家の記憶たちと狂気

恩田陸『私の家では何も起こらない



丘の上に佇む一軒の洋館を舞台とした連作短編集。
「幽霊屋敷」とも呼ばれるその家には、いくつもの悲劇の記憶が積み重なっている。そして、そこで起こった悲劇は、時を超えて住人を感化していく。次の住人も、また次の住人も……。じわじわと狂気が沁み込んでいく「私の家」の物語。薄暗い恐怖感が漂う、静かなホラー小説だ。

最初の物語では、登場人物によって「この家に起こった悲劇」のいくつかが語られる。そこからも分かるように、これは人を「ウワッ」と驚かせるようなホラーではない。が、淡々と悲劇に向かっていく不気味さに、始終ぞわぞわさせられる。

ただし、『俺と彼らと彼女たち』だけはちょっと毛色が違う。
誰も手を付けたがらない幽霊屋敷の修理にやって来た大工の奮闘は、何ともコメディ調。あくまで部外者という立場だからか、湿っぽさとは無縁だ。
これが最後の一編だったら、ちょっとハッピーエンドらしきものになったのではないだろうか。

ちなみに私は3番目の短編『我々は失敗しつつある』の意味がよく分からなかった。他の短編と共通する事件が描かれるのだけれど……。解釈によっては他の短編の見え方も少し違ってくるかもしれない。


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