勝因は速さ、敗因はメリハリの無さ。J1第9節 ガンバ大阪 VS セレッソ大阪

日時 2018年4月21日(土)19:00
試合会場 パナソニックスタジアム吹田
試合結果 1-0 ガンバ大阪勝利

今シーズン最初の大阪ダービーは、ガンバ大阪のホームでの開催。
ガンバ大阪は今シーズン長谷川健太監督に代わって、かつてセレッソを率いたレヴィー・クルピ監督を招聘したが、この試合時点で1勝1分けの勝ち点4で最下位と低迷。
一方のセレッソは、開幕当初こそ出遅れたものの、直近のリーグ戦は4連勝中。しかし控え組中心で臨んだACLでは広州恒大に敗れてしまい、グループリーグで敗退となってしまった。
ただ言い方を変えれば、セレッソはACLよりもこの大阪ダービーを優先してメンバーを選んだ、とも言え、対するガンバの方も、クルピ監督の流儀として、これまではターンオーバーをしてこなかったのだが、この試合の直前のルヴァンカップでは殆ど控え組のメンバーで臨んでいる。
これらのことからも、両チームの「この試合だけは落とせない」という意気込みが伝わってくる。

セレッソ大阪フォーメーション
9
杉本
13
高木
8
柿谷
7
水沼
24
山村
6
山口
14
丸橋
23
山下
22
ヨニッチ
2
松田
21
ジンヒョン

セレッソのフォーメーションは杉本と柿谷を2トップに置く4-4-2。
ロシアワールドカップ前の過密日程の中、セレッソには負傷者が続出していて、特にボランチに怪我人が多い。主力のソウザ、そしてソウザが怪我の時の代役として期待されていたオスマル、両方が怪我でベンチ外。そして控え組のボランチである秋山大地も怪我。またボランチ以外では、CB木本も怪我でベンチ外。
これらの事情から、ACLから完全にターンオーバーすることは叶わず、ボランチの山村、CBの山下はACLアウェーでの広州戦から中3日での連戦である。また、左SHの主力である清武についても、怪我明けということでベンチからのスタートとなった。

ガンバ大阪フォーメーション
11
ウィジョ
10
倉田
7
遠藤
25
藤本
8
マテウス
29
高江
4
藤春
3
ファビオ
5
三浦
22
ジェソク
1
東口

一方のガンバの方は、ファンウィジョを1トップ、遠藤をトップ下に置く4-2-3-1の布陣。
直前のルヴァンカップ、浦和レッズ戦から連続して出場しているのは右SBオジェソク、右SH藤本淳吾、ボランチ高江麗央の3名。この3名のうち、ジェソクと藤本についてはシーズン序盤は怪我で出番のなかった選手なので、連戦でも大丈夫、という判断なのだと思うが、高江に関しては、恐らく当初は遠藤のターンオーバー要員だったのだと思う。しかし、浦和戦でのプレーが非常に良かったので、遠藤をトップ下に上げて、ボランチは高江とマテウスのコンビにする、という判断になったのだと考えられる。

試合が始まると、ガンバの方はかなり積極的に、前からプレスを掛けてきた。
ガンバはゾーンディフェンスが主体だが、この試合の序盤では、スペースを埋めるというよりも、チーム全体でボールに食いつく、という感じの守備だった。
そうなると当然、逆サイド、そして最終ラインの裏にスペースが出来るので、セレッソの方は手数を掛けずにそこにボールを入れていく。逆にガンバの方は、ボールを回収した後のプレーでは繋ぐ意識が高いチームなので、ある程度ボールを持つ。
その結果、この試合の序盤はガンバがボールを保持する時間が長かったが、それは両チームのスタイルの違いによるものであり、ガンバがゲームを支配している、という感じではなかった。

そして前半10分、ガンバにアクシデントが起こる。GK東口とCB三浦が味方同士で交錯し、両名ともピッチ上に倒れこんでしまった。
上述の通り、セレッソはガンバのプレスの裏をシンプルに狙う形が多かったのだが、このシーンでは、セレッソのGKジンヒョンがガンバのDFラインの裏にロングボールを蹴り、左SB丸橋が裏のスペースに抜け出しそうになったので、ガンバの方はゴールマウスから東口が飛び出し、また三浦も下がりながらボールをクリアしようとしたため、お互い気付かずに衝突してしまった、という流れだった。東口は恐らくコーチングしていたと思うが、満員の吹田スタジアム、しかも大阪ダービーで両チームのサポーターとも大音量で声援を送っている中だったので、三浦には聞こえなかったのかもしれない。
このシーンで飯田主審はプレーを続行させたのだが、ここはセレッソ目線で見ても、プレーを止めてほしかった。頭同士の接触だったので、下手をすると命に関わる。GKが飛び出した状態で倒れたので、セレッソから見れば得点のチャンスだったが、それは人命と比べれば些細なことに過ぎない。
結局、この接触で東口が負傷交代。ガンバはGK林瑞輝を投入し、以降は彼がゴールマウスを守った。

東口の負傷で5分ぐらい試合が中断したのだが、これ以降も流れはそれほど変わらず。セレッソは食いついてくるガンバの裏や横のスペースで起点はある程度作れているので、そこからチャンスにつなげたいのだが、ガンバの方も帰陣が速く、なかなかフリーでシュートを撃つ場面まで持っていけない。
ガンバの方は、ボールを持ったらサイドから仕掛ける、そしてクロスや、ファンウィジョの裏抜けを狙う、という形が多かった。セレッソはウィジョの裏抜けに対しては山下が上手くコースに入って裏に走らせなかったり、オフサイドを取ったりと対応できていたが、クロス、特にファー側のCBとSBの間に落ちてくるインスイングのクロスに対しては、危ないシーンが何度かあった。

お互い決め手を欠く中、前半38分、ヨニッチがペナルティエリア内でファンウィジョを倒してガンバがPKを獲得。ヨニッチはカットインしようとしたウィジョの足を引っかけてしまったのだが、位置はペナルティエリア内とは言えセレッソから見て右前のカドあたり、ゴールからは一番遠い位置だったので、勿体ないプレーだった。
PKのキッカーはファウルを貰ったファンウィジョ本人。キックされたボールはゴール真ん中に飛び、GKジンヒョンの足に当たりながらもそのままゴールに収まって、ガンバが先制点を奪取した。

このPKを与えてしまったシーン、上述の通り、ヨニッチは軽率だったのだが、水沼のカバーリングもまずかった。

ガンバ大阪 対 セレッソ大阪 ファンウィジョのPK奪取シーン1

画像で見ると、ヨニッチがウィジョの対応に出た時、水沼はウィジョをヨニッチと供に前後から挟むようなポジションを取っている。こういう対応は、ドリブルで打開する選択肢を持っている選手から見ると、実質1対1の状況と変わらず、寧ろ守備側から見て難しい状況を生んでしまう。

ガンバ大阪 対 セレッソ大阪 ファンウィジョのPK奪取シーン2

次の画像を見るとそれが良く分かる。挟むように対応したことで、間を抜けられそうになり、2人とも置いていかれることを恐れたヨニッチが慌てて足を出して、これがPKの判定となった。

ガンバ大阪 対 セレッソ大阪 ファンウィジョのPK奪取シーン3

水沼は上の画像のように、ヨニッチの背後をカバーし、かつ外側斜め前方を向くようにポジションを取る必要があった。そうすることで、ウィジョが縦に抜けようとした場合はヨニッチが、カットインしようとした場合は水沼が対応できる。
水沼はサイドの選手なので、普段は自分がボールにアタックして、ボランチやCBにカバーしてもらう事が多いわけだが、試合の中では、自分が中央になる、カバーする側になる、ということも当然起こり得るので、そこは改善の必要があると思う。

結局セレッソにとっては、この失点が大きな意味を持つことになってしまった。
前半は1-0で折り返して、後半の13分ぐらいからは、ガンバはブロックを落として守ることが多くなり、前半ほど前に出てこなくなった。それに対してセレッソの方はSHを中に入れ、SBを高めに上げて攻勢に出るのだが、水沼、高木という選手はそもそも、サイドからプレーを始めた方が良さが出る選手なので、中に入るとあまり存在感を出せない。そうなると結局、フィニッシュの形はSBからのクロス、もしくはセットプレー、ということになり、攻め筋に変化が出ない。

ガンバは後半18分に藤本を下げて米倉を投入し、米倉はそのまま右SHのポジションへ。
そしてセレッソは後半31分に水沼を下げて清武、丸橋を下げて片山を投入。ポジションの変更はなく、清武は水沼のいた右SHに、片山は丸橋のいた左SBのポジションに入った。

セレッソ大阪フォーメーション(後半31分時点)
9
杉本
13
高木
8
柿谷
10
清武
24
山村
6
山口
16
片山
23
山下
22
ヨニッチ
2
松田
21
ジンヒョン

正直、このユンジョンファン監督の交代采配は悪手だったかなと。
後半はSHを中に入れてプレーさせていたので、サイドに張ったプレーが得意な水沼に代えて、中でのプレーが得意な清武を、ということと、片山にはロングスローがあるので、セットプレーのチャンスを増やせる、ということ、この2つを意図した交代采配だったと思うが、片山だとどうしても、ボールを運ぶ力が丸橋に比べると劣るので、結局、丸橋を下げた後のセレッソはロングボールが多くなってしまい、清武の良さが出にくい展開になってしまった。
この2人をどうしても一緒に入れたい、ということだったのであれば、丸橋ではなく山下を下げて、片山はCBに入れる、ということにするか、水沼と高木を下げて3バックにして、片山をヨニッチ、山下と共にCBに入れる、前線は杉本、柿谷、清武の3トップにする、という形にした方が良かったと思う。

ガンバは後半35分に遠藤を下げて中村を投入。
そしてセレッソは後半37分に山村を下げてヤン・ドンヒョンを投入。この時間帯は既にスクランブルの状態になっていたのではっきりしないが、多分下記のように、ドンヒョン・杉本の2トップ、柿谷がトップ下、山口の1ボランチという4-1-3-2になっていたのではないかと思う。

セレッソ大阪フォーメーション(後半37分時点)
18
ドンヒョン
9
杉本
13
高木
8
柿谷
10
清武
6
山口
16
片山
2
松田
23
山下
22
ヨニッチ
21
ジンヒョン

この采配についても不満が残った。ボランチを下げてドンヒョンを入れると当然、もっとロングボールが多くなる。そういうハイボール、ロングボール主体の攻撃にするのであれば、空中戦に強い山村は残しておくべきで、高木を下げたほうが良い。
1回目の交代にしても、2回目の交代にしても、セットプレーやロングボール主体のフィジカル勝負のサッカーをするのか、それともSHを使って繋いで崩して行こうとするのか、意図が不明瞭で、結果的にどっちつかずのサッカーになってしまった。

結局試合はそのまま、1-0でガンバ大阪が勝利となった。
この試合のガンバの勝因は、何と言っても守備だったと思う。これまでのガンバは、戦術的にポジショニングが整理されていても、結局そのポジションを取るスピードが遅い、攻撃から守備に切り替わった時のスピードが遅い、というのが守備の脆弱性の一因だった。

速さが足りない。J1第3節 川崎フロンターレ VS ガンバ大阪

この試合のガンバは、名古屋戦と比べて、守備のポジショニングは整理されているように見えたが、そこに速さが伴っていないと言うか、寄せの速さ、切り替えの速さ、守備のポジションを取る速さ、という物が不足していて、それが失点につながった、という感じだった。

しかしこの試合では全員が獅子奮迅の運動量、そして切り替えの速さを見せ、それが完封勝利につながった。元々球際には強いチームなので、相手にスペースや時間を与えずに球際勝負に持ち込むことが出来れば、そうそう崩されることは無い。
また、これまでのガンバは遠藤と市丸、遠藤とマテウスと言った、セカンドボランチタイプの選手が中盤でコンビを組むことが多く、彼らが攻撃の時にバイタルのポジションから離れてしまうことで、守備になった時にバイタルのポジションが空いてしまう、ということが多かった。しかしこの試合では、マテウスが高めのポジションを取った時に、高江がしっかりとバイタルに残っていて、4-1-2-3のような形から守備を始めることが出来ていたので、そこも大きかったと思う。

一方のセレッソだが、もう少し、ロングボール主体のシンプルな攻撃と、SHを使って中盤で繋いでいく攻撃の、メリハリが欲しかったなと。前半は前から奪いに来るガンバに対して裏を狙うボールも多かったが、繋ごうとするシーンも多く、そこはもっとシンプルに、前半は相手を食いつかせてひたすら裏を狙う、得点は奪えなくても相手を疲労させる、ということに徹しても良かったと思う。
逆に後半は、清武を入れて、SHを中に絞らせて、SBを上げて相手を押し込む、というサッカーに徹したほうが良かったのかなと。
前半も後半も、結局どっちつかずのサッカーになってしまったので、もっとはっきりと、方向性を定めたサッカーをした方が良かったように思う。

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