トロのエンジョイ! チャレンジライフ

「うまくいけば面白い。うまくいかなければもっと面白い」岡本太郎

連載小説「あなたの騎士(ナイト)になりたい」第12回

2018-06-19 19:04:23 | 小説・あなたの騎士(ナイト)になりたい
 やがて、約束の土曜日が来た。
 3年ぶりに会う芽衣は、だいぶ印象が変わっていた。
 長かった髪はショートになっていたし、以前、好んではいていた脚を見せつけるようなスカートではなく、グレーのタイトスカートに白のブラウスという、シンプルな服装だった。
 僕は、いつも会社へ着ていくものよりは、ちょっといい背広を着ていった。元カノとはいえビジネスで会うのだから、それが当然と思ったのだ。
「なんか固いわねえ。もっとラフな格好のほうが、あなたらしいのに」
「そんなことはいいから、本題に入ろう」
 芽衣は口を尖らせて、
「はいはい、つまんないの。久しぶりのデートなのに」
「何が訊きたいんだい?」
「まあその前に、なにか注文しましょうよ。ここのお薦めはね……」
 手短に済ませたかったが、まあ、食事くらいはいいだろう。

「美鈴ちゃんとラルフは、どうしてチェスをやめちゃったのかしら」
 芽衣は世間話のような口調で言った。
「お前が知りたいのはそこだろうと、うすうす察してはいたけどね。残念ながら僕も知らないんだよ」
「そっか……他の雑誌社が取材を申し込んだけど、断られたっていう話だもんね」
「個人的に親しい僕からなら、なんとかなると思ったんだろうけど、あいにくだったな」
「なんとか聞き出せないかしら」
「まあ並大抵のことじゃないだろうな。あの2人の頭脳では、普通の人間が馬鹿に見えるのかもしれない」
 芽衣はミネラルウォーターを一口含んだ。
「あの2人、いま、一緒に暮らしてるの?」
「そうだよ」
「どこに住んでるの?」
「聞いてどうするんだよ」
「取材に行くわ」
「やめてくれないか、できれば」
「どうして?」
「あの2人は、どちらもあまり幸せな生い立ちとはいえない。チェスのためにあらゆるものを犠牲にしてきたんだから当然かもしれないが、そんな2人がようやく掴んだ幸せなんだ。そこへ土足で踏み込むようなことはしないでもらいたいんだ」
「……」
 芽衣は黙り込んでしまった。
「でも、まあ……」
 僕は言った。
「興味本位ではなく、ちゃんと人間どうしの礼儀をわきまえたうえで、話を聴きたいというなら、僕も協力しないこともない」
「取材ということは抜きで、ってこと?」
「そうだな」
「うーん……」
「出来ないのならあきらめるんだな」
 芽衣は考え込んでいたが、
「わかった」
「……うん?」
「あたし、2人に会いたい。仕事じゃなくて、個人的に」
 芽衣にしては珍しく、殊勝な態度を見せた。
 大人になった、ということか。

 芽衣と会ったその日の夜、僕は美鈴に電話をした。
「いいよー、受けるよ、取材」
 美鈴の答は、意外なほどあっけらかんとしていた。
「いいのかい。マスコミ嫌いかと思っていたけど」
「井上さんのお友達なら、信用できるよ」
 美鈴の性格からは、かつての跳ねっ返りの部分がなくなって、少々天然の入った気さくな少女になっていた。
 ろくすっぽ敬語が使えないのが、玉にキズだが。
「ところで、どうだい? 田舎暮らしは」
「うん、快適だよ。ちょっと退屈だけど」
「木下名人はどうしているんだい」
「ラルフがたびたび連絡とってるけど、ダメね。最近は、会いたくないなら会いたくないで、もういいやって」
「そうか」
 僕は苦笑した。
「じゃあ、取材オーケーってことで、伝えるよ」
「うん」

 僕は芽衣に連絡をとった。
「よかった。さすがマサヒロ」
「僕とお前の2人だけで訪問しよう」
「マサヒロがいれば、スムーズに話が進むわね」
「他の報道関係者には、内密に頼むぞ」
「わかってるって」

 そして、次の土曜日、僕と芽衣は新幹線に乗り込み、美鈴とラルフが住む山間の村へと向かった。
 無人駅に降り立ち、徒歩で2人の家に向かう。
「へえ、なんにもないところねー」
 芽衣が言った。都会育ちの彼女は確かに、少々場違いではあった。
 季節は晩秋で、やや肌寒い。空気が澄んでいるだけに、けっこう寒さが身に響くが、慣れれば心地よいかもしれない。少なくとも、都会のビルの谷間を吹き抜ける風の冷たさに比べれば、数段マシだろう。
 雪は降るのだろうか、と、豪雪地帯で生まれた僕は考えていた。
「ああ、あの家だ」
 梓にもらった地図を頼りに、僕らは2人の家にたどり着いた。


(つづく)



 
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12 コメント

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ぐっどもーにんぐーーーーーー‼(^-^)v (宮ちゃん イン 名古屋)
2018-06-20 05:53:14
あらま、豪雪地で生まれたーーーーー‼!🎵
ちょっと、笑ってしまいました❗(^ω^)
トロさんに失礼!‼m(._.)m
実は、宮ちゃん、小説って読んだこと
ないんですーーーーーー‼!🎵
だから、今回が、小説デビュー?⁉
あは!🎵(^ω^)
良い機会を頂き、感謝~~🎵
気になる 気になる (fumin)
2018-06-20 05:56:33
トロさん
お邪魔します。昨日はご訪問ありがとうございました。拙ブログでは初男性登場で多少緊張感が漂うかもです(笑)
次は最終話となるのですね。。少し残念ですが、新たな世界へ案内していただけることを願っています。
ぐっどもーにんぐー! (トロ)
2018-06-20 06:05:06
あはは、お互い豪雪地帯の生まれですねー(笑)
先シーズンはすごい大雪でしたが…
名古屋は地震に加えて大雨のようですね。
気をつけてお帰りくださいませ。
今日もありがとうございます♪
おはようございます。 (トロ)
2018-06-20 06:10:10
fuminさん。
拙作をお読みいただき、ありがとうございます♪
え? 次回は最終回ではありませんよ。
もうちょっと続きます。
15回で完結の予定です。よろしくですー。
電車乗り間違えるのも確認不足で (fumin)
2018-06-20 06:33:47
皆さん おはようございます。
宮ちゃん お早いですね。

トロさん
勝手に最終回を変えてしまい失礼しました。
これは生まれつきなのか、来た電車に飛び乗って、出発してから慌てるというなんともそそっかしい苦い経験が豊富にあります。
これからのお話し、楽しみです。
fuminさんへ (トロ)
2018-06-20 07:13:36
僕も相当そそっかしいので、お気になさらずに。
あと3回ありますので、どうかお楽しみに♪
ありがとうございました。
おはよう♪ (くるん)
2018-06-20 08:10:42
トロさんの小説を毎日楽しく読んでいます♪
私も小説はそんなに読み慣れていないので、せつめいの登場人物の紹介が分かりやすくて助かりました!笑
ついこの前小説が始まったと思っていたのに、連載は残り後3回なんですね。
楽しい時間はあっという間です。
最近、ますます主人公の井上さんがトロさんのイメージと被って、小説の中の登場人物は作者さんの分身だったり、
創作して生み出す作業はお産の様な、小説も子どもみたいな存在かな?って感じました。
今後の展開も楽しみです♪

あ、いつの間にかトロさんのブログ名が小説修行に変わってましたねー!
おはよう♪ (トロ)
2018-06-20 08:31:55
くるんさん
楽しんでいただけているようで、とても嬉しいです。
この小説は、長さからいうと、長めの短編、といったところです。
伸ばそうと思えば伸ばせるかもしれませんが、
これ以上書いてもだらだらするだけだと判断し、
思い切って終わらせることにしたんです。
あと3回、どうかお付き合いくださいね。

小説を書くことはお産のようなもの…僕もそんな気がします。
実は次回作の構想がすでにあるんですが、まだしばらく時間がかかりそうです。

ブログタイトル、変えました(笑)
今後ともよろしくお願いしますー!
皆さん、こんにちは! (さくら小町)
2018-06-20 12:01:06
トロくん♪
ふうちゃんの所で、こまっちゃんと呼んでもらって嬉しかったです(^-^)

今日はヨガでしたが、今からPCのアップデートをするのでブログ更新は夜か明日かな?
PCのことはあまり詳しくないのでちゃんと出来るか不安です(^-^;
慎重にね (fumin)
2018-06-20 12:23:22
こんにちは。こまっちゃん
PC触るの 慌てたらだめですよー。

慎重に 落ち着いて 一息ついて!
ごめんね うるさいねー。

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