暗躍する都市伝説の女

城山真一『天才株トレーダー・二礼茜 ブラック・ヴィーナス



前半は良い。でも後半は……という感じだった。ヒロインにはぜひとも謎の人のままでいてほしかった!

窮地に立たされた人を天才的な株取引で救う無認可トレーダー、経済版ブラック・ジャック。助けを求める声に、意外な対価を要求しつつも淡々と応じる姿はかっこいい。
個人的には和菓子屋のエピソードが特に好きだ。清々しい結末で。

しかし、後半では彼女の正体が明かされるとともに、対峙する問題が国家レベルに。そうなると話の性質もちょっと違ってくる。

トレーディングなんて、誰かが得すれば誰かが存する仕組みには違いないだろう。「皆が幸せ!」なんて方向には、どうしたって行きようがない。取引で救われるのは常に「特定の誰か」だ。だから、地方の都市伝説として語られる「黒女神」はしっくり来ていた。
だが、国家レベルの問題となると、目的は「国益」ということになってしまう。そして、敵=外国人(特に中国人)という構図が立ち現れる。その展開、何かちょっと危うさを感じざるを得ない。
正直、そこまで明確に敵対しない解決法もあったろうにと思う。それでも自然な流れで敵対への道を歩んでしまうのは、やっぱり物語が株取引を主軸にしているからなのではないだろうか。登場人物たちも当然のように対立を受け入れる。それが何とも気味悪く感じられた。

そんなわけなので、ラストにはちょっとほっとしたりもした。彼女たちには、目の前で雨に濡れている人をただ助ける、そういう存在であってほしい。そうしみじみと思った。



ちなみにカバーイラストがかっこよくてジャケ買いしました。

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