精神科看護「まごころ草とばいきん草」

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精神科看護に関する自分なりの覚書

行って見て聞いた 精神科病院の保護室 三宅薫 感想

 

行って見て聞いた 精神科病院の保護室

行って見て聞いた 精神科病院の保護室

 

  この本は35の精神科病院保護室を取材し、丹念に観察、写真を撮り、看護師から聞き取りをして記録にまとめているものです。取材された病院は次の通りです。

 

【東北 1例】
福島県
一陽会病院 
【関東 18例】
埼玉県
深谷病院、埼玉県立精神医療センター

千葉県
初石病院、秋元病院、海上寮療養所、千葉病院船橋北病院B棟・D棟、木村病院、千葉市立青葉病院、浅井病院、袖ケ浦さつき台病院、木更津病院

東京都
成仁病院、井之頭病院、長谷川病院

神奈川県
日向台病院、相州病院
【中部 15例】
岐阜県
のぞみの丘ホスピタル急性期・慢性期

静岡県
静岡県立こころの医療センター

愛知県
犬山病院、愛知医科大学病院、東尾張病院 急性期・開放病棟、愛知県立城山病院急性期・閉鎖病棟開放病棟、北林病院、桶狭間病院藤田こころケアセンター、刈谷病院、京ケ峰岡田病院、南知多病院
【関西 3例】
三重県
三重県立こころの医療センター

大阪府
丹比荘病院、浅香山病院
【四国 2例】
高知県
土佐病院

愛媛県
松山記念病院

【九州 1例】
佐賀県
肥前精神医療センター

 

 関東と中部に偏ってますが、これは三宅氏が一人だけでの取材であること、途中まで個人負担で行っていたこと、病棟勤務の看護師として働きつつ行っていたことからそうなっています。しかしながらそれでも丹念に細やかに取材された本著は間違いなく様々な示唆を含んだ名著と言えます。その細やかさはまるで妹尾河童の本のよう。

 

 多くの人はこれほどまでに保護室を見る機会はないですから、このようにまとめられることで、自分の病院と比較検討をしたり、独自性を見出したり、取り入れられそうな関わりを学んだりすることができます。ふつう、保護室はあまり公にされませんから非常に有益で、唯一の本だと言えます。

 

 精神科の保護室は病院によってさまざまで、私も入職の際にはいくつかの病院を見学して回ったのですが、これ!という最適解というのはないものなんですね。例えばトイレ1つをとっても、和式がいいのか、洋式がいいのか、ステンレスがいいのか、陶器がいいのか、はたまたトイレを設置するのは居住空間からの視点ではナンセンスなのか・・・。さまざまに看護観がわかれる部分だと思います。

 

本著は次のような構成で書かれています。 

 

I.写真で見る35病院の保護室

II.病院印象記+各病院の看護師さんが持っている意見

III.保護室における生活の援助とは

 

I.写真で見る35病院の保護室

 見開き1ページで、病院の概要と方針、病棟全体の見取り図、保護室の俯瞰図と各々の大きさ、アンダーウッドのセルフケア理論に基づいた視点での取材結果とまとめられており、非常に視覚的に整理され見やすくなっています。

 写真もどこの病院も10枚以上の記載があり、書面だけで想像がしやすくなっています。全体的な内部の写真から、ドアの構造、中から見た雰囲気、トイレ、窓、特筆点などが豊富に紹介されています。

 

 このように保護室のイメージがしやすいだけでも十分に病院ごとの個性が垣間見え、興味深く読むことが出来ますが、さらに取材コメントで以前こう言った例があったのでこうしている、とかこういう工夫を求められ行っている、とかその病院の看護観もつぶさに読み取れ、考えさせられることの多い、学びの深い資料となっています。

 

II.病院印象記+各病院の看護師さんが持っている意見

  さらに、こちらの項目ではその病院それぞれの看護観により引き寄せて記事が書かれています。1病院当たり40行程度で、めちゃくちゃ文面が多いというわけではないのですがそれぞれの方針が読み取れ、面白い。

 例えばある病院では室内にトイレを置かないという方針をとっているところがあれば、またほかの病院では患者さんからの要望で保護室内のトイレドアを常に開放するようにしていたりと、全く逆のことをしていることが多いです。

 またほかの点では患者さんが自由に放歌できるようにしっかりとした防音施設を用意したいと希望しているところがあるかと思えば、ある程度の音が漏れ聞こえる方が安全管理の面で必要だと訴えている病院もあります。

 

 そこから読み取れることは、冒頭でも書いた通り、最適解はないという事だと思います。保護室というのはこれだけ整えておけば後はOKというような、ハードだけで完成するようなものではないということです。もちろん、踏まえておくべき点はいくつかあるかと思いますが・・・。

 もちろん、最も良い方法は隔離・拘束をしないで済むという状況だと思います。

 

 2017年の5月、神奈川で痛ましい事故がありました。決してこれは他人事ではありません。最重要視するべき問題だと思います。

yomidr.yomiuri.co.jp

 それと同時に、保護室を使わざるを得ない状況であることは事実です。そんな保護室は、最適解はない。となると、ハードだけでは補えない。そこで求められているのはソフト面、つまり看護師のかかわり方が重要だということです。

 

III.保護室における生活の援助とは

  この項目ではアンダーウッドのセルフケア理論に基づいて、清潔、排泄、食事、開放観察、寝る環境、患者さんから見えるもの、換気、まとめとして生活の援助と8項目を軸として35病院の保護室について考察をされています。

 例えば清潔の項目では、保護室入室の人の入浴・清拭回数の取材結果が載せられています。最も多いのは週3回、次に週2回で、その二つで80%を占めています。そのほか、歯磨きのことや手洗いの事等、事細かに生活に密着した視点と態度で考察が深められています。

 ここでも、病院によって考えている方針が違うということが明らかになっています。例えば食事のテーブルでも、「床で食べてもらうほかないんじゃないの?」という病院や「段ボール製の机、これに限る」という病院、「普通に机入れてます・・・」という病院など様々。もちろんすべての患者さんを画一的に対応しているわけではないと思いますが、デフォルトの考え方がそうであるということが、自分の病院の方針を点検するためにもよく役立ちます。

 

 生活に密着した細かい点まで指摘されて取材されています。きめ細やかな視点で、リアリティのある取材です。本当に見分が広がる、良い著書となっています。機会があればぜひ手に取って下さい。

 取材を許可された病院だけで、”真の”保護室の実態、という部分にはもしかしたら該当しないかもしれませんが、「見てもらっても良い」と言っている病院でも、こういう感じなんだなあという風に感じたのが個人的感想です。見分を広げるためにも、ぜひどうぞ。

 

行って見て聞いた 精神科病院の保護室

行って見て聞いた 精神科病院の保護室