「どーいうメンタルやねん!」とか突っ込みたい。
< 基準 >:乙女心と相容れないヘアスタイルをしているにも拘わらず
< ズレ >:わざとらしく乙女心を醸し出す
<ツッコミ>:「どういうメンタルやねん!」「『乙女心』醸し出すな!」
一人だけまともな転入生のツッコミが抑制的なのも、
まともな人が入り込む余地の無い二人だけの異様な世界観を強調するのに効果的でした。
キャラを作って、「設定からの逸脱」で笑いを作る王道のネタですが、
ジェラードンにしか作れないコントだと思います。
□□□□□□男性ブランコ□□□□□□
3組目は「男性ブランコ」。
ボトルメールを契機に文通を経て初めて出会う男女。
「そんな映画の様な出会いが本当にあるだなんて夢にも思わなかった。」
ロマンチックですよね。
そんな設定で、
全体を通して笑いを提供しているのは、
相手の女性の過度にコテコテな関西のおばちゃんのノリです。
これは、ボトルメールの出合いというロマンチックな設定から逸脱する事で笑いを作る「設定からの逸脱」の笑いです。
< 基準 >:ロマンチックな場面に相応しいキャラクターが期待されるにも拘わらず
< ズレ >:ロマンチックな場面に相応しくないキャラクター
<ツッコミ>:「ロマンチックのかけらもないわ!」
清楚な白いワンピースなどの設定に相応しいキャラクターを期待させるフリからの、
酒焼け声の「来てくれたんやー、、」には思わず笑ってしまいました。
……とは言え、そんなシンプルな話ではないからこそ3位ファイナル進出です。
その後の展開で効果的な「思い込みの間違い」の笑いが仕込まれていました。
コテコテキャラ全開に圧倒されながらも、突然暗転、スポットライトで、
「いや~、、好きだなぁ~。」
そんなコテコテキャラが好みという裏切り。
実は男性側もディスコミュニケーションだった訳です。
それまでの女性のディスコミな言動へのフォーカスを、
フリとして利用する展開によるボケです。
< 基準 >:コテコテキャラの女性に落胆しているかと思ったら
< ズレ >:コテコテキャラの女性に喜んでいる
<ツッコミ>:「好きなんかい!」「えっ、どーゆう趣味やねん!」
ディスコミ主体の転換は、
「思い込みの間違い」を効かせやすい手法です。
二人のやり取りの後、
更に暗転スポットライトで、
「ちょっとぉ、愛が止まらないなぁ。タチバナマリさん、、こんな人だったらいいなぁ、、、」
実は、
ここまでの出来事は出会いを心待ちにする男性の『妄想』だったという裏切り。
またもや大きく展開で思い込みの間違いの効いたボケ。
じゃあ、出会う女性はホントはどんな女性なんだろうと緊張を煽り、
一度目と同じコテコテキャラの「来てくれたんやー、、」のテンドンの落ち。
それを見た男性が、
「よっしゃラッキーー!!ヤッター!イェー!」
…ってハイテンションなのも、
それまでの男性の大人しそうなキャラクターとのギャップで笑いになります。
< 基準 >:ロマンチックな初対面に緊張しているかと思ったら
< ズレ >:緊張を感じさせないハイテンションの喜び様
<ツッコミ>:「落ち着けや!」「そんなキャラなん?」
ストーリー、展開の中に「設定からの逸脱」のボケを一つ一つ配置するのが普通のコント。
このネタはそれに留まらず、
構成や展開で笑いを作っています。
他の番組で「ラーメンズに憧れて…」と言ってましたが、なるほど納得。
以下次号。