「あの時、半そでのままぶるぶると震えていた彼をこのチャペルへと招き入れた時、私の体は凍りつきました。半そでから見える小さなその細い腕には多数の痣があり、そして彼の左手には…。」 彼女は言葉を止めて、小さく首を振った。 「彼の左手には、見える範囲全てがひどいやけどの痕を残していました。」 僕は驚いて彼女を見つめた。 「それが何らかの事故によってできてしまった傷なのか、またそうでないのか、私達は知る由もありません。寒くなれば傷が痛むのか、何も言わずに、その小さな手でその痕を何度もさすっている彼を見ると、傷の訳を聞くのは彼の心を殺してしまうのではないかとためらわれ、今に至るまでその事にふれる事はできないでおります。 彼は今日先生にお会いできるのを、本当に本当に心待ちにしていました。彼がここに来て以来…、彼に面会に来て下さるのは先生が初めてです。彼は今、先生が来て下さるのを今か今かと自分の部屋で待っているに違いありません。どうか、彼のその傷を見ても驚かずに彼と話をして下さればと思います。」 そしてシスターは優しく微笑んだ。 「先生がよろしければ、ご案内致します。」
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