今日観た映画の感想

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フランケンシュタインを現代にアップデート「哀れなるものたち」(2024)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、ヨルゴス・ランティモス監督、エマ・ストーン主演。第80回ベネチア国際映画祭コンペティション部門での金獅子賞を始め数々の賞を受賞した『哀れなるものたち』ですよ。

先日、Disney+で公開されたので早速観てみました。

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概要

女王陛下のお気に入り』などのヨルゴス・ランティモス監督とエマ・ストーンが再び組み、スコットランドの作家アラスター・グレイによる小説を映画化。天才外科医の手により不幸な死からよみがえった若い女性が、世界を知るための冒険の旅を通じて成長していく。エマふんするヒロインと共に旅する弁護士を『スポットライト 世紀のスクープ』などのマーク・ラファロ、外科医を『永遠の門 ゴッホの見た未来』などのウィレム・デフォーが演じる。第80回ベネチア国際映画祭コンペティション部門で金獅子賞を受賞。(シネマトゥディより引用)

感想

始めましてのヨルゴス・ランティモス作品

本作「哀れなるものたち」と言えば、日本では 2024年1月26日に劇場公開されたばかりなのにもうDisney+で配信が始まっていてビックリしたんですが、都合が合わなくて劇場では観る事が出来なかったので、さっそく視聴しました。

本作の監督ヨルゴス・ランティモスといえば、子孫を残せない人間は動物に変えられてしまう「ロブスター」や、エウリピデスの「アウリスのイピゲネイア」を基にしたというサイコホラー「聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア」などを手掛けた鬼才。
好き嫌いはあれど映画好きの間では知られた映画監督なんですが、僕はヨルゴス・ランティモス作品は本作が初めましてなんですね。

別に意識して避けていたわけではないけど、ちょっと難しい印象がある作品の評判に観る前はちょっと身構えてしまいましたが、実際に本作を観てみるとポップで観やすい作品でした。まぁ、この作品だけかもしれませんけども。

主演は「ラ・ラ・ランド」と本作で2度のアカデミー賞主演女優賞を受賞したエマ・ストーン。ランティモス監督とは「女王陛下のお気に入り」で1度タッグを組んでいて、本作では自らプロデュースにも名を連ね監督の次回作「憐れみの3章」にも出演しています。

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本作は1992年に発表されたアラスター・グレイの同名小説を原作にしていて、僕が観た印象としてはメアリー・シェリーの小説「フランケンシュタイン」の女性版という印象を受けたんですが、映画評論家の町山智浩氏によれば、アラスター・グレイが本作の主人公ベラのモデルにしたのはメアリー・シェリー自身だったそう。そこに彼女の代表作である「フランケンシュタイン」の設定を絡めたということらしいんですね。

本作ではそんな原作を、より現代的に再構築・アップデートしていると思いました。

ざっくりストーリー紹介

そんな本作のストーリーをざっくりご紹介すると、超天才外科医のゴッドは橋から飛び降り自殺をしたヴィクトリアという妊婦のお腹にいた胎児の脳を彼女の肉体に移植。ベラと名付けて自宅で成長の過程を記録しています。

そんなゴッドを慕う医学生マックスは、ゴッドからベラの観察記録を依頼され引き受けますが、驚くべきスピードで成長するベラに心惹かれるようになり、やがてゴッドの励ましを受けベラに結婚を申し込み、ベラもそれを受け入れるんですね。

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しかし、知性が急速に発達したベラは外の世界に興味を持ち、結婚の契約のために家に上がり込んだ弁護士でプレイボーイのダンカン・ウェダバーンに誘惑されて駆け落ちをしてしまうのだが——という物語。

(主に)様々な男たちとのセックスを通してベラが“セカイ”を知り、やがて自己を確立していくというのが物語の主軸になるんだけど、そこに悲壮感がないのは、それらの展開が常にベラ自身の選択だからなんだと思います。

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逆に、父親から実験動物的虐待を受けて育ったゴッドはそれ以外の愛し方を知らないし、無知なベラを自分の思い通り弄び、飽きたら捨てるつもりだったのに成長するベラに執着するようになるダンカン。そして娼館で働くようになるベラが相手をする様々な性癖の客たちや、ベラの生前であるヴィクトリアの元夫など、彼らは総じてベラ(=女性)を物扱いして、または自分の所有物にしようとするんですが、本作はベラの視点でそんな男たちの様子を時に醜く、時に滑稽に描いています。
そしてそんな男たちは、ベラの視点で見ると狭い視界に囚われた酷く不自由な「哀れなるものたち」なんですよね。

文脈的には、無知な主人公がさまざまな体験を通して内面的に成長していくビルディングスロマン的作品であり、上記の描写からフェミニズム的な内容とも言えるんだけど、映像的にはかなりカラフルでポップ。絵本やマンガのようなデフォルメされた世界で、物語的にも寓話的なので観ていて小難しい感じはしないんですよね。
だけど、しっかり現代社会への風刺や皮肉。批判や批評も入れ込んでいて、観終わった後も色々考えさせられる内容でした。

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ただ、本作ではかなり過激?なセックスシーンが描かれる(Disney+で見る限りぼかしなども入っていない)ので、その辺に抵抗のある人はちょっと受け付けないかもしれませんが、個人的には面白い映画でしたよ。

興味のある方は是非!!

 

 

 

もはや怪獣ではないが「ゴジラxコング/新たなる帝国」(2024)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、2024GW公開のハリウッド超大作『ゴジラxコング/新たなる帝国』ですよ。

レジェンダリー・ピクチャーズ制作の「モンスター・ヴァース」の第5作であり、2021年公開の『ゴジラvsコング』の続編となる本作。いわゆる日本のゴジラ映画とは違うけど約2時間ずっとニコニコしながら観ていましたよ。

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概要

ゴジラキングコングの二大怪獣が対決する『ゴジラvsコング』の続編。ゴジラキングコングが再び激突したことで、それぞれがテリトリーにする地上世界と地下空洞の世界が交錯し、新たな脅威が出現する。監督のアダム・ウィンガード、アイリーン役のレベッカ・ホール、バーニー役のブライアン・タイリー・ヘンリー、ジア役のケイリー・ホトルら、前作のスタッフとキャストが顔をそろえるほか、『アイム・ユア・マン 恋人はアンドロイド』などのダン・スティーヴンスらが新たに出演する。(シネマトゥディより引用)

感想

レジェンダリー版「モンスターヴァース」最新作

本作を制作するレジェンダリー・ピクチャーズは、2005年からワーナー・ブラザースと共同で映画を製作し、「バットマン ビギンズ」や「スーパーマン リターンズ」「300〈スリーハンドレッド〉 」など、主にアメコミ原作やアクション・ホラーなどのジャンル映画を製作。

その後、東宝と提携。2014年に公開したギャレス・エドワーズ監督『GODZILLA ゴジラ』を皮切りにゴジラキングコングなどを登場させる怪獣映画シリーズ「モンスターヴァース」を製作している、僕らボンクラ映画オタクにとっては信頼安心の映画制作会社です。

2017年には米国の代表的なモンスター映画「キングコング」をリブートした『キングコング:髑髏島の巨神』

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2019年はゴジラと巨大怪獣たちが戦う『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』

2021年には、ついにゴジラキングコングが初対決する『ゴジラvsコング』が公開されます。

そう、モンスターヴァースとは、日本を代表する怪獣ゴジラアメリカを代表するモンスター・キングコングが対決した1962年の東宝映画『キングコング対ゴジラ』のリブートシリーズなんですね。

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そしてシリーズ最新版となる本作は前作の対決以降、地上と地下空洞世界に分かれていた両雄が再び相まみえるという物語なのです。

ざっくりストーリー紹介

そんな本作のストーリーをざっくりご紹介すると、前作で地上世界はゴジラ、地底空洞世界はコングとそれぞれ住み分けが出来ていたわけですが、そんなある日、地下世界からの謎の波長の電波信号が感知されたのを機に両者が再び相まみえるという物語。

これは予告編でも登場していたのでネタバレではないと思うので書きますが、コングの同族であり凶悪な支配者スカーキングと地球を氷河期に陥れたという超恐ろしい怪獣シーモも登場。

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そんな両者との対決に地上世界のゴジラ、地下世界のコングがタッグを組んで闘うんですねー。

コングvsスカー、コングvsゴジラゴジラvsシーモと、怪獣プロレス極まれりという、メッチャ楽しい映画なのです。

猿の惑星&バットボーイズ

で、別に狙ったわけではないと思いますが、本作が始まる前に映画館で「バットボーイズRIDE OR DIE」と「猿の惑星/キングダム」の予告が掛かっていたわけですが、本作はまさにこの2本を足して2で割ったような作品でしたねーw

猿の惑星」はそもそも猿が人間化していく物語だし、前作「ゴジラvsコング」ではコングだけでなくゴジラもかなり擬人化されていたんですが、本作の予告にも出ていた両者が走るシーンなどは擬人化ここに極まれりという感じで、どこかバッドボーイズっぽいなーなんて思ってしまったんですよね。

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庵野監督の「シン・ゴジラ」や山崎貴監督の「ゴジラ-1.0」など日本版ゴジラは1954年のオリジナルへ原点回帰していっていることを考えると、このハリウッドゴジラはもはや別物というか、少なくとも僕が思う怪獣映画ではなくなっている感じですが、コングがモナークに虫歯を治してもらったり、敵を倒すためコングが専用のメリケンサックをハメたり。スカーキングの武器が怪獣の骨で出来たムチだったり、理屈は分からないけど最強の怪獣シーモを操っていたり。

そしてエジプトで相まみえたコングにゴジラがブレーンバスターを仕掛けたシーンは、“怪獣プロレス”そのまんま過ぎて思わず笑ってしまったし、これはこれで怪獣映画の面白さというか、“そういうもの”として観れば楽しいんですよね。

もちろん作劇的にツッコミどころは満点ですが、もはやそこをツッコむのも野暮だし日本版ゴジラと比べる事も意味はなく。そもそもがゴジラキングコングを戦わせようというボンクラ映画シリーズですからねw

めっちゃお金のかかった「東宝チャンピオンまつり」だと思って、ポップコーンを抱えながら観るのが吉だと思いましたねー。

興味のある方は是非!!

 

小粒な作品だけど好ましい「ドミノ」(2023)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは昨年公開されたロバート・ロドリゲス監督、ベン・アフレック主演のサスペンス映画『ドミノ』ですよ。

みんな大好きロバート・ロドリゲス監督が構想20年をかけたという作品で、ジャンルとしてはSF?サスペンスになるのかな?

映画のスケールとしては小規模な作品ですが、個人的にはメッチャ楽しめましたねー。

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概要

行方不明の娘を捜す刑事が、現実と見まがう世界に入り込んでいくサスペンス。銀行強盗の現場である男を見つけた刑事が、その男を追って不思議な世界に足を踏み入れる。監督などを手掛けるのは『シン・シティ』シリーズなどのロバート・ロドリゲス。『底知れぬ愛の闇』などのベン・アフレック、『アイ・アム・レジェンド』などのアリシー・ブラガのほか、J・D・パルド、ジャッキー・アール・ヘイリーウィリアム・フィクトナーらが出演している。(シネマトゥディより引用)

感想

ハードルを上げなければ楽しめる?

この作品、僕は予告も観てないしロドリゲス監督・ベンアフ主演以外の事前情報もまったく入れずに観たからか、劇中の仕掛け全部にビックリしたしメッチャ楽しんだんですが、ネットの評価を観ると割と低めだったりするんですよね。

というのも、映画評論家の寺沢ホーク氏が「下町のインセプション」と命名したように、確かに本作の予告編を観たらクリストファー・ノーラン監督の「インセプション」的な作品を期待してしまうかもしれません。

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いや、両作でやろうとしている事は近いと言えなくもないんですけど、映像や世界観、ストーリーなどなど、全体的にインセプションの1/10くらいの規模だし、ぶっちゃけ観た後に思い返しながら考察したくなるタイプの複雑なストーリーでもないので、ノーランの理屈っぽい作風が好きでインセプションをイメージして観てしまうと肩透かしを食らってしまうかもしれませんね。

逆に、本作の事を何も知らない状態でたまたま(例えば午後ローとかで)遭遇したら「メッチャ面白いじゃん!」って思うタイプの、作品としては小粒だけどサクッと観られて少なくとも観ている間は楽しめる良作だと思います。

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まぁ、設定とかジャンル的なルールに対して、観終わった後思い返して「あれ?あそこおかしくね?」って首をかしげる部分もあるにはあるんですが、少なくとも観ている間は全然気にならなかったのは、物語的な粗の部分を気にさせないロドリゲス監督の上手さというか、インディ体制で数々の小規模なジャンル映画を製作してきた手腕が活きているのだろうと思いました。

特に、クライマックス——というかいわゆるネタばらしの“あの展開”には普通にビックリしたし、その仕掛け自体が映画そのものの構造ともリンクしていて、感心してしまいましたねー。なるほど、それがやりたかったのかと。

まぁ、絵面がアレなので若干バカっぽく見えちゃうかもですけど、そこはロドリゲス監督の愛嬌でもあるんですよね。

というわけで、ここからはややネタバレになるので、気になる方はご注意ください。

 

リバイバルレトロフューチャー

どのジャンルでもそうですが、一時期流行ったけど消えていったネタやアイデア、ファッションなどがある程度時間を置くと新しく感じる現象ってあるじゃないですか。
例えばオカルトのジャンルで言うと、結構昔(多分1970年代?)に人面瘡ブームってのがありまして。人面瘡の設定は色々ですがザックリ言えば、体のオデキが成長して人の顔のようになり、最終的には宿主を乗っ取ってしまうor入れ替わる的な感じ。

これは一時期映画やマンガなどで結構流行って一代ジャンルになっていたんですが、次第に下火になって最近はほとんど見かけなくなっているんですよね。

もう一つは「ジャッロ映画」というジャンル。
こちらは(美女の)過度な流血をフィーチャーし引き伸ばされた殺人シーンが特徴。スプラッタ映画の前身ともいえるジャンルで、心理サスペンスとホラーの融合した作品群でしょうか。イタリアが本場でダリオ・アルジェント監督が有名ですよね。

で、そんな今はすっかり下火になった二つのジャンルを融合させたのが、我らがジェームズ・ワン監督の傑作ホラー「マリグナント 狂暴な悪夢」なんですね。

また、SF?で言うと人間は脳の10%しか使っていないという「脳の10パーセント神話」という例のアレ。現在、これが間違いなのは脳科学者の中では常識で、紛れもない誤情報・都市伝説とされているんですが、僕が子供の頃は、この10パーセント神話はまことしやかに囁かれていたし、SF小説やマンガ、映画の設定でも結構使われていたと思います。

しかし、この設定も次第に下火になって誰も使わなくなった2014年に公開されたのがリュック・ベッソン監督の「LUCY/ルーシー」で、麻薬の影響で脳を100%覚醒させた主人公ルーシーが大変なことになるという作品でした。

で、本作「ドミノ」で使われたのは催眠術。

催眠術や洗脳によって人を自在に操るという設定自体は、前者2例に比べると比較的メジャーというか、手を変え品を変えしながら定期的に映画に登場するんですけど、とはいえ、本作で登場するのは催眠術を超えたスーパー催眠術「ヒプノティック」で、声を聴いた瞬間、いや、一瞬相手を観たその瞬間、いやいや相手の射程距離に入った瞬間に、すでに敵の術中にはまってしまうという。もはや催眠術というより普通に超能力なんですよね。

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本作では、過去に愛する娘を何者かに誘拐された主人公の刑事ダニー・ロークが銀行強盗のタレコミを受け、そこで出会った最強のヒプノティックの使い手デルレーンに翻弄されながらも、自身と家族の真実に迫っていくという物語なんですが、この超能力設定を使って物語を二転三転させながら最後の大どんでん返しにもっていくストーリーテリングや、そんなトンデモ設定にほぼ違和感を抱かせる隙を与えない怒涛の展開は、さすがロドリゲス監督だと思いました。

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ロドリゲス監督といえばケレンの人という印象を持つ人も多いかもですが、そのケレンを十分に発揮するには、ケレンを活かす丁寧なフリや、適度な「抜き」が必要ですしね。

あと、ミッドクレジットの“あの展開”も、続編作る気マンマンだという意見も見ましたが、個人的には続編云々より「“あの展開”を入れる方が映画が締まる」から入れたと思うんですよね。もちろん続編を作るチャンスがあればやりたいのも本音だと思いますが。
ほぼ90分というコンパクトな上映時間も含め、一切ストレスなく観られる作品全体のストーリーテリングや、小規模ながら低予算に見せないスケール感もとても好ましい作品だと思いましたよ。

興味のある方は是非!!

海外では酷評の嵐だけど「ストレンジ・ワールド/もうひとつの世界」(2022)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、「ベイマックス」のドン・ホールが監督、「ラーヤと龍の王国」で脚本を務めたクイ・グエンが共同監督と脚本を務めたディズニー映画『ストレンジ・ワールド/もうひとつの世界』ですよ。

伝説的な冒険一家の親子3世代が、奇妙で不思議な世界で壮大な冒険を繰り広げる物語で、ディズニー100周年記念作品でしたが海外では酷評の嵐に。
果たしてこの作品は本当に面白くなかったのか。本作を観た僕の感想は果たして。

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概要

冒険家のクレイド一家を主人公に、奇妙な世界で繰り広げられる冒険を描くアクションアドベンチャー。謎に包まれた「ストレンジ・ワールド」に迷い込んだ一家が、そこである真実を知ることになる。第87回アカデミー賞長編アニメ賞を受賞した『ベイマックス』などのドン・ホールが監督を担当。ホール監督作『ラーヤと龍の王国』で脚本を手掛けたクイ・ヌエンが共同監督などを務める。(シネマトゥディより引用)

感想

あれ?面白いじゃん

2022年11月に日米で同時公開されたディズニー・アニメーション・スタジオ長編作品の本作。しかもなんとディズニーの100周年記念作品なのですが、もしかして劇場公開していたことも気づいていなかった人が結構いたのではないでしょうか。

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というのもこの作品、ディズニー映画、しかも100周年記念作品でありながら、公開時に全然宣伝されずにスルッと始まり、その一月後の12月にはDisney+でサクッと配信されているんですよね。

僕も公開されるというのはぼんやり知ってたんですが、いつ劇場公開するのかな?なんてぼんやりしているうちに公開が始まっていつの間にか終わり、配信が始まったのにも気づかず。

ぶっちゃけそこまで興味のなかったので、そのまま1年以上ほったらかしにしてしまってたんですよね。

しかしこの作品。本国アメリカでは結構話題にはなっていたようです。主に悪い意味で。曰く「ポリコレ要素全部乗せ」「ポリコレ団体へのアリバイ作り」「ポリコレの押し付け」などなど、映画業界で何かとポリコレが話題に上がる昨今ですが、特にディズニー作品はその急先鋒でもあり、ゆえにやり玉に挙げられがちではあるんですよね。

なので僕もそれなりに覚悟をして本作を観たわけですが—————って、あれ?普通に面白かったんですけど?

ざっくりストーリー紹介

そんな本作のストーリーをざっくり紹介すると、今まで誰も越える事が出来なかった高い山々に囲まれた国「アヴァロニア」の伝説的冒険家イェーガー・クレイドは、息子サーチャーを含むクルーと共に前人未到の山脈を超える冒険に挑戦します。

しかし、その途中で電力を発する植物「パンド」を発見したサーチャーはイェーガーに一旦国に戻ることを進言するが、聞き入れられずにケンカ別れ。その後イェーガーが国に戻ることはなかったんですね。

一方サーチャーが持ち帰ったパンドによって電気を得た「アヴァロニア」は文明国家になり、サーチャーは自分のパンド農園を息子のイーサンに継がせようと思っていたのです。

そんなある日、国中のパンドが突如枯れ始め国家は存亡の危機に。

元探検隊のクルーだったカリスト大統領の要請で、パンド専門家のサーチャーも調査に参加、地下に広がる“もう一つの世界”へと向かうのだった――。というストーリー。

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で、まぁ同行を禁じられたイーサンが探検隊に潜り込み、それを追ってきたサーチャーの妻メリディアンも同行する展開になっていくわけですが——、どうです?あらすじだけ聞くと何か面白そうじゃないですか?

実際、個人的には思った以上に面白くて、地底に広がる“もう一つの世界”やそこに住む生物のビジュアルデザインは単純にワクワクするし、その中で行われる冒険やアクションのアニメーションも楽しい。そして後半、この世界に関するある事実が明かされるんですが、そこは普通にビックリしましたしね。

父と息子、そして孫という世代間の確執と相互理解というのが本作の大きなテーマなんですが、そこもかなり丁寧に描かれていて好感が持てるし、本作で孫世代のイーサンたちの間で流行っているゲームを、イェーガー、サーチャー、イーサンの三人でプレイするシーンがあり、三世代それぞれの価値観の違いをこのゲームを通して描くアイデアは凄く良かったですねー。

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正直ディズニー作品としてはかなり小粒ではあるけれど、1時間40分という上映時間も含め個人的には満足度は高かったし、かなり手堅くまとまっているという印象で、それもそのはず、監督はあの「ベイマックス」のドン・ホールだったんですよね。

まぁ、アバンでの「インディ・ジョーンズ」を完全にパク……オマージュしたロゴデザインや音楽はちょっとやりすぎかな?とはおもいましたけどもw

本作のポリコレについての所感

で、本作が酷評されているポリコレ表現に関してですが。

個人的には主人公のイーサンがゲイであることや、それを両親や友人が普通に受け入れていること、ペットのワンコの足が一本欠損していること自体はそこまで気にならなかったんですけど、それよりも、それらの設定が作劇に何の関係も意味もない事の方が気になりましたねー。

本作の描き方だと、イーサンの恋愛相手は女の子でも作劇上何の問題もないし、ワンコが3本脚なのも作劇になんの貢献もしていない。結局、ただ「設定のための設定」でしかないんですよね。

これはもう、ポリコレ団体への配慮や、そうした思想を無理やり物語にねじ込んだと思われても仕方がない。

特にアニメーションの場合、画面に映っているモノ全てには必ず製作者の意図が入っているものですしね。

こうした多様性・包括性を推し進める人達の事を西洋では”目覚めた人”「WOKE」と呼ぶそうですが、それこそWOKE的には「それが(特別視されない)当たり前の世界」なのだから特に触れる事もない。という事なんでしょう。でもそれが実際に物語のノイズになってしまっているのは間違いないんですよね。

例えばワンコの過去に何があったか。イーサンが自分の性に葛藤したり、両親が息子がゲイであることを飲み込んだ経緯など。ほんのワンカット、ちょっとした一言の「匂わせ」でいいから入れてくれれば、この設定ももっとすんなり飲み込めるし、物語のノイズにもならないと思うのです。

多分、アニミズムが思想の根本にある僕ら日本人は、キリスト教的価値観が思想の根底にある西洋諸国の人と比べれば、物語に登場する性的マイノリティーなどの多様性や包括性に対する嫌悪感は少ない方だと思うけど、それでも「それが当たり前の世界」にするはもうちょっと段階を積むことが必要だと思うし、本当に世界に多様性をもたらすには一段づつ丁寧に階段を積み上げていく必要があると思うんですよね。

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「急いては事を仕損じる」のことわざがあるように、あまり急いで雑に、かつ強引に事を進めようとすれば、むしろそこには拒絶と分断を生み出すだけじゃないかと個人的には思う次第です。

興味のある方は是非!!

GBの魅力ここにあり「ゴーストバスターズ フローズン・サマー」(2024)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは「オッペンハイマー」と同日公開された『ゴーストバスターズ フローズン・サマー』ですよ。

オリジナル版「ゴーストバスターズ」2作の正当続編となる2022年公開「ゴーストバスターズ/アフターライフ」
その続編となる本作「~フローズン・サマー」は前作のオクラホマ州からNYに舞台を移し、新旧キャストが大活躍する「ゴーストバスターズ」(以下GB)の魅力が詰まった作品でした。

というわけで今回はまだ、公開から間もない作品なので、出来るだけネタバレしないように気をつけますが、ネタバレが絶対に嫌という人はご注意ください。

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概要

幽霊退治に挑む科学者たちの姿を描くSFコメディー『ゴーストバスターズ』シリーズの第4弾。真夏のニューヨークを舞台に、瞬く間に全てを凍らせるゴーストと人間の戦いを描く。監督は、前作『ゴーストバスターズ/アフターライフ』で脚本などを担当したギル・キーナン。ポール・ラッド、キャリー・クーン、フィン・ウォルフハード、マッケナ・グレイスらが『ゴーストバスターズ/アフターライフ』から続投するほか、ビル・マーレイダン・エイクロイド、アーニー・ハドソンらオリジナルキャストも出演している。(シネマトゥディより引用)

感想

ざっくりゴーストバスターズの歴史

レイモンド・スタンツ博士役で出演もしているダン・エイクロイドとイゴン・スペングラー博士役のハロルド・ライミスが脚本を務め、アイヴァン・ライトマンがメガホンを取った1984年公開のオリジナル版「ゴーストバスターズ」は、オカルトと科学の融合や独自のガジェットの魅力、適度にオフビートな作風が時代の空気を味方につけて大ヒット。

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アニメやゲームなど数々のメディアミックスも行われたGBは映画の枠を超え社会現象となります。しかし、1989年公開の「ゴーストバスターズ2」は「前作の繰り返し」と評価は散々。

それでもGBオリジナルメンバーの登場を前提に「ゴーストバスターズ3」の企画が生まれては立ち消えを繰り返しますが、別作品でビル・マーレイとハロルド・ライミスがケンカ別れをしたことで続編は難しくなった2014年、ライミスは病気のため69歳で亡くなってしまいます。(ライミスが亡くなる直前、ビル・マーレイが彼の自宅を訪ねて二人は和解)

2016年にはメインキャストを女性に変えたリブート版GBが公開されるも、オリジナル原理主義ミソジニーおじさんたちに盛大に叩かれ撃沈。

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これでいよいよGBも終わりかと思われましたが、2022年にイゴン・スペングラー博士の孫娘フィービーが主役の正当続編「ゴーストバスターズ/アフターライフ」が、オリジナル版の監督アイヴァン・ライトマンの息子で映画監督のジェイソン・ライトマンがメガホンをとって制作・公開され、そのまま「~アフターライフ」のメンバーが続投する形で、続編である本作「フローズンサマー」が待望の公開となったんですね。

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ざっくりストーリー紹介

前作では、破壊の神ゴーザとの戦いに敗れ命を落としたイゴン博士の霊と孫娘で13歳の少女フィービーと仲間たち、そしてオリジナルメンバーが協力して世界を救い、最後にみんなで一緒に成仏するイゴン博士の霊を見送るという展開が、現実のハロルド・ライミスと仲間たちとの関係性も重なる、オリジナルファンなら号泣必死のエモーショナルな物語でした。

それから2年後を描く本作は舞台をNYに移し、フィービー一家がGBとして活躍しているところから物語はスタート。何とかゴーストドラゴンを捕らえた彼らでしたが捕獲の際盛大に器物を損壊。さらにフィービーはまだ15歳であることを理由にGBメンバーから外されてしまいます。

その一方、ある男性が真鍮製の球体をレイモンドの骨董店に持ち込むんですが、その中には世界を滅亡に追い込むほどの力を持ったゴーストが封じられていて――というストーリー。

前作ではまだ幼さの残っていたフィービーですが、今作では少し大人っぽくなって美人になっていましたね。前作の彼女は13歳という設定で、物語的にも3つ違いのお兄さんや同世代の仲間たちとともに怪事件の原因を追う、ジュブナイル的なストーリーでしたが、本作では前作にも登場したフィービーの兄トレヴァー、ポッドキャストとラッキーが続投。

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ポッドキャストはレイモンドの骨董店で手伝い兼YouTubeチャンネルのディレクターに、ラッキーは学校を卒業後、今や実業家であるゼドモア博士率いるゴースト研究所のインターンとしてニューヨークで働いているんですね。

前作では、少年少女の新GBメンバーが中心でオリジナルメンバーの出番は少な目でしたが、本作ではオリジナルメンバーの出番も増えて、丁度祖父母世代と孫世代がいい感じに協力しあっているのが、観ていてちょっと微笑ましいと思いました。

その二つの世代に挟まれている、前作ではフィービーたちの教師で、本作ではキャシーの恋人でGBメンバーになったゲイリーは、難しいお年頃のフィービーとの距離感に悩んでいるんですね。

そんな感じで、本作ではレイモンドらオリジナル世代と、フィービーら孫世代、キャシー&ゲイリーの親世代の三世代が登場。前作はかなりエモーションに寄っていましたが、対する本作は、観ててワクワクするガジェットの数々や、劇中の適度に抜け感があるのコメディーシーンなどもツボを押さえてて、オリジナルを観ていたオールドファンはもちろん前作から観始めた新規ファンも楽しめる物語になっているのではないかと思います。その辺は前作のジェイソン・ライトマンからバトンを受け取ったギル・キーナン監督の手腕もあるのかもしれませんし、 ダン・エイクロイド、 アーニー・ハドソン、アニー・ポッツらオリジナルメンバーの活躍もあるのかもしれませんね。

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まぁ、ビル・マーレイは相変わらずの省エネ運転でしたけどもw

しかしこうなると、もし次回作があるなら女性版GBメンバーも合流してほしいトコですが、アレはオリジナル版とはストーリーが繋がってないから無理なんでしょうね。

興味のある方は是非!!

ノーランの新境地には違いないが――「オッペンハイマー」(2024)

ぷらすです。

今回ご紹介するのはアカデミー賞で7冠を達成したクリストファー・ノーラン監督最新作『オッペンハイマー』です。

映画の内容ではなく外野のゴタゴタのせいで、日本だけ公開が遅れてしまった本作。

原爆を開発した男の物語ということもあって、観る前は「被爆国日本にとってセンシティブな内容なのでは?」という懸念もありましたが、先に言っておくと本作は間違いなく反戦反核映画で、少なくとも原爆や戦争を賛美する作品ではないです。ただ、個人的にはそれでもモヤモヤはしましたけどね。

というわけで、今回は公開したばかりの作品ではありますが、作中で描かれているのは史実でネタバレもなにもないと思うので、特にそこは気にせずに感想を書いていこうと思います。なので気になる方はご注意ください。

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概要

「原爆の父」と呼ばれたアメリカの物理学者、J・ロバート・オッペンハイマーを描く人間ドラマ。ピュリッツァー賞を受賞したカイ・バード、マーティン・J・シャーウィンによる伝記を原作に、人類に原子爆弾という存在をもたらした男の人生を描く。監督などを手掛けるのは『TENET テネット』などのクリストファー・ノーラン。『麦の穂をゆらす風』などのキリアン・マーフィのほか、エミリー・ブラントマット・デイモンロバート・ダウニー・Jrらが出演する。(シネマトゥディより引用)

感想

バーベンハイマー騒動とアカデミー賞

まず、本作の日本公開が遅れた理由として、海外では2023年夏の公開予定でしたが、広島・長崎への原爆投下の日である8月6日・9日や終戦記念日である8月15日に重なるので、対日感情を考慮して避けた説や、世界に比べて日本ではノーラン作品当たりづらいので他作品との競合を避けるために延期した説
アメリカで製作された映画は北米公開から数か月遅れて公開されるのはよくあることで本作が特別な訳ではない説などが挙げられますが、それらの理由の一つとして挙げられるのが「バーベンハイマー騒動」ではないかと思います。

既にご存じの方もいるでしょうがザックリ説明すると、北米では「オッペンハイマー」と「バービー」という作風が正反対の作品が同日公開された事が話題になり、核爆発やキノコ雲をバックにオッペンハイマーとバービーをコラージュしたファンアートがネットミーム化。
その作品にワーナー・ブラザースの公式アカウントが「忘れられない夏になりそう」等の好意的な返信したことから日本で炎上したという騒動のせいで「オッペンハイマー」の日本公開が遅れたのではないかと言われています。

まぁ真実は分かりませんし、アカデミー賞に絡む事は確実な本作でしたから、アカデミー賞受賞で話題になったところで、満を持して日本公開という計算だったのかもしれません。

まぁ、アカデミー賞では助演男優賞を受賞したロバート・ダウニー・Jrがやらかしたことで、別の意味で話題になってしまいましたけども。

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そう考えると、本作は作品の内容より外野のゴタゴタのせいで色々ミソがついてしまって、その辺ちょっと気の毒ではあるなって思ったりします。

ざっくりストーリー紹介

そんな紆余曲折の末、2024年3月29日やっと日本公開された本作の内容をザックリ説明すると、原爆の父と言われる理論物理学ロバート・オッペンハイマーの人生を、世界初の原爆実験成功までの前半と、戦後、ソ連へのスパイ容疑で公聴会で追及を受ける後半に分けて描く伝記映画です。

ネットの感想や解説では、本作を観る前にオッペンハイマーを取り巻く歴史を予習しないと楽しめないという意見も散見していますし、確かに彼の人生や歴史的背景を知らないと何が起こっているか分かりづらいのは間違いないです。

例えば、オッペンハイマーが原爆を作るキッカケになった「マンハッタン計画」は、メッチャざっくり言えばナチスドイツが原爆作ろうとしてるのでアメリカ、イギリス、カナダなど同盟国の物理学者を集めてドイツより先に原爆作っちゃおうという計画です。

オッペンハイマーユダヤ系だったこともマンハッタン計画参加に関係していると劇中では描かれていました。

また、映画冒頭から描かれるオッペンハイマーへの公聴会。これは第二次世界大戦後にアメリカとソ連の冷戦がはじまり、ソ連の脅威を恐れたアメリカで共産主義者の迫害、通称赤狩りが行われていたという背景が関係しています。

戦争中、オッペンハイマー自身は共産党員ではなかったけど、周囲に共産党員や共産党に近しい人が多かったこと、戦後、アメリ原子力委員会の顧問だったオッペンハイマーは水爆開発に反対、核兵器がもたらす甚大な被害を憂慮して国際的な核兵器管理機関の創設を提案したこと、そしてある人物の策略によってオッペンハイマーソ連のスパイ容疑をかけられたわけですね。

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この辺の歴史的背景が分かっていないと、劇中何が起こっているか分からない構成ではあるんですが、ただ、それは本作の構成に問題があるというか、ノーラン得意の時系列シャッフルが物語を分かりにくくしてる部分が大きいんですよね。

普通に時系列順に描けば、そんなに混乱するほど複雑な内容ではなかったハズだし、じゃぁ、本作において時系列シャッフルがストーリーテリングや映画としての面白さに寄与しているかといえば、別にそんな事はなかったんじゃないかと。

むしろ、時系列に沿ってじっくり描く方が、観客は物語に没入出来たように思いましたねー。

あと、3時間という上映時間についても、それに見合うだけの物語的なボリュームがあったかと言われると(´ε`;)ウーン…という感じで、正直間延びして見えるところも多々あり、もう少しエピソードを刈り込んでも良かったのでは?とも思ったりしました。

トリニティー

そして本作の山場でもあり物語の転換点でもある、人類初の核爆弾実験「トリニティ」では、ノーランはVFXを一切使わずに原子爆弾の威力を描いています。

最初は、原子爆弾の爆発ということでとんでもない爆音に晒されるのではと身構えたんですが、原爆が破裂して周囲が光に包まれ、そしてキノコ雲が上空に立ち上っていく様を完全無音で描いていて。そういう演出、つまり実際はとんでもない爆音に包まれてるけど演出として無音で超爆発を表現してるってことかな?と油断しているところに、座席が震えるほどの爆発音がスピーカーから大音量で流れ、実験に参加していた人たちが爆風に飛ばされそうになる様子が描かれていて、「おぉ、なるほどこれは凄い」って思ったし、僕の目にはその爆発を見たオッペンハイマーが「あぁ、とんでもないものをを作ってしまった……」と恐怖している表情を浮かべているようにも見えたんですけど。

ただ、このシーンが「世界を破滅させる地獄の窯が開いた」という超重要なシーンでもある事を考えると、正直ちょっと物足りなさを感じました。なんかこう、どうしても凄い爆弾。くらいの感じに見えちゃうというか。

いや、別にCGを使って超爆発を描けとかそういう話ではなく、この爆発の瞬間までは高揚していたオッペンハイマーが、この爆発を見た瞬間に絶望するという、その感情の落差をもっと演出で見せてほしかったかなと。

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本作では広島と長崎が被ばくする描写はないので、原爆の威力を直接的に見せるのはこのシーンだけ。なので、原子爆弾の恐ろしさが、本作を観ている全ての人に伝わる説得力のある描写が欲しかったなーと思ったりしましたねー。

ちなみに、本作に広島と長崎の被爆描写がない事に対する批判も見かけますが、本作はあくまでオッペンハイマーの自伝を基にした物語なので、彼が見ていない広島・長崎の描写がないのは個人的には納得でしたよ。

その後、広島と長崎の記録映像にオッペンハイマーが目を逸らすという描写があって、パンフレットで「(原爆被害を)見ようとしないオッペンハイマーこそアメリカの姿であり、その後を見ようとしない世界の姿を暗示したもの」という映画評論家の李相日さんのコメントがあったそうですが、その評には「確かに!」と納得したし、そういう意味では日本の直接的な描写がない事にも作劇上の意味があったのかもしれませんね。

モヤモヤポイント

そんな感じで「トリニティ」を境にオッペンハイマーの苦悩と後悔の日々が始まるわけですが、個人的にモヤモヤしてしまうのは、彼の後悔も苦悩も、日本や日本人に向けられたものではない(ように僕には見えた)って事なんですよね。

実際のオッペンハイマーがどう思ったかは知りませんが、彼の苦悩はあくまで自分が世界を破滅させ得る発明をした事に対するもので、広島と長崎に対しての後悔や苦悩は、あくまでその後悔の一部でしかないというか。

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あまり主語を大きくはしたくないし劇中で言いたい事も分かるけど、そこはやっぱ日本人としてはモヤってしまいますよね。

いや、誤解して欲しくないのは、本作はアメリカが作る反戦反核映画」としては相当真摯に、かつ公平に描かれていると思うし、そこは評価されるべきと思います。が、同時に限界も感じるというか。そこを上手く言語化出来ないのがまたモヤモヤしてしまうんですけどね。

あと、原爆を日本のどこに落とすかの会議で、一人のお偉いさんが「京都には以前新婚旅行で行ったことがある。京都は文化的価値があるから原爆投下の候補から外した」(うろ覚え)と話すシーンがあって、ここも日本人的には「ふざけんな」と思うシーンですが、その一方で戦争というものを一言で言い表しているシーンでもあるなって思ったんですね。

このお偉いさんが京都を原爆投下候補地から外したのは、自分が京都の町や人を見て知っていたからで、つまり人間は自分が関わった場所や人に対して残酷にはなれないというか、結果、戦争とは無知と想像力の欠如が引き起こすのだなと。そうした真理をこのシーンは一言で表現していると思いましたねー。

オッペンハイマー」は観るべきか

そんな諸々を踏まえ、鑑賞直後の本作に対する僕の今のところの評価は、そんなに刺さらなかったし特別良くもないけど酷くもない。まぁ普通?って感じでした。

ところが、こうして感想を書き始めると次から次に言いたい事が湧いてきて、まぁ、そう考えると面白いかどうかは別に「語りしろ」のある作品なのは間違いがないし、ノーランが意図したかは分かりませんが、現在、世界各地で起こっている紛争や分断、目をそむけたくなるような残虐な行いにも繋がる物語ではあると思うので、絶対見るべきとまでは言わないですが、少しでも気になる人は(出来れば劇場で)観た方がいい作品だと思いました。

興味のある方は是非!

 

 

 

インフレ上等!前作から更にマシマシ「THE WITCH/魔女 -増殖-」(2023)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは2018年の公開後口コミで人気が広がり、DVDレンタル&配信で推定100万人以上が視聴したという韓国発異能バトル映画「THE WITCH/魔女」の続編『THE WITCH/魔女 -増殖-』ですよ。

前作の主演のキム・ダミから、2020年夏に行われたオーディションで1,408人を抑えて選ばた新鋭シン・シアに主役をバトンタッチ。最新のVFXを駆使した前作以上の超絶アクションと世界観で、前作から更にスケールアップしていました!

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概要

遺伝子操作により殺人兵器と化した少女を描いた『The Witch/魔女』の続編。秘密研究所から逃れた少女を相手に、彼女の命を狙う工作員、超能力者集団や犯罪組織らが激しいバトルを繰り広げる。前作に続きメガホンを取るのは『新しき世界』などのパク・フンジョン。ヒロインを演じるのは、オーディションで選ばれたシン・シア。ドラマ「ウ・ヨンウ弁護士は天才肌」などのパク・ウンビンのほか、ソ・ウンス、ソン・ユビン、チン・グらが出演する。(シネマトゥディより引用)

感想

韓国発、異能バトルエンターテイメント第2弾

前作「THE WITCH/魔女」が日本で公開された時は僕はまだこの映画を知らなくて、半年くらい後にDVDレンタルで観たと思います。実際、「THE WITCH/魔女」は映画を観た人の口コミを聞いた人がDVDレンタルや配信で観て人気に火がついたという印象がありますねー。

それまでの、いわゆる韓国が得意とする「痛みの伝わるノワール映画」要素は残しつつ、ドラマというよりマンガ的な世界観を実写化した韓国エンタメの新機軸。その先駆的作品群の1作がこの「THE WITCH/魔女」だったのだと思います。

そんな前作で主役の少女ジャユンを演じたのは当時まだ無名だったキム・ダミ。

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一見すると、地味で純朴そうにも見えるけど、なぜか目の離せない魅力と圧倒的な存在感で主役を演じきった彼女は、その後大ヒットしたドラマ「梨泰院クラス」や中国映画の韓国リメイクである「ソウルメイト」に出演。今や韓国では大人気女優になっています。

そんなキム・ダミから主役の座を引き継いだのが、2020年夏に行われたオーディションで1,408人を抑えて選ばた新鋭シン・シア。前作の主人公ジャユン(キム・ダミ)とは双子の姉妹であり、姉のジュヤンを凌ぐ能力を持つスーパー超能力者という設定です。

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双子という設定だからなのか、キム・ダミとシン・シアの2人は、やや容姿が似ているように見えるんですよね。まぁ、よく観れば全然違うんでしょうけど撮り方とかメイクで似ているように見せているのかな。

ざっくりストーリー解説

そんな本作のストーリーをザックリ説明すると、遺伝子操作によって超人を生み出す「魔女プロジェクト」の施設〈アーク〉が上海の超能力集団「土偶」の襲撃を受け、壊滅した施設から一人の”少女“(シン・シア)が抜け出します。

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血まみれの素足で真っ白な雪原を歩く彼女は偶然通りかかったギャングの車に無理矢理乗せられますが、スーパー超能力でギャングたちを壊滅。偶然にもギャングから助ける形になった女性ギョンヒの実家で匿われる事になるんですね。

ギョンヒと彼女の弟デギルとの暮らしの中で徐々に人間らしい感情を持つようになった少女でしたが、彼女の生存を知ったアークのエージェント、土偶のメンバー、そしてギョンヒ姉弟が住む土地を狙うギャングが押し寄せ、血みどろ異能バトルがスタートする。というストーリー。

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前作を観た人ならお気づきだと思いますが、前作も今作も基本的なストーリーラインはほぼ一緒なんですよね。前作と違うのは、前作の主人公ジャユンよりも本作の少女の方がイノセントというか生まれたての赤ん坊のように純粋という設定でしょうか。あと、メッチャ食いしん坊。

超絶強いんだけど生まれたての赤ん坊みたいに純真で食いしん坊な美少女とか、もう、完全にマンガのキャラクターですよねw

前作の場合、ジャユンは組織から抜け出した後、彼女を匿ってくれた養父母に育てられたという設定でした。そしてジュヤンはこれこれこういう娘で——と観客に思わせておいて実は——という作劇の面白さで映画を引っ張っていたんですが、本作でその手はもう使えないし、一体どうするのかな?と思ったら、少女を狙う超能力者たちの強さを前作よりマシマシにして、さらにVFXもマシマシでアクションシーンをド派手に盛るというねw

「はぁ!?インフレさせ過ぎると物語の収集がつかなくなる!?上等じゃーーい!」という監督を始めとしたスタッフの気概を感じましたよw

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同じく強さのインフレが止まらない作品だと、昨年公開の韓国映画「オオカミ狩り」がありましたが、後出しジャンケンのようにどんどん強キャラを投入する作劇が韓国では流行ってるんでしょうか?

そして、そんな化け物級に強く、とにかくイキり倒している超能力者たちをサクッと一発で滅していく少女。この辺は前作もそうでしたが、めっちゃ強い敵を一発で倒すことで主人公の強さを表現する作劇法はほぼ、ワンパンマンで、いわば主人公が無双する系のカタルシスがエンターテイメントになっているわけです。

それだけだと、観ている観客にとって自分には無関係のどうでもいい物語になってしまいますが、そこで最弱の一般人と最強の主人公の関りを描くことで、主人公の物語に感情移入させる構造になっているんですよね。

昨今、CGソフト自体の性能も上がり、作劇、見せ方の工夫や発想次第で大資本のハリウッドにも負けないVFX作品を作れるようになったことで、非ハリウッド製の小規模作品でも僕らのようなボンクラ歓喜の特撮系ジャンル映画がこれからどんどん出てくるのは嬉しいことだし、どんどん盛り上がってくるといいなと思いましたよ!

興味のある方は是非!!