アメリカの医学生にとって最大のイベント、何だと思いますか?


3月に行われるマッチングです。


この日の為に、1年生の第1日目から、脇目も振らずに歩んで来たと言っても過言ではありません。


今日はそんなマッチングまでの道のりパート1をみていきたいと思います。


パート1はとっても恐ろしいアンマッチの話です。


マッチングプロセスが特殊な眼科、泌尿器科については他の先生のブログ等を参照して下さい



今更ではありますが、アメリカの医学部は日本と違い大学院で4年制です。


つまり最初の2年間は机の上で過ごし、残りの2年間を実習で過ごします。


そして、最初の2年間で大体の将来の方向性を考えて、3年生の実習時にそれを確かめる、又は軌道修正するようにしなくてはいけません。


なぜなら、4年生が始まってすぐにERAS(オンライン研修医アプリケーションシステム)の締め切りがあるからです。


ERASについて詳しくは「アメリカで医者になるには-医学部4年生編」を参照して下さい



このERASを通して、希望の病院の科に対して、アプリケーションを一斉に提出します。


そして、ここで決まる科が、後の医者としての人生を送る科になります。


さて、ここからは恐ろしいアンマッチのいくつかの実例を元に、マッチングについて説明しましょう。


実例1-アンマッチ:

一番恐ろしいのは、アンマッチです。


アンマッチとは、カップル不成立と考えていただければ、わかりやすいかもしれません。


もしアプリケーションを提出したにも関わらず、提出先の病院全てから受け入れられない(アンマッチ)場合、職なしになってしまいます。


実際毎年何人もの優秀な学生が、MD(医師免許)を持ちながら、仕事につけない話を耳にします。


こうした場合、翌年にもう一回マッチングプロセスに参加することは可能ですが、アンマッチの確率は更に上がります。


一年目の医学生のマッチング率95%に対して、ニ年目は75%(AMA アメリカ医学会参照)とガクッと落ちます。三年目は当然更に下がります。


一つの理由には、一年目のアンマッチの事実が一生ついて回ることでしょうか。


とても、恐ろしいことです。


アンマッチするいくつかの理由は

STEP1のスコアでアプリケーションを読まれる前に首切り

・成績が低い

・面接が上手ではない

・研究が足りない(科による)


最も重要なことは、現実を見ることです。


厳しいことですが、例えば4年生になる頃には、果たして本当に自分が最高峰で最人気の整形外科等にマッチするだけの成績を収めて来たかはわかります。


それを満たしていないことを知りながら、ギャンブルするとアンマッチの確率が一気に上がります。


しかし、"give it a shot" (一発撃ってみる<ギャンブル>)することは悪いことではありません。


例えば、偏差値が低くて東大を勢いで受けてしまっても、運良く受かるかもしれません。


なので、こうしたアンマッチを防ぐために「滑り止め」を多くの学生は張りながらギャンブルをします。



実例2-滑り止め:

実例1のいわゆる「最悪のシナリオ」を避けるために、多くの学生は滑り止めを用意します。


滑り止めには2種類あります。

・ランクの低い病院も受ける

・競争率の低い科も受ける


ランクの低い病院とは、一概には言えませんが、要は自分の希望する場所、生活などに合致しない病院です。


アメリカは東海岸と西海岸では、病院の雰囲気だけでなく、社会の雰囲気も全く違います。なので、希望する地域にマッチすることも非常に重要です。


さて、「競争率の低い科を受ける」というところに少し注目してみましょう。


アメリカでは、仕事内容、給与、生活内容で著しく競争率が科によって違います。


例えば、Aさんの生涯の夢は世界の脳外科医になることだとしましょう。


しかし、Aさんの成績などが、脳外科にマッチするには難しいとします。


Aさんは、内科を滑り止めにすることにしました。


内科のレベルが低いわけではなく、内科のポジションは毎年脳外科の十数倍あるので、内科を受験することでマッチの確率が上がります。


マッチングの結果、Aさんは脳外科はアンマッチでしたが、内科にマッチしました。


さて、ここで問題になるのが、マッチしたにも関わらず、「やっぱりやめた」とは絶対に言えないことです。


これは、ERAS(オンライン研修医アプリケーションシステム)またAMA (アメリカ医学会)の契約違反となり、場合よっては契約違反者としてマッチングプロセスから追放、つまり医学会から追放となります。


マッチングしたら、地の果てだろうと行かなくてはいけない。


それが決まりです。


多くの学生は、色々なことを天秤にかけます。


アンマッチして、次の年に低い確率ではあるが、やりたいことを追求するか(再度アンマッチの確率高)


滑り止めにマッチして、希望しない科で一生を過ごすか


研修医先で、1年間働いた後にマッチに再参加することは可能です(契約違反ではない)が、マッチする確率は更に下がります。




Aさんは、内科にマッチしたので、内科の研修医として働かなくてはいけません。


もしそれが、自分が思い描いたものとあまりにも違ったらどうでしょうか?


医者という職業は、科によって全く違います。決して一括りには出来ない程、仕事内容また雰囲気が違います。体育会系だったり、文化系だったり様々です。


毎年、研修医の中で20%程度が鬱などの精神的な症状が見られるとの報告もあります。そして、その多くの人はこのようなプロセスを経て研修医生活を送ってる人達との見方があります。※一概には言えませんが



実例3-スクランブル:

さて、最後にスクランブルについてみてみましょう。


マッチデーというものが、三月の第三金曜日にあります。


マッチデーに、研修医先が発表されます。


その前の月曜日、つまり第三月曜日に、emailで「マッチしてるかどうか」の届きます。


つまり

・第三月曜日: マッチしてるか?

・第三金曜日: どこにマッチしたか?


この順番で発表があります。


その理由は、アンマッチした学生、またプログラムを救済するためです。


第三月曜日に、アンマッチのメールを受け取った学生は、学校に集められます。


それは、スクランブルするためです。


毎年、全国に募集人数に満たなかったプログラムが出て来ます。


そして、そのプログラムに新しいアプリケーションを再提出して、電話面接を48時間し続け、どうにかその週の金曜日(マッチデー)に間に合わします。これが、スクランブルです。


職なしになってしまう可能性大の学生と、働く馬力が無くなってしまう病院のどちらもまさに生死をかけた死活問題です。


まさに寝ずの数日が続きます。アメリカ国内に時差があるためです。


電話の前でひたすら病院からの電話を待ち続けなくてはいけません。


当然、希望の科などとは言ってられません。まさに手当たり次第西海岸から東海岸の全ての、人数割れしている病院にアプリケーションを提出していきます。


この救済措置でマッチしなかった場合に、遂にアンマッチとなります。




上記の3つが、なぜマッチングがアメリカの医学生にとって重要、かつ恐ろしいかです。


自分もそのプロセスを思い出しながら、戦々恐々としてしまいました。


次回はマッチングプロセスパート2を書きたいと思います。





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