共同名義人が行方不明の場合、任意売却を諦めるしかない?任意売却をする方法は?

住宅ローンを連帯債務で借りている場合、共有名義人が行方不明になるケースがあります。たとえばですが、離婚後、元夫との連絡が取れなくなり消息が分からないというケースです。そして、連絡が一切取れない共有名義人が住宅ローンを滞納している場合、競売を回避して住宅を任意売却することはできるのでしょうか?

今回は、共有名義人が行方不明の場合に住宅を任意売却する方法を紹介していきます。

名義人が行方不明の場合

住宅ローンの連帯債務などで共有名義になっている住宅を任意売却や売却するためには、原則として共有名義人全員の同意が必要になります。1人でも反対していると任意売却をすることは不可能です。

そして、結婚をしているときに夫婦の共有名義で住宅を購入したものの、離婚をして夫が住宅を出て行ったとします。元夫が住宅を出ていった後、住宅ローンを滞納するケースがあります。

仮に離婚協議書などで、住宅ローンは今後も引き続き夫が支払うと約束をしたのにも関わらず、離婚協議書というのは元妻と元夫の私的な約束であり、住宅ローン債権者にとっては関係ない話です。そのため、連帯債務である以上、元夫が約束を破り住宅ローンを滞納すれば、その分、住宅ローン全額が元妻に請求されることになります。

ここで、元妻が住宅ローンを代わりに支払うことができれば問題ありませんが、支払うことができなければ、住宅ローンの期限の利益を喪失してしまい、住宅は競売にかけられてしまうでしょう。

元妻がするべきことは?

まず、元妻がすることは戸籍の附表に登録されている最新の住所を調べることから始めます。

たとえば、電話での連絡がつかない、知らない間に引越しをしていた、実家に問い合わせても居場所がわからない場合、元妻は「戸籍の附表」から現在の住民登録されている夫の最新の住所を調べる必要があります。
戸籍の附表とは、住民表に登録されている最新の住所を確認できるものです。

元妻であれば、条件によっては比較的簡単に元夫の戸籍の附表を取得し、現在の住所を確認できる可能性が高くなります。

もし、単に元妻に黙って引っ越しただけであれば、行方不明ではありませんので、勝手に元夫の財産を処分することはできません。現在の住所を特定して、住宅ローンの支払いを求めるか、任意売却に協力をしてもらうように説得をすればいいわけです。

元夫の現在の住所地が戸籍の附票からわかる理由

電話やメール・郵便物で連絡がつかなくなった場合、すぐに思いつく方法としては、元夫の実家に連絡をとって居場所を聞く、元夫の職場に連絡をして現在の住所などの方法もあります。しかし、そもそも、実家の連絡先を知らないケースや職場も転職して連絡がつかないケースも多々あります。

この場合、条件によっては戸籍の附票を取得することで、元配偶者の現在住所を確認することができる場合があります。

戸籍の附票とは、その人の戸籍の情報と住民票の情報に紐づけされています。戸籍の附票を手に入れることができれば、その戸籍に載っている人の現在の住所(住民票に登録されている住所)がわかります。

引越をして住民票を移動させるたびに、その履歴が戸籍の附票に残ります。

そして、附票の全部証明を取得すれば、1枚でその戸籍に属している全員の住所がわかります。本籍に属している間の住所変更履歴はすべて記録として保存されます。住定日が一番新しいものが現在、住民登録されている住所になります

元夫の現在の本籍を探すことはできるのか?

日本中の膨大な戸籍の中から1つの戸籍を特定するためには、「本籍地」と「戸籍の筆頭者」の2つが必要です。この2つの条件で絞り込んで検索をしていくことで、戸籍は1つに特定することができます。本籍地と戸籍の筆頭者がわからなければ、戸籍を特定することはできませんし、戸籍を取得することもできません。
本籍地とは、その戸籍を管理している住所地です。日本のどこに本籍をおいても自由であり、いま住んでいる場所、過去に住んでいた場所、生まれた場所、先祖のゆかりの土地、どこでもいいのです。まったく関係ない土地でも構いません。他の知らない誰かと本籍地がかぶっても問題はありません。ただし、戸籍は本籍地の管轄役所で管理されていますので、戸籍関係の書類は本籍地の役所でしか取得できません。
筆頭者ですが、戸籍の先頭に記載されている人の名前です。夫婦で姓として選んだ側が筆頭者になります。夫が「横溝」妻が「江戸川」で、結婚して双方が横溝になれば筆頭者は夫、江戸川は筆頭者の妻になります。離婚後、妻が1つの戸籍を作った場合、筆頭者は妻になります。

元夫婦の場合、少なくとも婚姻時に同じ戸籍にいたわけですから、たとえ除籍になっていたり転籍していたりしても、過去の戸籍から辿ることで、元夫の現在の戸籍もわかります。

本籍にたどり着くまでのながれ

  1. 婚約時の本籍の戸籍謄本を請求
  2. 転籍・結婚で除籍謄本になっている
  3. 除籍謄本で転籍先を確認し、次の本籍に戸籍謄本を請求
  4. 除籍謄本になっていた
  5. 除籍謄本で転籍先を確認

これを繰り返します。

除籍謄本とは、転籍や死亡によって、その戸籍に誰も人がいなくなったとき、その戸籍は除籍謄本になります。たとえば、離婚して夫1人になった戸籍で、元夫が転籍すれば(本籍地を他の場所に移すことです。転籍するときは、戸籍の人間が全員一緒に転籍します。)、元の婚約時の戸籍は除籍謄本になります。戸籍は本籍地と筆頭者の組み合わせであり、転籍で本籍地が変われば、元の戸籍は除籍謄本になります。

除籍謄本という名前のデータになるだけで、戸籍の情報が破棄されるわけではありません。履歴として残りますので、昔の本籍地の役場で除籍謄本を取得することができます。たとえば、元夫が転籍した場合でも、婚約時の本籍地で「除籍謄本」を取得すれば、次の本籍地に移動したかがわかります。

除籍謄本の戸籍事項を見れば、転籍後の新本籍が記載されますので、これが次の本籍地になるわけです。

一か所でも過去の本籍地がわかれば、そこの除籍謄本(または除籍の記録)から辿ることで、現在の本籍もわかります。本籍がすぐに変わる場合、毎回、その本籍の管轄の役所に除籍謄本を請求しなければならないので、非常に面倒です。しかし、少なくとも、どこかで痕跡が途絶えるということはありません。

元配偶者の戸籍の附票を請求する権利はあるのか?

前述してきたように、元夫の現在の戸籍の附票を取得すれば、現在の住所がわかるということになります。ここで問題となるのが、現在は他人である元妻が元夫の戸籍の附票を請求することができるかどうかです。

戸籍の取得方法には、無条件で取得できるケースと正当な理由を説明することで取得できるケースの2つの方法があります。

まず、無条件で取得できるケースですが、

  1. 戸籍に名前が記載されている本人が請求する
  2. 戸籍に名前がある人の、配偶者が請求する場合
  3. 戸籍に名前がある人の、直系尊属が請求する場合
  4. 戸籍に名前がある人の、直系卑属が請求する場合
直系尊属とは、父、母、祖父母など直通する系統の祖先のことです。そして、直系卑属は子供、孫などの直通する系統の子孫のことです。

そして重要なのが「戸籍に名前が記載されている本人」です。妻が離婚して戸籍から除籍された場合、元夫の戸籍には残りません。しかし、元妻の名前も除籍された人として残っています。つまり、元妻も本人として無条件で元夫の戸籍(戸籍謄本、戸籍の附票)を取得することが可能です。

これは、戸籍法10条にて定められています。

第10条
1.戸籍に記載されている者(その戸籍から除かれた者(その者に係る全部の記載が市町村長の過誤によつてされたものであつて、当該記載が第二十四条第二項の規定によつて訂正された場合におけるその者を除く。)を含む。)又はその配偶者、直系尊属若しくは直系卑属は、その戸籍の謄本若しくは抄本又は戸籍に記載した事項に関する証明書(以下「戸籍謄本等」という。)の交付の請求をすることができる。
2.市町村長は、前項の請求が不当な目的によることが明らかなときは、これを拒むことができる。
3.第一項の請求をしようとする者は、郵便その他の法務省令で定める方法により、戸籍謄本等の送付を求めることができる。

逆に元妻が離婚後、新しく1人で戸籍を作った場合、その戸籍には夫の名前は一切でてきませんので、元夫が元妻の戸籍を本人の戸籍として無条件で請求することは不可能です。

また、夫が戸籍を転籍してしまった場合、元妻の名前は新しい戸籍には反映されません。そのため、元夫の新しい戸籍を妻が本人の戸籍として無条件で取得することはできませので注意をしましょう。

本当に行方不明の場合は?

住民票に登録されている住所に住んでいない、もしくは、身内でも元夫の居場所がわからないという場合は、本当に行方不明になっているというケースでは、「不在者財産管理人」の制度を利用できる可能性があります。

不在者財産管理人とは、裁判所が選任する管理人のことであり、行方不明になった不在者に代わって、その人の財産を管理・保全します。

不在者財産管理人の選任は民法25条にて決められています。

第25条
1.従来の住所又は居所を去った者(以下「不在者」という。)がその財産の管理人(以下この節において単に「管理人」という。)を置かなかったときは、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求により、その財産の管理について必要な処分を命ずることができる。本人の不在中に管理人の権限が消滅したときも、同様とする。
2.前項の規定による命令後、本人が管理人を置いたときは、家庭裁判所は、その管理人、利害関係人又は検察官の請求により、その命令を取り消さなければならない。

不動産などの財産は、適切に管理(メンテナンス・保守点検・固定資産税の支払いなど)をしなければ、不動産価値を維持し続けることは不可能です。

そのため、基本的には所有者の自己責任ですから放置しておけばいいのですが、財産を放置することで債権者・相続人・共同名義人などが損をする場合、彼らの利害関係人が裁判所に申し立てることで、不在者財産管理人を選任することができるのです。

不在者財産管理人を選任して、任意売却をするためには?

不在者財産管理人を選任するためには、本当に元夫が行方不明だと裁判所に認定してもらう必要があります。住んでいる場所は特定しているけれど、居留守を使われる、電話に出ない、連絡一切を無視するという場合は、行方不明ではありませんので、不在者財産管理人の制度を利用することは不可能です。

不在者であると認めてもらうための条件

不在者財産管理人とよく比較される制度に「失踪宣告」があります。失踪宣告は、裁判所がその行方不明者を死亡したとみなす制度です。失踪宣告の場合、行方不明が認識された時点から7年が経過して失踪宣言が成立します。

失踪宣言の場合、行方不明の認識時点から7年経過しないと認定されません。一方で、不在者財産管理人の制度では、失踪宣言のように行方不明になってから何年以上といった期間の定めはありません。
ただし、「容易に帰来する見込みがない者」が条件になっています。そのため、1ヶ月~2ヶ月間程度、元夫の行方不明というだけでは、不在者財産管理人の選任が認められません。目安としては1年以上です。ただ、ケースバイケースであり明確な定義はありません。

ちなみに、不在者財産管理人制度の場合では、行方不明の不在者は、死亡したとはみなされません。不在の期間中に財産を代わりに管理する人を選任する手続きに過ぎません。この点も失踪宣言とは異なります。

不在の事実を証明するための書類の提出

元妻が不在者財産管理人の申立てをする際には、裁判所に元夫が不在であることを証明する書類を提出する必要があります。

たとえば、不在者宛で返送された郵送物、行方不明者届の受理証明書などを提出します。さらに、裁判所が実際に不在かどうか確認するために、裁判所は家族や親族にも、本当に行方不明なのかなどの事情の聴取をおこないます。

不在者財産管理人の申立てには、ほかにも以下の提出書類が必要になります。

  • 不在者財産管理人選任申立書
  • 不在者の戸籍謄本・戸籍の附票
  • 財産管理人候補者の住民票・戸籍の附票
  • 不在者の財産の関する資料(不動産の登記事項証明書など)
  • 申立人との利害関係を証明する書類

不在者財産管理人の申立てることができるのは、下記の人物です。

  • 不在者の身内や親族
  • 債権者
  • 共有名義人
  • 相続人などの利害関係人

ただし、不在者であことを証明するための「行方不明者届」は誰でも出せるわけではありません。行方不明者届を出すことができるのは、原則として親権者や配偶者、後見人、密接な関係にある恋人、同居者、雇い主などに限定されています。日常で接点のない元妻では行方不明届を出すことは不可能です。

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そのため、郵便物などで証明をするか、元夫の身内に行方不明届を出してもらうのが、現実的な方法でしょう。

不在者財産管理人になるための資格について

不在者財産管理人は、申立人が候補者を立てることができます。そして、不在者財産管理人に選ぶべき人物に何かしらの資格が必要かといえば、資格は必要ありません。適任であればだれでも大丈夫です。一般的な不在者財産管理人は親族などです。

しかし、不在者と直接、利害関係がある候補者は裁判所に却下される可能性があります。不在者財産管理人は、あくまでも不在者に少しでも有利になるよう、財産を管理・保全するのが役割です。

そのため、法定相続人など不在者と利害関係のある人物というのは、不在者財産管理人には適任ではありません。

もし、申立人が立候補屋を立てなかった場合、家庭裁判所が弁護士・司法書士などかから不在者財産管理人を選任します。

裁判所から弁護士などが選任された場合、彼らに支払う報酬が発生します。不動産などの財産から支払い可能な場合は、不動産の売却金額から支払われます。しかし、不動産などの財産から支払うことができない場合には、別途、報酬となる数十万円の予納金を裁判所へ納める必要とします。

住宅を任意売却するための「権限外行為許可」について

不在者財産管理人の役割は、あくまでも財産の管理や保全です。不在者が見つかるまでの間、財産を管理するのが仕事であり、任意売却に協力するというのは、原則として認められていません。

これは、民法103条にて決められています。

第103条(権限の定めのない代理人の権限)
権限の定めのない代理人は、次に掲げる行為のみをする権限を有する。
一 保存行為
二 代理の目的である物又は権利の性質を変えない範囲内において、その利用又は改良を目的とする行為

住宅を売却しなければ、滞納処分や差押えにより住宅が競売になってしまうようなケースでは、裁判所に「権限外行為許可」を申立てることにより、売却の許可が認められる可能性があります。

権限外行為許可が認められるのは、以下のケースです。

  • 固定資産税が払えず、住宅の維持が困難な場合
  • 不在者が住宅ローンやその他の債務を滞納している場合
  • 建物が極度に老朽化しており、修復や取り壊し費用もない場合

そして、本記事のように元妻が元夫の連帯債務になっているケースは、「不在者が住宅ローンやその他の債務を滞納している場合」の理由により、住宅の任意売却が認められる可能性があります。

第28条(管理人の権限)

管理人は、第103条に規定する権限を超える行為を必要とするときは、家庭裁判所の許可を得て、その行為をすることができる。不在者の生死が明らかでない場合において、その管理人が不在者が定めた権限を超える行為を必要とするときも、同様とする。

民法28条にあるとおり、権限外行為許可にあたっては、家庭裁判所が「その住宅の売却価格が適正かどうか」「売却の必要性が本当にあるか」などをチェックします。

まとめ

共同名義人が行方不明の場合、任意売却をすることができません。任意売却をするためには、共同名義人全員の同意を必要とするからです。

しかし、家庭裁判所へ申立てることにより、不在者財産管理人を選任することで、任意売却をすることができる可能性が出てきます。家庭裁判所に不在者財産管理人の権限外行為許可を認めてもらうことにより、共同名義人が行方不明の場合であっても任意売却をすることが可能です。

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