老父ピンピンコロリで大往生 警察の捜査受ける | 八ヶ岳ゆるふわ日記

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八ヶ岳南麓大泉と東京を行ったり来たりの毎日。日々のよしなしごとを綴ります。

 

 

 2月2日05:45、老父が死んだ。享年90。

 昨日まで元気でガツガツ食っていたのが、ピンピンコロリ、にわかに死んだのである。

 

 実家が酒屋の老父は尋常小学校の頃から店先の酒を盗み飲みして味を覚え、以来80何年酒がんがん、タバコはいつから吸ったのか知らないが私が子供の頃には缶ピース、その後昨日まではメビウスライトをすぱすぱやっていた。

 運動は全くしない。散歩すらしない。終日テレビを見ている。そのうえ生来の医者嫌いで医者に行ったことは一度もない、という老人であるからよくまあピンピンコロリを迎えたものである。よほどDNAがしっかりしていたのであろう。

 
 朝4時半頃実家に向かうと、ちょうど救急車が来た。
 ベッドに横たわる親父にまずは心臓マッサージ、その後病院に搬送することになった。
 隊長らしき方が、近くの病院(荻窪病院が受け入れ可、とのことであった)にするか、緊急医療の設備が整った遠くの病院にするか私に訊ねた。
 どう見ても親父は死んでいるので、私は逡巡することもなく近所の病院をお願いした。隊長もおそらくは
同じ思いだろうがあとから遺族がワーワー言うケースも多いのだろう、あくまで家族の意志を尊重するのである。ほんとに大変な商売だ。
 
 05:45、病院で死亡確認。
 医師によると入院から24時間を経過していない場合は死亡診断書を書けないそうだ。変死、ということで警察が捜査することになる、所轄の警察官が遺体を引き取りにこっちに向かってるのでここで待機せよ、とのこと。
 その間に病院の支払いを済ませたが、事務のおにいさんが「診察カード」をくれたのには笑った。おにいさんも、「まあその、規則なんで、」という感じでバツが悪そうである。
 
 06:00、所轄の警察官2名、私、親父の遺体は仲良く警察の車両で自宅に向かった。実況検分のためである。その後で遺体を署に運ぶという。
 道中なんだかんだ話をしていると、最近杉並では自宅での死亡例が増えていて、ほぼ毎日のように捜査があるらしい。高齢化はこういう見えない所でも公共サービスを消耗させているのだ。
 
 検屍が済んだ遺体は私が持って帰るのか、と訊ねると普通は葬儀屋が棺を持ってくる、とくにあてがないなら署に出入りしている葬儀屋をいくつか紹介してあげる、というのでお願いした。警察も万事手慣れたもので、こういうケースがいかに多いか想像に難くない。
 
 実況検分は1時間ほど、金庫の中が荒らされていないか、など事件の可能性を調べていた。
 老母が金庫の鍵を開けていると、年かさの警察官が
「うふふ、息子さんが見てるけどね、まあいいね」とこっちをチラチラ見る。
 あ、こいつオレを疑っている、と思ったら血圧が200位に上昇した。
 万が一殺人犯になったりしたら遺産相続権を喪失するのはともかく、会社はここぞとばかり私を懲戒解雇処分として、退職金支払いをバックレるに違いない。
 「あと2か月だったのにね~惜しい!」なぞとほざく人事部のあいつの顔、こいつの顔が目に浮かぶ。
 人事部、経理部の連中は日頃からなんとなく社員を(私を、か)犯罪者予備軍として見ているからね。油断は禁物である。
 
 かかりつけの医者はない、常用の薬もない、入院歴もない、区の健康診断も受診したことは一度もない、というので警察官も「ふ~ん、丈夫だったんだねえ」と呆れ顔だ。
 
 実況検分も終わり、私の容疑も一応は晴れたようだ。
 巡回検屍官を署に呼ぶので遺体が返せるのはおそらく午後になる、というので連絡を待つことにした。
 待っている間に葬儀屋からも連絡があった(いくつか紹介する、という部分はカットされた模様)。署に行くときにクルマで迎えに来てくれる、という。
 
 10:00、署から連絡がはいった。
 遺体の様子から事件の疑いが否定できないので、鑑識がこれから実況検分するというのだ。なんでも親父の遺体には目の上にアザがあり、それが死因の可能性がある、というのである。
 やがて朝から面倒を見てくれている警察官2名と、新たに鑑識のおっさん2名がやってきた。鑑識組は
カラス天狗のようなマスクをして、いかにも捜査のプロ、と言う感じである。
 
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 鑑識の2名はキビキビと捜査を進めた。捜査のプロの前では所轄の警察官は気のいい田舎の駐在さんにしか見えない。
 やがて捜査を終え、カラス天狗は私にささやいた。
 「息子さん、これね、事件だと思います?」
 「・・・(オレが犯人ってこと?)」
 「外から侵入した形跡はないしね。どうです?」
 「あの、あの、私じゃない、いえ、事件じゃないと思いますけど・・・」
 「そうですか。事件じゃないと思われてるんですね。ふ~ん、では、死因は不明ながら自然死ということで処理を進めましょう~」
 
 なんだ、最初からそう言ってよ。
 つまりこれも、事件の可能性もきちんと調べろ~、手抜き捜査だ~とか後からワーワー言わせないためのクレーム防止テクニックなのだ。
 ああ、一億総クレーマー社会日本、いったいお前はどこへ行く。
 
 捜査が無事終わると駐在さん風が近づいてきて、遺体は巡回検屍官を待つことなく署から「東京都監察医務院」(文京区大塚)に搬送し、頭部のCTスキャンを行うことになった、検査後に遺体を返すので葬儀屋と13:00頃に大塚まで来い、とのこと。やれやれだ。
 
 12:30、葬儀屋が遺体搬送用ワゴンで迎えに来た。霊柩車を期待していたのだが、地味なクルマである。まあそれでも今日はずいぶん「働くクルマ」の世話になっている。
 担当はつい最近までファーストフード店の店長をやっていたという明るい若者だ。全体に葬儀屋のチャンコがしみていないのは致し方あるまい。
 車中で、
・ 遺体を焼いてお骨を田舎に持っていくこと
・ こっちでは一切葬儀めいたことはしないこと
・ 坊主も無用であること
を告げ、大した利益にならないがということでお願いした。
 すると若者もそれなりの営業努力を見せ、お寺にまず連絡した方がよい、お寺によっては勝手なことすると埋葬を拒否することがある、電話番号わかれば私がお寺に連絡します、と言う。要は、
「お寺さんが『せめて読経だけはするように』と言ってます」とかで5万円~の読経料を請求したいのだろう。
 寺と葬儀屋、
 医院と処方箋薬局、
 パチンコ屋と景品買い、
癒着三悪である。
 
 「埋葬拒否、ああ上等だね」私は声を荒げた。
 全国約10万の寺のうち7割は倒産寸前でさらに寺離れは加速している、そんなご時世で生意気なこと
言う寺があるならこっちから縁を切って樹木葬にするからね、だいたいオレはあいつら大嫌いなんだよ、
というと、若者は
「そうですね~」とどこまでも明るい。フライドポテトいかがでしょうか、いらないよ、そうですか~という感じで何ともしまらない。
 
 14:00 監察医より死体検案書が交付された。
 死因「老衰」。
 これにて一件落着~と言いたいところだが、検査の終わった遺体はさきほど所轄の警察署が持って帰った、という。普通は遺族や、まして葬儀屋はここまで足を運ばず遺体と検案書は警察署で受け取ることになっているそうだ。ったく、毎日のようにやってんじゃないの?
 
 15:00、遺体を署で受け取り、葬儀屋へ。
 「火葬コース」というやつで約30万円なり、だ。
 遺体を焼くのは2月4日で確定した。遺体と一緒に家に帰ろうとすると、遺体は葬儀屋の冷蔵庫に安置します、というのでまたバンに乗っけてもらって単身帰宅した。
 
 17:00、なんか疲れた私は赤ワインを飲み始めた。悲しくはないが、やはりいろいろな思いが去来したのだろう、あっという間に一本空いてしまった。
 
 18:00、まあいいか、酒飲むのが一番の供養だな、ということで私は2本目のワインの封を切った。
 
 そういえば朝からドタバタして親父の死に顔を見てないことに気づいた。
 親父の遺体も朝から荻窪病院→警察署→大塚→警察署→葬儀屋と忙しい一日だった。今頃葬儀屋の冷蔵庫で安らかに眠っていることだろう。
 
(享年90)