サラリーマン急ぎメシ⑥ 神田司町「八ツ手屋」で天丼を食う  | 八ヶ岳ゆるふわ日記

八ヶ岳ゆるふわ日記

八ヶ岳南麓大泉と東京を行ったり来たりの毎日。日々のよしなしごとを綴ります。

 サラリーマンとしての昼メシもあと60食、かねて懸案となっていた神田司町の天婦羅屋「八ツ手屋」まで遠征した(経緯は→ ここ)。

 
 神田司町は、
 北側 神田須田町、神田小川町
 東側 神田多町、神田鍛冶町
 南側 内神田
 西側 神田美土代町
に囲まれた、オフィスと商店、住宅が混在している小さな街だ。おそらく200メートル四方あるかないかだろう。ここに433名の方が暮らしている(住民基本台帳2017年1月現在)。
 だいたい千代田区は最も小さい区(11.66平方キロ)のうえに、皇居およびその外苑が20%を占めているという狭隘な地区なのである。
 琵琶湖がドカンとあってその周りに陸地がかろうじてへばりついているようにみえる(失礼)滋賀県ですら琵琶湖占有面積は17%に過ぎないから、千代田区は小さく、皇居は意外に大きいのだ。
 

(知名度のわりに小さなアース製薬本社(植込みの右) 親会社筋の大塚製薬本社も司町にある)

 

(古びた路地 皇居からわずか500メートルとは思えない)

 

(今では杉並でも見かけないようなタバコ屋)

 

 神田司町には、世間にあまり知られていない秘密がある。

 それは、「司町には『神田司町2丁目』はあるが『1丁目』はない」という事実である。

 「神田司町1丁目」は1966年に内神田に吸収され消滅した。もともと江戸期から1935年までは佐柄木(さえき)町、新銀(しんしろがね)町、雉子(きじ)町などに分かれていたものがおカミの命令で「司町」にまとまっただけだから、

「ちっち(手鼻をかむ音)、なにが『司町』でぇ、『内神田』の方がまだ上等じゃねえか」ということで町ぐるみ編入した、ということだと思われる。

 だったら残った方の地名は「神田司町」にすればいいと思うのだが、町名変更には手間もカネもかかるのでこのままでいいでしょ、ということなのだろう。

 こんないい加減な地名は全国でもここだけかと思ったら、お隣の神田多町も同様に1丁目が内神田に逐電して現在「神田多町2丁目」しかない。

 

 神田地区は歴史的に小さな町が多いうえに、かつて東京市神田区だったのが麹町区との統合で千代田区となった際の経緯もあり、合理的とはいえない地名が多いようだ。

 岩本町と鍛冶町がすごい。

 岩本町は、「岩本町1丁目、同2丁目、同3丁目」、「神田岩本町」という変則構成。

 鍛冶町に至っては、「鍛冶町1丁目、同2丁目」、「神田鍛冶町3丁目」となっている。1丁目2丁目連合が「神田」の冠を外したのか、3丁目が独自に「神田」をくっつけたのか、調査のうえ改めて紹介したい。

 

 多くの場合「神田〇〇町」というように頭に「神田」がくっついているのだが、三崎町、猿楽町には何故かついていない。この2町は長年の住民運動の結果、晴れて2018年から神田三崎町、神田猿楽町と改称されることになっている。

 外野からみると、「神田」がない方がすっきりしているように思えるが、住民の皆さんは「ほかの町には神田がついているのに」、というさびしい気持ちになるのだろう。 
 それぞれに八王子と渋谷に同じ町名があるのも何かと紛らわしいという事情もあるのかもしれない。

 麹町あたりでタクシーを捕まえ、「三崎町」と言ってひと眠り、気がついたら競馬場とビール工場、中央高速まっしぐら、とかだ。

 

 ・・・またしてもマクラがすっかり長くなった。

 都営新宿線小川町駅からとことこ5分も行くと、創業大正3年、今年で104年目の「八ツ手屋」である。

 

(いかにも古い)

 

 店内も外と変わらぬ古さである。10坪に満たない客席スペースにはテーブル席が6つと小上がりが1。 
 全体にゴマ油が浸み込んだたたずまいで、床も老舗にありがちなコンクリート土間であるが、油分で靴が少々くっつく感じ。テーブルも少しべたつく。

 

 

(お客さんが多かったので、台所方面への出入り口のみ撮影

 屋号も桔梗紋も気になるところだ)

 

 品書きに「天丼 上 1050円」、「天丼 中 750円」とある。

 この、「上」と「中」というパターンは、私の食い意地人生で初めて見た。普通は二種類なら、

「上天丼」、「天丼」、三種類なら、

「特上天丼」、「上天丼」、「天丼」、量の違いであれば、 

「大(盛り)」、「中(盛り)」、「並(盛り)」であろう。出前重視の店だと、来客にグレードが分からないよう

配慮していて、

「特上天丼」、「上天丼」とか、「天丼松」、「天丼雪」とかいうような組み合わせもある。

 おそらく長い歴史の中で何かの事情でこうなったのであろう。興味はつきない。

 

 前金で1050円払って待つこと5分、「天丼上」がやってきた。

 天婦羅  エビ×2、イカかき揚げ、インゲン

 お椀    三つ葉とそうめんの吸い物

 お新香

 

 

 味は好き好きだが、タレはやや甘め。天婦羅は旨いがシャリは不味い。吸い物は一応つけました、という程度のシロモノ。

 七味が欲しいところだが、そのような猥雑なイロモノは一切置いてありません。

 

 ・・・と言うと大した味ではないように思われるかもしれないが、「てんや」の500円天丼とは比較にならない位旨いし、2000円もとるような天丼よりも間違いなくリーズナブルだ。

 

 おそらくこれがサラリーマンとして食う最後の天丼となるだろう。

 八ツ手屋の天丼上、フィナーレを飾るにふさわしい一品であった。