いつか来た道。国際親善試合 日本代表 VS ウクライナ代表

日時 2018年3月27日(火)21:20 ※日本時間
試合会場 スタッド モーリスデュフラン
試合結果 1-2 ウクライナ代表 勝利

2018年6月14日に開幕するロシアワールドカップまで、あと2ヵ月半。日本代表はベルギー、リエージュにてマリ代表、ウクライナ代表と対戦。結果はマリ戦が1-1のドロー、そしてこの試合、ウクライナ戦が1-2での敗戦、というものだった。

日本代表フォーメーション
9
杉本
8
原口
7
柴崎
4
本田
17
長谷部
16
山口
5
長友
20
槙野
22
植田
21
酒井高
1
川島

この試合の日本代表のフォーメーションは、1トップに杉本健勇、トップ下に柴崎岳を置く4-2-3-1。直前のマリ戦のスタメンと比べると、槙野、長友、長谷部以外のメンバーは、全て入れ替わっている。

ウクライナ代表フォーメーション
41
ベセディン
10
コノプリャンカ
11
マルロス
17
ジンチェンコ
8
マリノフスキー
6
ステパネンコ
5
ソボル
44
ラキツキー
18
オルデツ
2
ブトコ
12
ビャトフ

一方のウクライナは、ベセディンの1トップ、両ワイドにコノプリャンカとマルロス、IHにジンチェンコとマリノフスキーを置く4-1-2-3。
ウクライナのスターティングメンバーのうち、GKピヤトフ、DFのブトコ、オルデツ、ラキツキー、1ボランチのステパネンコ、右ウィングのマルロスは、クラブチームではシャフタール・ドネツクに所属している選手。そして、DFのソボル、IH(インサイドハーフ)のマリノフスキーもかつてシャフタールに所属したことがあり、もう一人のIHのジンチェンコもプロデビューはロシアリーグのFCウファだが、ユース時代はシャフタールで過ごしている。つまり、ウクライナのスターティングメンバーは、1トップのベセディン、左ウィングのコノプリャンカを除き、全てシャフタール・ドネツクにゆかりのある選手たちである。
そして、彼らを率いるウクライナ代表監督は、元ACミランのアンドリー・シェフチェンコ。こちらはシャフタールと双璧をなすウクライナの強豪チーム、FCディナモ・キエフの英雄である。

さて試合のほうだが、上述の通り、日本は1-2で敗れてしまった。1点先制された後、前半41分に柴崎のFKから槙野のヘディングで追いついたが、後半24分にカラバエフ(途中投入された選手)に2点目を献上し、そのまま敗戦、という流れだった。この記事ではその流れを時系列で追うのではなく、この試合の日本代表、そしてウクライナ代表の大まかなサッカーと、日本の1失点目と2失点目について取り上げてみたい。

まず、この試合の日本代表のサッカーについてだが、アジア最終予選のオーストラリア戦や、親善試合のベルギー代表戦と同じく、前線から積極的に、マンツーマンディフェンスで前からハメに行く守備を行い、奪ったら手数をかけずにフィニッシュまで持ち込む、と言う形を狙っていた。しかし、オーストラリア戦やベルギー戦では一定の機能性を見せたマンツーマンディフェンスが、この試合では機能しなかった。
ウクライナの方は、2人のCBと1ボランチのステパネンコのところからポゼッションが始まるので、日本の方は、まず杉本がファーストディフェンダーとなってボールサイドを限定し、トップ下の柴崎がステパネンコを見る、と言う形でハメ込みにかかるのだが、ウクライナの方は、日本の前線からのプレスが始まると、IHのどちらか、もしくは両方が、ステパネンコと同じ高さまで下りてくる。そして同時に、ウィングのコノプリャンカ、マルロスのうち、ボールサイドにいるほうの選手が中に絞ったポジションを取る。日本の方は、下りてくるIHをフリーにするとハメ込めないので、IHにはボランチが付いて行きたいのだが、中に絞った相手ウィングがボランチのエリアに入ってくるので、IHを追いかけて行けない。そうなるとIHはボールサイドにいるSH(原口か本田)が中に絞って見なければいけないのだが、ウクライナの方は、日本のSHが絞ったポジションを取ると、今度はSBがワイドに広がって、そこでフリーの選手を作ろうとする。結果、日本の方から見ると、相手IHにボランチが付いていくと絞った相手ウィングがフリーになる、SHが付いていくと広がった相手SBがフリーになる、ということになり、前からハメ込むことが出来ない。
後半になると、日本は上記の部分を少し整理してきて、下りていくIHにはボランチが付いて行く、そして絞った相手ウィングにはSBが絞って付く、と言う形に変わっていた。しかし、SBが絞ったポジションを取ると、両ワイドにスペースが出来てしまうので、ウクライナの方は、SBがウィングと同じぐらいの高さまで上がってきて、そのスペースに侵入してくる。このSBに対しては、日本はSHが付いて行くしかないので、本田、原口が本来SBがいるエリア辺りまで相手を追いかけることになる。そうなると必然的に、ボールを奪い返せても、SHの位置取りは低くなってしまうし、消耗も大きくなる。そして何より、前からハメに行くはずが、後ろ向きに走ることになっている。結局この形も、前半よりはマシになった、と言う以上のものではなかった。

次に失点シーンについて。
まず1失点目だが、流れとしては、日本から見て右サイド、ウクライナ陣内深い位置で本田がドリブルのボールを奪われたところから始まった。以下、画像で見ていく。

日本対ウクライナ 1失点目(1)
まずウクライナの方は、奪ったボールを44番の選手が持った。ここで、柴崎はボールホルダーである44番に寄せているが、距離的に遠いし、より自陣に近い側にいるのは6番の選手なので、まず6番の選手に向かうか、44番と6番のパスコースに入る必要があった。ここで44番に当たりに行って6番に通されてしまった、というところから順番に守備がずれていっている。

日本対ウクライナ 1失点目(2)
柴崎が6番に通させてしまったことで、6番がフリーに。ここで6番に柴崎と高徳両方が当たりに行っているが、高徳は当たりに行く必要はなく、自分のマークに出させないようにしながら相手を遅らせて、柴崎の戻りを待てばよかった。

日本対ウクライナ 1失点目(3)
2人で当たりに行って、高徳が交わされたことで、結果的に2人とも置いて行かれてしまう。その後5番に通って、また5番に2人両方が行ってしまい、中央のスペースで17番と6番が両方フリーになってしまっている。

日本対ウクライナ 1失点目(4)
6番にパスが通って完全にフリーな状態に。高徳が前からプレスに行ったので、長谷部は右SBのポジションを埋めていて、中央の広大なスペースには山口しかいない。そして山口の周りでは上述の17番と6番を含め、4人のウクライナの選手がフリーな状態になっている。

日本対ウクライナ 1失点目(5)
その後のプレーでも、フリーでドリブルした11番に対して槙野と植田両方が同じ動きをしてしまう。

日本対ウクライナ 1失点目(6)
そしてそこから幾つかのボールの奪い合いがあった後、ペナルティエリア左に流れたボールに対して長谷部、長友、原口の3人ともが寄ってしまい、原口が見ていた8番の選手がフリーになっている(画像の外側にいるので映っていないが、原口の背後にいる)。

最終的に、そこから8番に渡って、8番がバイタルに浮き球を折り返し。バイタルにはウクライナの17番がいたので山口はそちらに寄せたのだが、ボールは17番ではなく、上がってきたCBの44番へ渡り、この選手がシュート。最前線にいた杉本が慌てて戻ったがシュートを阻害できず、植田が頭に当てたがボールはそのままゴールマウスに吸い込まれて失点となった。

結局、失点に至るまでの間に、日本の方は何度も何度も守備のミスを犯していて、何故そうなるかというと、それは守備の質を上げないまま、量や速度を上げようとしているからである。「ゆっくりやって出来ないことは、速くやればもっと出来ない」というのはサッカーで良く言われる格言だが、これは守備の時もそうで、前から素早く、人数を掛けて奪いに行くということは、相手もそれに合わせてプレースピードを上げる、ということであり、今の日本の守備のレベルでは、そういうスピードが上がった中での守備で、必ず判断のミスが出てしまう。よって、必要なのは自分たちが対応可能な速度まで相手のプレースピードを落とさせることであり、速度が上がりそうな選択肢から順番に潰していく、ということである。つまり、最初の柴崎のプレーで言うと、自分から近い方の6番にまず寄せて、6番へのパスコースを切りながら44番に寄せる、その次の高徳のプレーでは、フリーの6番に対しては飛び込まずに柴崎がフォローできるまでプレーを遅らせる、5番に渡った後は、柴崎と高徳のどちらかはオープンスペースに運ばれないよう、中央のスペースの方に動く、そして槙野と植田のプレーでは、まずどちらかが出て、11番のドリブルを遅らせる、というプレーが必要だった。
そして結局、そういう状況判断が「デュエルに勝つ」ということにもつながって行く。「どんな状況であれ勝つ」というのは、日本は勿論、強豪国の選手であっても無理なわけで、「自分たちが勝ちやすい状況を作り、そこで勝つ」というのが、現実的な意味での「デュエルの強さ」であり、状況判断を伴わずに相手に挑んでバタバタ倒されるのは、単なる蛮勇である。

次に、後半24分の2失点目について。
このシーンでは、日本から見て右サイド、高徳とウクライナの10番、コノプリャンカとのマッチアップで高徳が交わされてしまい、コノプリャンカが日本のペナルティエリア脇に進入、山口が慌てて自分のマークを捨ててカバーに飛び込んだが、コノプリャンカは山口のスライディングタックルをも躱して、逆サイドからゴール前に走り込んできた20番、カラバエフに右足アウトサイドで折り返し。カラバエフは完全にフリーになっていたため、ボールをワントラップしてからシュート。シュートコースには長谷部と槙野が飛び込んだが、ボールは2人の僅かな間を抜け、ゴールに突き刺さった。

失点の発端は高徳が交わされたことだが、日本の方は、その後の周りのリカバーも悪くて、まずカバーに入った山口については、コノプリャンカはウクライナの選手の中で一番突破力のある選手だし、逆に高徳の方は、前の試合でも、この試合でも、パフォーマンスは悪かったので、もう少し予測を働かせて、「交わされた」ではなく「交わされそう」というタイミングでカバーに入ってほしかった。そしてスライディングタックルについては、1人に対して2人が剥がされると絶望的な状態になってしまうので、ボールではなく相手の身体を止めるつもりで行って欲しかった。ペナルティエリアの僅かに外だったし、この時点で山口はカードももらっていなかったので。山口は、こういう時のためにピッチに立っている、と言ってもいい選手なので、こういうシーンでは、絶対に違いを見せないといけない。
また、高徳が剥がされた時点で、ボランチがカバーに行く→バイタルが空く、というのは自明なので、トップ下の柴崎、ボールと逆サイドにいた原口、このせめてどちらかが、すぐにバイタルに戻る、という判断が出来ていれば、カラバエフをフリーにすることは無かった。このシーンで、柴崎は戻ろうとしたが遅れていて、原口に至っては棒立ちだった。
ただ、柴崎にしても原口にしても、前半からかなり攻守にパワーを使っていて、一方でカラバエフは後半17分に交代で投入された選手だったので、そこの差が出た、とも言える。つまり本大会でも、試合の序盤、中盤でスタメンの選手を消耗させ過ぎてしまうと、途中から出てきた相手のフレッシュな選手にやられてしまう、ということは起こり得る。

ここまで書いてきたことを簡単にまとめると、現在の日本代表は、前から積極的に奪いに行く、ということに傾倒し過ぎていて、結果的に相手の攻撃を加速させ、守備のミスが起こりやすい状況に自らを導いてしまっている。そしてそれに伴って、スタミナの消耗も併発している。
ザッケローニ監督時代の日本代表は、攻撃的になりすぎて攻守のバランスを崩してしまっていたが、今の代表も、前がかりになりすぎている、という点ではそれと同じで、違いはボールを持った時にそうなっているか、持っていない時にそうなっているか、ということに過ぎない。状況としては、南アフリカワールドカップに臨む前の岡田ジャパンの状況に非常に似ていて、当時の岡田ジャパンも、前から積極的にボールを奪い返そうとして逆に相手の攻撃を加速させ、自分たちは消耗してしまい、結果、後半には力尽きる、というのがパターンだった。
ただ、ハリルホジッチ監督の日本代表は、アジア最終予選のオーストラリア代表との試合では、ブロックを落として守る状態と前から奪いに行く状態を使い分け出来ていたし、その前のイラク代表戦では、引いてカウンター、という戦い方も出来ていたので、今の戦い方はあくまでも、親善試合でどこまで出来るか試したい、ということでやっている可能性もある。と言うか、そうであってほしい。

この試合を見た上での修正点について書くと、日本の選手全般、特に前線の選手に言えることだが、まず最初に消すのはパスコース、と言うこと。ボールホルダーは短い時間で大きく動くことは無いが、ボールは動くので、ボールが動くコースをまず消す、ということが必要である。ボールホルダーにプレスを掛けるのはその後であり、それは前の選手の意識としても必要だし、後ろの選手の声かけも必要である。
また、マンツーマンで守るのが基本路線だとしても、特定のマークを持たない選手をカバーリング用に置く、というのはやはり必要で、オーストラリア戦やベルギー戦のように、アンカーを置くのが現実的な対策だと思う。そういう意味でも、阿部勇樹をアンカーに置いて守備が安定した岡田ジャパンの状況に、今の代表は似ている。
ただ一つ異なるのは、岡田監督は日本人だったということである。外国人であるハリルホジッチ監督の元で、日本代表は同じように纏まれるのか。ウクライナ戦の前日の練習では、監督が「Je suis japonais! (私は日本人だ!)」と叫んでいたそうだが、監督自身も、そこを危惧しているのではないだろうか。

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