サミーを擁した上での原点回帰 VAN HALEN - FOR UNLAWFUL CARNAL KNOWLEDGE(F@U#C%K)

前作からの流れ





1988年リリースのVAN HALEN(ヴァン・ヘイレン)の8thスタジオアルバム、OU812全米No.1を獲得し、アメリカで400万枚の売り上げを記録しました。
なかなかの好成績ではありますが、内容には賛否両論があります。

 

サミー加入直後の7thアルバムの 5150 もそうですが、Edward Van Halen(エドワード・ヴァン・ヘイレン、通称エディ)はキーボードを多用
きらびやかな名曲をアルバムに含ませてます。
これは6thアルバムの 1984 の時からの流れで、エディがやりたいように物事が進んでいっていたということになるでしょう。
天才ギタリストは、ギタープレイだけでは飽き足らず、キーボードでもその優れた才能を見せ付けてくれてます。

 

実際、その戦略は効を奏し、成功を収めていくわけですが、代償としてダイヤモンドデイヴ、こと、David Lee Roth(デヴィッド・リー・ロス)や長年バンドのプロデュースをしていた Ted Templeman(テッド・テンプルマン)と袂を分かつことになってしまいます。

 

そしてサミーを迎えて進むのは、80年代に合わせてシンセポップ化したヴァン・ヘイレンサウンドでした。
その上、OU812では、かなりブルースの影響も見られ、なかなか渋い楽曲がアルバムを満たすようになります。
それはそれで、いい曲もたくさんあって、僕は好きでしたが、いかんせん、デイヴ時代に比べると地味さは拭えないですね。

 

それで、次のアルバムでは彼らの原点である、ハードロック、それもギターオリエンティッドな作品を目指すことになります。
そして今回はシンセも封印して、一部でピアノを用いるのみとなりました。
おかげで、エディもギターに集中できるせいか、またも彼の天才プレイが散りばめられた作品が生まれることになります。

 

加えて今回は、初期のヴァン・ヘイレンサウンドの構築に貢献したテッド・テンプルマンを再びプロデューサーとして迎え、もう一人Andy Johnsと共に制作したアルバムにはグルーヴ感あふれるバンドっぽいサウンドが戻ってきました。
ちなみにアルバムタイトルは、SAMMY HAGAR(サミー・ヘイガー)の発案で、最初は4文字のFワードのまんまをタイトルに使おうと思ったらしいです。
が、検閲があるため、今のタイトルに変えますが、頭文字を使って省略すると、Fワードになるという仕掛けになっています。
そして邦題は「F@U#C%K」と記号を混ぜてぼやかしているようですが、読む時はまんまのFワードになるので、日本では大丈夫なのかこれは、と思った記憶があります。

 

では今日は1991年リリースのVAN HALEN(ヴァン・ヘイレン)の9thスタジオアルバム、FOR UNLAWFUL CARNAL KNOWLEDGE(邦題:F@U#C%K)をご紹介したいと思います。

FOR UNLAWFUL CARNAL KNOWLEDGE(邦題:F@U#C%K)の楽曲紹介

オープニングを飾るのはPOUNDCAKE(パウンドケーキ)。

 

イントロで最初に聞こえてくるのは電動ドリルです。
同年リリースのMR.BIGの2ndアルバム、LEAN INTO IT(リーン・イントゥ・イット)のオープニングでもドリルが使われていますが、本質的には異なる使用法と言えます。
MR.BIGのギタリスト、Paul Gilbert(ポール・ギルバート)はソロの最後に、ドリルの先につけたピックで高速トレモロを見せています。
一方、エディは、主にドリルの回転音をギターのピックアップで拾わせたSEのような特殊効果を狙ったものといえます。
それ自体奏法的に大したものではありませんが、やはりアルバムのオープニングで用いることで、インパクトは絶大です。

 

そしてピックスクラッチから始まる楽曲は、ヴァン・ヘイレンの堂々たる王道ロックになっていますね。
サミーのヴォーカルに呼応するように柔らかく奏でられるハーモニクス音が気持ちいいです。
ここ2作と比べると非常にMichael Anthony(マイケル・アンソニー)のベースが効いており、バンドのグルーヴ感が戻ってきたような力強さを感じられます。
これは、やはりプロデューサーのテッド・テンプルマン効果なのではないでしょうか。

 

ギターソロも、タッピングハーモニクスから入ってくる速弾きは、明らかにエディの音ですね。
12弦ギターの爽やかなコードストロークや、ハーモニクスをたっぷり使った、ギターによるキラキラした音使いが、ヘヴィな楽曲をかっこよく彩っています。
サミーのヴォーカルも力強く、王道アメリカンロックヴォーカリストとして存在感を示してます。
どっしりとしたリズムを支える、Alex Van Halen(アレックス・ヴァン・ヘイレン)の豪快なドラムも健在です。

 

この曲はアルバムの先行シングルとしてリリースされ、ビルボード誌Mainstream RockチャートでNo.1を獲得しています。

 

2曲目は、 JUDGEMENT DAY(ジャッジメント・デイ)。

 

疾走感あふれる怒涛のヘヴィロックです。
イントロの歪んだアルペジオが非常にスリリングでかっこよく聞こえます。
ざくざく刻むギターリフはシンプルですが、合間に挟まれる気の利いたプレイはさすがにエディの独創があふれてます。

 

また、ギターソロの入り口と、曲のラストでは両手タッピングを用いてますね。
ソロもロックンロール的なかっこいいメロディを披露してます。
ライヴなどを見てもわかりますが、やはりエディはキーボードではなくて、エレキギターを弾いてこそ最も輝く、と強く感じれる楽曲ですね。

 

また、サミーもハードロックを歌わせたら上手いです。
彼のハイトーンも非常に迫力があります。
また、そのヴォーカルにかぶせてくるマイケルのコーラスもいつもどおり爽快にきまっています。

 

時代がヘヴィ&ダークになっていこうとするシーンに対する、ヴァン・ヘイレンの回答のように感じられるかっこいい楽曲になっていると思います。

 

3曲目は、SPANKED(スパンクト)。

 

ここ2作であればこのあたりでバラード系が来てたものですが、ここもヘヴィにどっしりしたロックを聞かせています。
この曲では、マイケルのベースが非常によく聞こえ、グルーヴを生み出していますね。
プロダクションでこんなに変わる一つの実例といえるかもしれません。
僕は、やっぱりバンドサウンドにおいてはベース音はしっかり聞かせるべきだと思ってますので、ここは非常に評価したいです。

 

イントロのロングトーンのギターから始まり、横ノリのちょっとファンキーで猥雑な楽曲になっています。
ですがサビ前のコーラスは爽やかですね。
このコーラスもヴァン・ヘイレンサウンドとして健在です。
ギターソロ後半には得意のハミングバード奏法が聴けます。
ドリルにピックをつけるまでもなく、自身のピッキングで高速トレモロをやっておられます。(もちろんポール・ギルバートも、高速トレモロが出来ないのでドリルにピックをつけたわけではありませんw)

 

ヘヴィなノリのある渋いサウンドがかっこいい楽曲になっています。

 

4曲目は、RUNAROUND(ランアラウンド)。

 

これまたかっこいい曲ですね。
軽く歪んだアルペジオが全編を特徴付けてます。
やっぱりシンセに頼らずとも、エディのバッキング、オブリで楽曲はキラキラ輝いて聞こえますね。
軽快に歌うサミーのメロディもキャッチーで、非常にノリやすい楽曲です。
頭打ちのドラムのリズムの上で繰り広げられるギターソロは、やはりエディらしくてかっこいいです。

 

この曲はMainstream RockチャートでNo.1を獲得しています。

 

5曲目は、PLEASURE DOME(プレジャー・ドーム )。

 

タッピングを多用した、効果音的なイントロが印象的です。
ギター一本でこんな世界を表現できるエディはやはり素晴らしいと痛感します。

 

そして楽曲は約7分に及ぶ、バンド感を1番感じられる曲ではないかと思います。
もちろん、サミーの歌メロもキャッチーでよいです。
しかし、この曲はそれ以外のインストゥルメント(楽器)部分がハイライトではないでしょうか。
勢いよくタイトなリズムを刻み続けるアレックスのドラムス。
楽曲のグルーヴ感を搾り出しているマイケルのベースプレイ。
そしてやはり何よりも、さまざまなリズムやフレーズ、効果的な音を生み出しているエディのギタープレイ。

 

この3者のプレイの融合、まさにバンドの一体感を味わえる素晴らしい楽曲と思います。
7分の長さを感じさせない、濃密な時間をくれる優れた楽曲ですね。

 

6曲目は、IN ‘N’ OUT(イン・アンド・アウト)。

 

長めに聴けるエディのプレイから始まるイントロが秀逸です。
メロディアスなギタープレイをたっぷり聞かせてからの、ミドルテンポのハードロックです。
サミーもいつものように伸びやかにハイトーンを聞かせてくれます。

 

ワウを使ったギターソロも、なかなかいい感じで聴かせてくれます。
そしてアウトロもサビの歌の裏で、かなり長尺のプレイを披露し続けます。
この曲は6分ほどの楽曲ですが、かなりたっぷりとギタープレイがフィーチャーされた楽曲になっていますね。

 

あと、たっぷり4拍分の無音からの、サビの復帰の部分など、なかなか大胆パートもあって結構印象的な楽曲として楽しめます。

 

7曲目は、MAN ON A MISSION(マン・オン・ア・ミッション)。

 

イントロとサビ裏のギターリフが、独特のノリを生み出して、ちょいとファンキーな雰囲気をかもし出してます。
まあ、このフレーズは3年後のB’zの14thシングル、Don’t leave meのカップリングのMannequin Villageのイントロや途中で、ちょっとうまく仕込まれてますね。
洋楽好き、それもハードロック好きの松本孝弘さんがVAN HALENを知らないはずはないと思われますので、ちょいとお遊びで入れたと思われますね。
パクリだと叫ぶ人もおられますが、そういう似たようなパートを見つけて、あ、あれだ、とニヤリとすれば、オッケーではないかと思いますね。

 

イントロのド頭や、ソロ前のタッピングもノイズなしにきれいに弾かれてますね。
ノリのいいキャッチーなロックチューンだと思います。

 

この曲はMainstream Rockチャートで第21位を記録しています。

 

8曲目は、THE DREAM IS OVER(ザ・ドリーム・イズ・オーヴァー)。

 

これまたイントロのギターフレーズが非常にかっこいいですね。
この曲も、歌メロ全編に渡ってエレキのフレーズが絡んで、これぞヴァン・ヘイレンのサウンドだ、と感じられます。
ギターソロでもきらびやかに、メロディアスに弾きまくってて、さすがエディ、と思えます。
ギターのかっこよさがぎっしり詰まった楽曲ですね。

 

その上、サビは非常にキャッチーになっていて、サミーが心地よく歌い上げます。
このアルバムで初めて、ポップ調の雰囲気が聞ける部分かもしれません。
やっぱりサミーが入ってからこその、この爽快なメロディ、この手のも捨てがたい魅力が漂っています。

 

この曲はMainstream Rockチャートで第7位を記録しています。

 

9曲目は、RIGHT NOW(ライト・ナウ)。

 

アルバム中、唯一キーボード(ピアノ)が曲を強く印象付けている楽曲ですね。
前作までのシンセ多用のアルバムから変化したアルバムになっていますが、この曲では非常に効果的に用いられています。
エディがプレイしているわけですが、あの名曲JUMP(ジャンプ)を作る前からこのピアノメロは浮かんでいて、やっとここにきて日の目を浴びたようです。

 

歌の内容は、シリアスなメッセージソングになっています。
まさに今(ライト・ナウ)行動するんだ、と力強い主張が含まれてます。
それに合わせてエディのピアノは美しく楽曲を彩ってますし、サビメロはサミーが力強く歌い上げています。
また、ギターソロも秀逸で、コンパクトながら見事なメロディを奏でています。
また、ギターソロの裏のマイケルのベースもなかなかいい味を出していますので、ギターとベースの両方に要注目です。

 

PVでは、今まさに(ライト・ナウ)起きている出来事に注目を集める、結構社会派の内容になっています。(もちろんユーモアも挟まれてますが。)
それでこのPVは1992年の、MTV Video Music Awardで、グランジ勢力の筆頭としてあらわれていたNirvana(ニルヴァーナ)のSmells Like Teen Spirit(スメルズ・ライク・ティーン・スピリット)を抑えて、Video of the Year獲得しました。

 

この曲はシングルとしてカットされ、ビルボード誌シングルチャートで第55位、Mainstream Rockチャートで第2位を記録しています。

 

10曲目は、316

 

これは、エディによるギターインストゥルメンタル小曲です。
クリーントーンのギターを優しく爪弾いています。
ラストはタッピングハーモニクスでエンディングです。
これは彼の息子、後にヴァン・ヘイレンのベーシストとして加入することになる、Wolfgang Van Halen(ウルフギャング・ヴァン・ヘイレン)の誕生日3月16日からタイトルが取られています。

 

比較的ヘヴィなアルバムの中で、ちょっとした清涼剤のような曲になっています。

 

アルバムラスト11曲目は、TOP OF THE WORLD(トップ・オブ・ザ・ワールド)。

 

軽快なエレキのミュート音で始まる明るくキャッチーな楽曲です。
このイントロおよび、サビ裏のギターリフは、名曲ジャンプのアウトロのリフを流用したものとなっています。

 

これはサミー効果絶大な爽快なアメリカンロックになっています。
ヴォーカル&コーラスが、爽やかさを見事に演出してますね。
エディのギターソロももちろんですが、途中でちょいちょい挟まるオブリも、完全なヴァン・ヘイレンサウンドで、納得のアルバムエンディングになっています。

 

この曲はシングルチャートで第27位、Mainstream Rockチャートで4週間(連続ではない)No.1を獲得しています。

まとめとおすすめポイント

1991年リリースのVAN HALEN(ヴァン・ヘイレン)の9thスタジオアルバム、FOR UNLAWFUL CARNAL KNOWLEDGE(邦題:F@U#C%K)はビルボード誌アルバムチャート初登場No.13週連続No.1にとどまりました。
そしてアメリカでは300万枚のセールスを記録しています。

 

これで、サミー・ヘイガー加入後、3作連続で全米No.1アルバムを世に送り出したことになります。
彼の加入によって、より一層人気を確立していったのは間違いないでしょう。(デイヴ派は認めたくないでしょうけど。)

 

しかし、今回の作品は前の2作とは大きく異なった内容になっています。
あの名盤 1984 以来エディが手にしたシンセという武器を十分に生かしてヒット曲を生み出したのが5150OU812の2作と言えるでしょう。
それはそれで、多くの名曲を生み出し、成功に寄与したと思っています。

 

しかし、今回はRIGHT NOW(ライト・ナウ)のピアノ以外は、ほぼ鍵盤を封印しています。
シンセによる、美しいアレンジが取っ払われた結果生まれてきたのは、初期のヴァン・ヘイレンで見られていたバンドのドライヴ感やグルーヴ感でした。
これはなかなか痺れましたね。
アレックスのドラムが激しいのは相変わらずでしたが、マイケルのベースもしっかりと前に出て、ごりごりとグルーヴを生み出しています。
そんなリズム隊によりバンドの一体感が久々に強く感じられる快心の作品だと僕は思いました。

 

そしてとりわけ、シンセがなくなった分、1番大きな影響を受けたのはエディのギタープレイではないでしょうか。
シンセがない分、彼のギタープレイが曲を彩っています。
まさに初期のヴァン・ヘイレンのようにギター・オリエンティッドなアルバムになっているのです。
こここそ、今作の要となる部分ではないかと僕は思っています。
やはりハードロックは、ギタープレイが中心であり、それをリズム隊が支えてこそバンドの一体感が生まれると思います。
熱いサミーのヴォーカルも良いですが、やはりヴァン・ヘイレンの顔はエディで間違いないでしょう。

 

まさにこのアルバムが出た年1991年は多くのグランジ系のバンドが台頭してきた年でもあります。
これまで同様のアプローチを続けた多くのグラムメタル、ヘアメタル、LAメタルといったバンドが駆逐されようとし始めたタイミングです。
僕の仮説ですが、もし、ヴァン・ヘイレンがこの作品でも前作のようなシンセ多用の作品を作っていたら、早々にグランジ人気によって潰されてしまっていたかもしれません。
その点でも、原点に近いアプローチで、そしてヘヴィでグルーヴ感あふれる作品を作って大正解だったと思えます。

 

1992年のグラミー賞で、このアルバムはBest Hard Rock Performance(最優秀ハード・ロック・パフォーマンス賞)を受賞しています。
グランジ台頭の中で、ヴァン・ヘイレン健在をロック界に見せ付けることに成功しました。

 

この作品は、シンセによる名曲(過去のDREAMSなどのような)はありませんが、ヘヴィなハードロックによるアルバムの統一感バンドの一体感が感じられるアルバムだと思います。
希代のギタリスト、エドワード・ヴァン・ヘイレンのギターテクを隅々まで味わえる名盤の一つであることは間違いないでしょう。

チャート、セールス資料

1991年リリース

アーティスト:VAN HALEN(ヴァン・ヘイレン)

9thアルバム、FOR UNLAWFUL CARNAL KNOWLEDGE(邦題:F@U#C%K)

ビルボード誌アルバムチャートNo.1 アメリカで300万枚のセールス

※注※ シングルカット順は確定できませんでしたが、恐らくこの順ではないかと推測されます。

1stシングル POUNDCAKE(パウンドケーキ) ビルボード誌Mainstream RockチャートNo.1

シングル RUNAROUND(ランアラウンド) Mainstream RockチャートNo.1

シングル TOP OF THE WORLD(トップ・オブ・ザ・ワールド) シングルチャート第27位、Mainstream RockチャートNo.1

シングル THE DREAM IS OVER(ザ・ドリーム・イズ・オーヴァー) Mainstream Rockチャート第7位

シングル RIGHT NOW(ライト・ナウ) シングルチャート第55位、Mainstream Rockチャート第2位

シングル MAN ON A MISSION(マン・オン・ア・ミッション) Mainstream Rockチャート第21位