②世界の認知症ケアやさまざまな取り組み
前回と今回、2回にわたって世界の他の国ではどんな認知症ケアや取り組みが行われているか勉強したいと思います。
前回はオランダ「認知症村ホフヴェイ」スウェーデン「オムソーリケア」を勉強しました。
私達日本の介護事情と少し違いもあり、その国特有の取り組みや、手法やアイデア驚くべき点がいっぱいありましたね^^
第2回目の今回は
どんなケア法なのか勉強していきたいと思います。
まずは・・・
アメリカ発「バリデーション療法」です。
バリデーションは、1963年にアメリカのソーシャルワーカーであるナオミ・フェイル氏が考案して生まれた、認知症の方とのコミュニケーション技法です。
介護におけるバリデーションとは「認める」「共感する」「力づける」という意味に用いられるそうです。
基本概念は「共感」と「傾聴」だといいます。
主にアルツハイマー型認知症及び類似の認知症の方に用いられる技法で、
認知症の人が大声で騒いだり、徘徊したりするのにも意味があるとし、なぜそのような行動をとるのかに立ち返ります。
そうすることで問題行動などがおさまってくるという考え方です。
バリデーションの5つのテクニックとは
①アイコンタクト(真正面に座って目を見つめる)
認知症の人の真正面に座り膝が付く距離に近づいて、同じ目の高さで見つめる。「私はあなたをうけとめますよ」というメッセージを送ることにつながる。
②リフレージング(相手の言葉を反復する)
認知症の人が話した中で、重要と思われる言葉を感情も反映させながら繰り返す。例えば、「私の家は貧しい家だった」と言われたら、「貧しい家だったのですね」と反復する。
③ミラーリング(鏡になる)
真正面に向き合って、相手と同じ動作、表情、姿勢をし、感情を分かち合う。ただし初期の認知症の人は馬鹿にされていると感じる恐れがあるためミラーリングは避ける。
④カリブレーション(共感する)
認知症の人の感情を観察し、自分の表情、姿勢、呼吸を一致させていく。
同情したり、気晴らしをいったり、元気づけ安心させようとすることと勘違いしない様に注意。
⑤タッチング(触れる)
話ながら認知症の人に触れる。肩を包み込むようにし、上腕部へ撫でおろす「友のタッチング」は共感を示すときに効果的。
相手が母親の話をしたときには「母のタッチング」を、父親の場合は「父のタッチング」、子の場合は「子のタッチング」を試みる。
「友のタッチング」・・・腕を包み込むようにし、上腕部へなでおろす。
「母のタッチング」・・・手のひらで頬をなでるのを繰り返す
「父のタッチング」・・・頭頂部から後頭部を丁寧になでおろす
「子のタッチング」・・・首の後ろを指先でなでる
※絵心なくてすみません
バリデーションの基本的態度
●傾聴する
五感を使って、相手の言葉の奥にある感情に耳を傾ける。相づちを打つだけではNG。例えば「部屋に誰かいる」といったら「どんな人ですか?」「どこにいますか?」と見えない世界を教えてもらう。
●うそをつかない、ごまかさない
介護現場では「帰りたい」という人に「お茶でも飲みましょう」などとごまかして認知症の人の感情にふたをしてしまいがち。それでは信頼関係を築けない。
●共感する
認知症の人の感情を観察し、介護者が、気持ち、表情、呼吸、のペースを一致させていくこと。表面的に話を合わせるのは共感ではなくごまかし。
●評価しない(受容する)
認知症の人の行動には必ず理由がある。カリブレーションやミラーリングを通して、認知症の人の感情のまま受容する。
●誘導しない(ペースを合わせる)
介護者は、認知症の人が食べたくないのに時間内に無理に食べさせたりしがち。認知症の人に呼吸とペースを合わせる。
(引用:日経ヘルス)
「バリデーションワーカー」という専門的な資格もあります。
この資格は一年にも及ぶ専門的な勉強をして取得できる資格です。
(「公認日本バリデーション協会」によって実施されています)
私はこのバリデーションの技法について、読んでびっくり仰天驚きました!
(昭和感ある驚きの表現ですみませんw)
以前のブログ「第10回 認知症の問題行動対処法 ちょっとしたコツ。」で
認知症高齢者が「家に帰りたい」といったら
もう遅いから明日帰りましょうとか、お茶でも飲んでから帰りましょうなど
一旦気を逸らすと問題行動につながらない場合もあるってご紹介しちゃってますけど!
と慌てました。
こんな具合に
まずは気持ちに共感してみる「それは行かなければならないわね~」など気持ちに寄り添う。
「では帰る前にお茶でも飲みませんか」「何か食べたい物はないですか?見たいテレビは?」
などと気を逸らし徘徊が止まる場合も。
それでもダメな場合無理に連れ帰ろうとしたり、「帰れない」と言うのは不安を煽り逆効果、一度歩きたいだけ歩かせる。
但し会話をしながら。何が目的の徘徊か、どこにいこうとしているか、など聞きながら「遠いみたいですね、明日にしませんか?」「少し休みませんか?」「夕食を食べませんか?」など誘導する。(「第10回 認知症の問題行動対処法 ちょっとしたコツ。」より抜粋)
おいおい三宮。
誘導とか気を逸らすとかバリデーション的にはNGワードがバンバン出てます。
これは困ったな三宮、ということで色々調べてみると、関西福祉科学大学教授 都村尚子さんがこんなことを書かれていました。
バリデーションが知られる以前には、認知症高齢者の「家に帰りたい」「そこに誰かがいる」といった訴えに対して、うそをついてごまかしたり、気をそらせることが「よい方法」とされていました。しかし、その方法によって、認知症の人の徘徊や妄想といった症状が軽減されることはほとんどありませんでした。何よりも「うそをつく」「ごまかす」ことの一番のデメリットは、認知症高齢者の尊厳が損なわれることです。また、そのような対応の仕方では、介護者も自分の仕事や役割の尊さを感じることができなくなります。
(引用:バリデーションを行なうときの基本的態度 都村尚子(関西福祉科学大学教授)
ということらしいのです。
情報が古かったのか!!!(全部が全部ではないです、共感するって部分はあっておりましたが・・・)
このブログに貴重なお時間を割いて読んでいただいているみなさま、大変申し訳ございませんでした。
バリデーションでは認知症高齢者の「家に帰りたい!」にはこのように対応するといいます。ご参考までに次の例をご覧ください。
「家に帰る」という母
長女家族は、認知症と診断された母親(85)と同居しています。お母さんは夕方になると「家へ帰る」と訴えて、家族を困らせています。「家へ帰る」と訴えるお母さんに、長女は「ここが家でしょう。みんなに迷惑をかけているのよ。いい加減にしてちょうだい!」と答える日々が続いたことで、二人の関係は悪くなり、お母さんの訴えはますます強くなっていきました。
長女:お母さん、どうしたの? 帽子なんか被(かぶ)って。
母 :家へ帰るの。
長女:家に帰りたいのね(リフレージング)。その家はどこにあるの?(オープンクエスチョン)
母 :ここから列車で、何時間もかかるところ。山の奥のほう。
長女:そんな遠くにあるのね。その家では誰かがお母さんを待っているの?(オープンクエスチョン)
母 :子どもたちやお父さんが、私を待っている。
長女:子どもたちやお父さん……(リフレージング)。みんなに何をしてあげなきゃいけないの?(オープンクエスチョン)
母 :子どもたちはみんな小さいから、ご飯を作ってやらないといけない。お腹をすかせて待っているから。
長女:そうなのね。お母さんは私たちのために、毎日、ご飯を作って、掃除や洗濯に、お父さんの仕事の手伝い。何もかも一人でこなしてきてくれたのね。本当に働き者のお母さんでしたね。本当にありがとう。
母 :(涙を浮かべて)ありがとう……。
⦅引用:症状に応じたテクニック(2) 都村尚子(関西福祉科学大学教授)⦆
※オープンクエスチョンとは
「いつ」「どのように」「どこで」「誰が」「何を」といった相手の話が広がっていくような質問のこと。反対に「はい」か「いいえ」で答えられる質問はオープンクエスチョンではない。
「なぜ」を使うときは「なぜ、そんなことをしたの?」というように、非難的にならないように。
ふーむ。なるほど~な感じではありますが、果たして実際はうまくいくのでしょうか。
全体的にバリデーションはちょっと難しい!って印象でした。
私だけでしょうか、、、
例えば、自宅で介護をしていて、家事や子育てをしながらバリデーション試せるのでしょうか。
私だったら無理!と思ってしまいました。
(もちろんしっかり出来ますってかたもいらっしゃると思います)
認知症の方ももちろん人格を大切にされるべきだし、尊厳を保てるようにしなければならないと思います。
でも、介護者だって同じでしょう。
家事や育児に追われながら介護にあたってる方がバリデーション取り入れる余裕がどこにあるんだろう。。。と真剣に思ってしまいます。
(完全な三宮個人の意見ですのでもちろん私と同じ意見の方ばかりではないでしょうけれども)
全部取り入れるのはそれこそ専門的に勉強をして「バリデーションワーカー」にでもならなければ難しいと思いますが、一部でもこれ使えそうかな?試してみようかな?と思われるものを取り入れてみるのもいいのかもしれませんね。
最後はフランス発「ユマニチュード」Humanitudeを勉強します。
元体育教師のイブ・ジネストとロゼット・マレスコッティという2人のフランス人が考案した手法です。
ケアされる方に「あなたは大切な存在である」ことを伝える技術だといいます。
ユマニチュードの手法でケアされると、とても穏やかな表情になるらしく
「魔法」と評されることもあるようですよ。
そして、ユマニチュードは誰にでも実践可能な手法といいます。
ではその魔法の手法を見ていきましょう^^
「あなたを大切におもっている」という気持ちは介護する側からすれば、
その気持ちを持っているからこそ介護している訳ですが、それを受ける介護される側に
「伝わるかどうか」がポイントだと言います。
介護される側に「あなたを大切に思っている」という気持ちが、しっかりと伝わるようになる
”テクニック”がユマニチュードには詰まっているのです。
「あなたを大切におもっている」「愛している」と相手に伝えることが出来れば、
ケアされる側は「自分は必要とされている」と感じられ、それによって生きる気力を取り戻すのだといいます。
寝たきりだった方が、ユマニチュードの技術でケアされると、気力を取り戻し、立ち上がったり、食欲が出たり、自分のことを自分でやろうとしたりするというのは珍しい話ではないというのです。
ユマニチュードは、基本的な4つの要素と150の技法で構成されています。
ユマニチュード基本要素は
「見る」「話す」「触れる」「立つ」です。
一見すると普通の行為のように思えますが、ちょっとしたコツでユマニチュードの技術を取り入れることが出来ます。
◇見る
「見る」という行為は言葉によらない、メッセージを伝える行為であるといいます。
私たち人間は他人と目が合った時、直感的に「好意的」か「攻撃的」かなどや、「嫌悪感」などを読み取ることが出来ますよね。
見るという行為に隠されたメッセージは「方向」「高さ」「距離」「時間」などによって「好意的」か「攻撃的」かなど相手に与える印象が決まるというのです。
では、相手に安心感を与える、好意的な「見る」はどのようにすると良いのでしょうか。
<好意的な「見る」>
①水平か、相手よりやや下に目線を合わせ、正面から顔を近づける。
(「優しさ」や「正直であること」を表現することができます)
②見つめる時間を長くする
(「親密さ」や「愛情」を持ったポジティブなメッセージを伝えることになります)
③目線を利用者と同じ高さにし、近い距離(20センチほど)で、親しみを込めながら見つめます。
この3ステップで「あなたを大切におもっている」という気持ちを「見る」という行為で表すことが出来ます。
また、介護される方がどのような状況にあるかによってアプローチの方法が変わります。
ベッドに寝ている人に近づく…寝ている方の顔の向きを確認し、目線の遠くから視界に入るようにします。部屋の入口と逆方向を向いている場合は、入り口から遠い壁まで一旦移動してから目線を捉え、それから近づきます。
座っている人に近づく…立ったまま、座っている人の上方から声をかけても、座っている人の視線には入りません。正面から、目線を同じ高さにして近づきます。座っている目線が下に向いている場合は、さらに下から、覗き込むように見る必要があります。
立っている人、歩いている人に近づく…後方や斜め後ろから近づいて声をかけては、相手に気づかれなかったり、逆にとても驚かせてしまいます。一度3メートルほど追い越してから向きを変え、正面からゆっくり近づき、近くまできたら目線の高さを相手に合わせるようにします。
◇話す
認知症の方の中には話しかけても返事が出来なかったり、反応がなかったりする方がいますが、それでも「こんにちは、○○さん」と声をかけること話しかけることはとても重要だと言います。こんにちはという言葉の意味や内容以外にも「ここにいますよ」「あなたに気付いていますよ」という言葉によらないメッセージをを相手に伝えるためだといいます。
その際、なるべくポジティブな言葉を選びゆっくり話しかけるようにしてください。
また「オートフィードバック」という手法はとても有効だと言います。
「オートフィードバック」とは、今行っている介護の行為を、そのまま言葉にして実況するという方法です。
「蒸しタオルを持ってきました」
「部屋が少し暑いので、汗をかいたでしょう。さっぱりしませんか?」
「右腕を上げますね」
「右腕がとてもよく上がりましたね」
「温かいタオルで右の手のひらを拭いています」
「気持ちいいですか」
とこのように、介護される側は介護されながら「自分の存在」を意識することが出来るのです。
わたしは大切にされているのだと。
◇触れる
お体を拭きますね。と声をかけても手首をつかんで持ちあげた場合、認知症のかたにはとっさに自分が何をされるのか理解が難し場合がある為、恐怖感をあたえてしまうことがあります。
この場合、「つかむ」という触れ方を変えることで、そのような思っていもないネガティブなメッセージを相手に与えずに済むと言います。
腕を持ち上げたいときには、手首をつかむのではなく、介護する方の両手のひらで、腕を下から支えるように持ち上げます。
体に触れるときは、手のひらを使って包み込むように触れましょう。このとき、優しく声をかけながら丁寧に触れることが大切です。
◇立つ
1日20分立てるようになることを目標とします。
血液循環が改善され、肺の容量が増えるといいます。
筋肉や骨に負荷がかかることで、骨粗鬆症の改善や筋力のアップにつながります。
それにより身体機能を保つ効果や立体的に空間を把握することで「空間の中の自分」意識することができ、自分の足で立つことにより、人の尊厳を自覚するという効果も期待できます。
また「歩く」という目標もできます。
立位補助というのは確実な技術が必要になります、ご家庭でされたい場合などは専門家のアドバイスをもらうようにしてください。
安全に行える環境かなどのチェックも必要です。
ユマニチュードの「見る」「話す」「触れる」「立つ」4つの基本要素を見てきましたが、
いかがでしょうか、誰にでも取り入れられるという意味が少しわかったような気がしますよね。
また、この4つの要素を同時に行うようにするのも大切だと言います。
見ながら話ながら触れながらというように。
(出典:介護ポストセブンhttps://kaigo.news-postseven.com/3068/2)
また、具体的な技法が150もあるというユマニチュードですが、その一部はこのような感じです。
<ユマニチュードのテクニック(技法)>
1.病室に入るときは、ノックをして相手も反応があるまで入らない。
2.ケアを目的の最優先にせず、話をしに来たという姿勢で接する。
3.ベッドと壁に隙間を作り、壁側を見ている人とも視線を合わせられるように工夫する。
4.ケアをする時には、一人は体を拭くなどのケアを担当し、もう一人は、視線を合わせて
会話をする。
5.食事の介助をする時は、真正面に立ち、前向きな言葉で話しかけながら行う。
6.ケアを嫌がる場合は、無理強いしない。
7.認知症の人は、真横で話しかけても認識しないので、椅子に座っている時は、
椅子をノックし正面から話しかける。
8.ケアが終わった時には「また来ますね。」と声をかける。
(引用:認知症ケア「ユマニチュード」の情報公開!)
いかがでしたか?
ユマニチュードは介護知識のない人たちでもすぐに実践できるという手軽さを持ちながら、大きな効果が期待できる手法だといいますので、お試しになってみる価値はあるかもしれませんね。
2回に渡って勉強してみた海外の認知症への取り組みやケア法でした。
私は「オムソーリケア」と「ユマニチュード」にとても共感しました。
まずはオムソーリケアで高齢者の見守りを徹底し、認知症になったとしても重症化を防ぎ、地域で高齢者の自立支援をする。
それでも認知症が進行してしまう場合にはユマニチュードの手法で人にしかできないぬくもり溢れるケアをしていけるように出来たらいいな~と思いました。
今回も最後までお付き合いくださりありがとうございました。